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17 女の子かと思ったら、フラワーゴーレムでした

 アンジュさんたちが抱えて運んできたのは……花のドレスに身を包んだ、お姫様みたいな女の子だった。

 最初は生きてるのかと思ったんだけど……よく見たら、花でできた人形だった。


 でも、そう見紛うほどに精巧な作りだ。

 遠目からだと、ボクと同じ歳くらいの女の子にしか見えない。


 髪の毛は黒い花で、肌は白っぽい花で作られている。

 顔にはちゃんと目や鼻や口、耳までついてるし、手にはちゃんと指まであった。


 大雑把なピエールに比べると、かなり繊細で……力を入れると折れちゃいそうなほどに華奢だ。


「すごいでしょー? 花でできたゴーレム……フラワーゴーレムよ!」


「フラワーゴーレム!?」


「そう! アタシ、ゴーレムを作るのにずっと憧れてたんだ! ああ、これが動きだす姿を想像しただけで……どうにかなっちゃいそう!」


 夢の中にいるみたいな表情で、身体をくねくねさせるアンジュさん。


「さぁ、ソラ! さっそくこの子に生命を吹き込んであげて!」


 そこでボクは「えっ」となった。


「あ……ボクの奇跡を使うの?」


「とーぜん! だってキミ、神様なんでしょ!?」


「それはそうなんだけど……アンジュさんは奇跡を使えないんだ?」


「アタシはまだ天使だから……使える奇跡は、花をイキイキさせることくらいしかできないの」


「そうなんだ……でも、この子をゴーレムにしちゃったら、ピエールが壊れちゃうよ」


「だったら『ゴーレム』にもう1ポイント振って、2体作れるようにすればいいじゃない! もしかして、もうポイント残ってない?」


「いや、まだあるけど……そっか! もう1ポイント振ればいいんだ!」


 そういえば、オジサンに教えてもらったことをすっかり忘れてた。

 ポイントを使っちゃうけど、それでアンジュさんが喜んでくれるならいいよね。


 ボクはホコラに駆け込んで、天空石を操作する。

 奇跡ツリーを開いて『ゴーレム』をタッチし、2ポイントに増やした。


 さっそくオジサンが反応する。


「おっ、『ゴーレム』にもう1ポイント振ったんじゃな。ゴーレム軍団を作るつもりかの? ちなみにポイントを振れば振るほど、ゴーレム単体もパワーアップしていくぞい」


 そうか……ゴーレム軍団という手もあるのか……と思っていると、アンジュさんが隣にいた。

 待ちきれないのか、生まれたての赤ちゃんを見せるように、フラワーゴーレムを差し出してくる。


「さぁ……早く早くっ!」


 ボクは急かされながら、花のお姫様みたいなゴーレムの額に左手を当て「ご、ゴーレム!」と叫んだ。


 すると、フラワーゴーレムの身体をなす花たちが、陽光に照らされたように明るさを増し……ぱあっ、とさらに大きく開花した。


 アイシャドウが入っているような花びらの瞼が、ゆっくりと開く。

 その奥には、黒い石を埋め込んだ瞳がある。


 続けざまに、薄紅の花びらでできた唇が、音もなく開いたかと思うと、


「……はじめまして、マスター」


 たしかにそう、喋ったんだ。


「えっ……ふ……腹話術?」


 ボクは呆気に取られたまま、アンジュさんを見る。

 アンジュさんも驚いた様子で、首をブンブン左右に振った。


「い、いまのは、アタシじゃないよ!?」


「腹話術ではありません、自分が発声しました」


 またしても、花びらの口がパクパクと開閉した。


「ええっ!? ほ、ホントにキミがしゃべってるの!?」


 こくり、と頷くフラワーゴーレム。

 どうにもまだ信じられなくて、ボクは他に犯人がいるんじゃないかと視線をさまよわせる。


 天空石のほうに目をやると、オジサンが笑っていた。


「言葉を話せるゴーレムができたようじゃな。作るためにはいくつかの条件があって、大変なんじゃが……たいしたもんじゃ、1レベルアップじゃぞ!」


「しゃべるゴーレムなんて、作れるんだ……」


「ふふ、これもアタシの実力ね! さあっ、アナタ……!」


 アンジュさんはさっそくフラワーゴーレムに命令しようとしてたけど、途中で言葉に詰まっていた。


「……ねぇソラ、『花』ってフランス語でなんていうの?」


「え? フルールだよ」


「よぉし! 今日からアナタは『フルール』よ! いい?」


 しかし『フルール』と名付けられたフラワーゴーレムは、静かに首を左右に動かし、


「不承諾しました。自分のマスターはアンジュではありません。自分のマスターはソラ。自分はソラ以外の命令は受け付けません」


「ええーっ、そんなぁ!? アナタを作ったのは、アタシなのよ!?」


「身体を作ったのはアンジュでも、魂を入れたのはソラ。したがって、マスターはソラになります」


 フルールの声は静かで、抑揚がない。話してる内容も実に論理的。

 ボクはロボットをイメージしてピエールを作ったんだけど、ピエールよりよっぽどロボットっぽい印象だ。


「うぅ~っ! ソラぁ! この子をフルールって名前にして! それと、アタシの言うことも聞くように言ってやって!」


 泣きそうな顔で、懇願してくるアンジュさん。


「わかった。じゃあ、キミの名前は『フルール』だ」


 ボクがかわって名前を呼んであげると、


「承諾しました、マスター。自分は現時点から『フルール』という呼称に反応します」


 素直に首を縦に動かしてくれた。


「それと……ボクの命令だけじゃなくて、アンジュさんの命令も聞いてあげてほしいんだ」


 これには首を機械的に、サッ、サッ、と左右に振られてしまった。


「不承諾しました、自分はソラ以外の命令は受け付けません」


「そ……そんなぁぁぁ~」


 ヒザから崩れ落ち、この世の終わりみたいな声をあげるアンジュさん。

 うーん、彼女はゴーレムを夢だっていってたから、なんとか叶えてあげたい……。


 ボクは人さし指でこめかみを揉んで、アイデアをひねり出す。


「……えーっと、じゃあさ、アンジュさんの友達になってあげてほしいんだ」


 するとフルールは、首を縦にも横にも動かさなかった。


「友達? ……自分は友達というものが、概念として理解できません。属性についてはマスターかスレイブという要素のみです」


「じゃあボクらが教えてあげるよ! ここにいる集落って、みんな友達だし!」


 ボクはフルールの手を取って、ホコラの外に連れ出す。

 すると外にいたみんながわっと集まってきて、フルールの手を握ったり、頭を撫でたり、抱きしめたりした。


 フルールはかなり愛らしい見た目なので、もうすっかり人気者だ。


 しかし彼女は愛想を振りまくことも、得意気になることもしない。

 かといって戸惑うことも、嫌がることもせず、黙ってされるがままになっている。


「……なぜここにいる方たちは、自分に接触したがるのですか?」


 揉みくちゃにされながら、淡々とした口調でボクに問う。


「そりゃみんな、友達だと思ってるからだよ!」


「これが、友達?」


「どう? いいものでしょ?」


「不承諾しました。概念として、まだ理解できません」


「まあ、少しずつ理解していけばいいよ。じゃあ最初の目標は、アンジュさんと友達になることね!」


 するとフルールは少しの沈黙の後、「承諾しました」と首を前に傾けてくれた。

 直後、ホコラの中で絶望していたアンジュさんが四つ足で這い出てきて、


「うわああんっ! ありがとう! フルール! もう離さないから! ズッ友だよ!」


 膝立ちになって、生き別れの妹に会ったみたいに泣きながら頬ずりしていた。


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 そのあとみんなで火を囲んで、夕食を食べた。


 新メニューである魚を煮たやつは、焼いた時とはまた違ったおいしさがある。

 一緒に入れたドングリやフキも柔らかくなって、おいしく食べられるようになったんだ。


 みんなもおいしいおいしいって食べてくれたんだけど、アンジュさんだけはひと口食べただけで、あとはずっとリンゴをかじっていた。


 火の苦手なフルールと一緒に、輪から少し離れた所で座り込んでいる。

 ボクはちょっと心配になったので、声をかけてみることにした。


「アンジュさん……魚、おいしくなかった?」


 言いながら、彼女の隣に座り込む。


「うーん、おいしくないっていうか……味がしなくて……ソラはおいしいと思った?」


「うん! ボクは大好きだよ! 魚って昨日初めて食べたんだけど、こんなにおいしいものなんだね!」


 それまでアンジュさんはずっと火のほうを見てたんだけど、目を瞬かせながらボクのほうを向いた。


「えっ……? ソラって、魚を食べたことなかったの? 前世でも?」


「うん! でも、魚だけじゃないよ! 前世ではずっと点滴だったから、食べるのはなにもかも初めてなんだ!」


「そっか……だから味のない魚でも、おいしく感じるんだね……」


「アンジュさんが前世で食べてた魚って、もっと味があったの?」


「うん、塩とか、醤油とか、マヨネーズとか、ソースとか……いろんな味があったから……」


 ちょっと寂しそうな、アンジュさんの一言。

 でも、それで気付かされたんだ。 


「そうか……調味料か……!」


 ボクは、次にすべきことが見えてきたような気がした。


  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 夕食後、ボクらは家に戻って寝ることにした。


 家の寝室にはボク、ポポ、ラヴィさんに加えて、アンジュさんとフルール。大勢だ。

 でもベッドは王様が寝るやつみたいに大きいので、五人で寝てもぜんぜん大丈夫。


 なんだけど……なぜかボクだけ居間のほうにつまみ出されてしまう。


「今日から寝室は、女の子専用ね。布団をあげるから、ソラはこっちで寝て」


 まるでそうするのが当たり前みたいに、アンジュさんは言う。


「ええっ、そんなぁ!? なんでボクはダメなの!?」


「男の子と女の子が一緒に寝るなんて、ダメに決まってるでしょ!」


 ぜんぜん納得できない理由だった。


 一緒に水浴びをしようとした時もそうだったけど、アンジュさんは全然論理的じゃない。

 フルールを作ったとは思えないほどに。


 しかしラヴィさんは、「ソラト ネル」と言って居間のほうに来てくれる。

 フルールも「自分もマスターの側にいます」と言ってくれた。


「い……いいもんいいもん! ポポ、一緒に寝よ!」


 アンジュさんは猫のポポを抱えあげて、ふてくされたように寝室に引っ込もうとしたんだけど、


「フミャアン!」


 ポポも腕から飛び出して、ボクのほうに来てくれた。

 ひとりぼっちになって、泣きそうな顔になるアンジュさん。


「うっ……わ……わかったよぉ! ソラも一緒に寝ていいから、みんなで一緒に寝ようよぉ!」


 結局ボクたちは、大きなベッドの上に紙マッチみたいに並んで、仲良く眠った。

■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:12)


 今回は『ゴーレム』に1ポイントを割り振りました。未使用ポイントが2あります。

 括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


 ●創造の奇跡

  魔法生物

   (2) LV1 ゴーレム  … ゴーレムを創る

   (1) LV2 小人成長  … 小人を人間にする

   (0) LV3 ???   … ???

  有機生物

   (1) LV1 絶滅    … 生命を絶滅させる

   (1) LV2 成長促進  … 生命の成長を早める

   (0) LV3 ???   … ???

  回復

   (1) LV1 治癒    … 病気や怪我を治す

   (0) LV2 死者蘇生  … 死んだものを蘇らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●天候の奇跡

  雲

   (0) LV1 雲     … 家の煙突から雲を出せる

   (0) LV2 虹     … 虹を出せる

   (0) LV3 ???   … ???

  風

   (0) LV1 風     … 風を起こせる

   (0) LV2 竜巻    … 竜巻を起こせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雨

   (1) LV1 雨     … 雨を降らせる

   (0) LV2 洪水    … 洪水を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

  雪

   (0) LV1 雪     … 雪を降らせる

   (0) LV2 大雹    … 大きな雹を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???

  雷

   (1) LV1 雷     … 雷を落とす

   (0) LV2 導雷    … 目標に誘導する雷を落とす

   (0) LV3 ???   … ???

  火

   (0) LV1 火の粉   … 火の粉を降らせる

   (0) LV2 火の玉   … 火の玉を降らせる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●神通の奇跡

  神の手

   (1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る

   (0) LV2 ウェポン  … 武器を出す

   (0) LV3 ???   … ???

  神の叡智

   (0) LV1 現界の声  … この世界の声を聞く

   (0) LV2 異界の声  … 異界からの声を聞く

   (0) LV3 ???   … ???


 ●天空城の奇跡

  高度

   (0) LV1 高度アップ  … 天空城をさらに高く飛ばせる

   (0) LV2 天空界    … 「天空界」まで飛ばせるようになる

   (0) LV3 ???    … ???

  速度

   (0) LV1 速度アップ  … 天空城の移動速度があがる

   (0) LV2 高速移動   … 高速移動ができる

   (0) LV3 ???    … ???

  流脈

   (0) LV1 消費減少   … 奇跡力の消費を抑える

   (0) LV2 放出     … 天空城から物体を放出できる

   (0) LV3 ???    … ???

  障壁

   (0) LV1 防御障壁  … 天空城を守るバリアを張る

   (0) LV2 水中潜行  … 水中に潜れるようになる

   (0) LV3 ???   … ???


 ●太陽の奇跡

  気温上昇

   (0) LV1 気温上昇  … 気温を上げる

   (0) LV2 猛暑    … 猛暑にする

   (0) LV3 ???   … ???

  気温下降

   (0) LV1 気温下降  … 気温を下げる

   (0) LV2 寒波    … 寒波を起こす

   (0) LV3 ???   … ???

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