15 空から女の子が、落ちてきました
それは……初めて魚を食べた、あくる日のこと。
「ウギャァァァァァァァァッァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?!?!?」
猫が一生分、尻尾を踏んづけられたような悲鳴と、
……ズッドォォォォォォォォォォォォーーーーーンッ!!!
隕石が落ちてきたような烈震が、集落一帯を揺らした。
ベッドで気持ちよく寝ていたボク、ラヴィさん、ポポは同時に飛び起きてしまう。
何事かと思って家の外に飛び出してみると……天空城の庭には、隕石よりありえないものが埋まっていた。
大の字で地面にめりこんでいる、うつ伏せの女の子。
後ろ姿だけの彼女は、金髪のツインテールで……かつては純白だったであろう薄汚れた布をまとっている。
それと本物かどうかはわからないけど、肩甲骨のあたりから小さな羽根を生やしていた。
どうやら、かなり高いところから落ちてきたみたいだ。
でもそうだとすると、かなりの大惨事のはずなんだけど……マンガみたいな光景だったので、あんまり痛ましい気持ちにならない……。
女の子はまだ生きているようで、「う……ぐぐ……助け……!」と唸っている。
死にかけの昆虫みたいに、背中の羽根をパタパタ動かしていた。
集落のみんなも飛び出してきていたので、力をあわせて女の子をひっぱり出す。
女の子はケガをしてなかったけど、服はボロボロで、ゾンビみたいにぐったりしてた。
しばらく虚ろな瞳をさまよわせていたけど、ボクの顔を見るなり、
「ああーっ!?!? ソラっ!?!?」
目玉が飛んでいきそうなくらい仰天して、ボクの名前を叫んだ。
ボクがいるとわかったとたん、急に元気になったようだ。
「……なんでボクの名前を知ってるの?」
すると女の子は、かわいそうなくらい汚れた顔の目尻をキッと吊り上げて、
「って……アタシのこと忘れたの!? ひっどーい!!」
ひとりでプリプリ怒りだした。
どうやら彼女は、ボクを知っているらしい。
でも……ボクは前の世界ではずっと病院で寝たきりだったし、いまも人類のいない世界にいるから……知り合いと呼べる人がほとんどいない。
えーっと、前の世界だと……パパ、ママ、お医者さん、看護婦さんの四人。
いま世界だと……オジサン、ポポ、ピエール、ラヴィさん、スミレさん、ウオンさん、エイヤさん、タチギさん、コノハさん、ハヤトさん、コトリさん、ナッツさん、ノハラさんの十三人……あとは小人……。
ボクが声に出しながら、指折り数えていると、
「その間があるでしょ」
と女の子から突っ込まれた。
その間……? と考えて、ボクはハッとなる。
「もしかして……アンジュさん!?」
アンジュさん……ボクが賽の河原で協力して、最初に塔を組み上げた女の子だ。
たしかあの時、彼女は天使みたいになって空に飛んでいったけど、まさかこうして戻ってくるだなんて……!
「やっと思い出したみたいね!」
アンジュさんはようやく機嫌を直したようで、ニカッと笑った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから天空石のオジサンに呼ばれたので、ホコラに行ってみると、
「レベル5になると、神様見習いである天使が遣わされるんじゃ。神様のアシスタントとして働いてくれるんじゃよ」
アンジュさんの正体について教えてくれた。
でも……まだ謎だらけだ。
「レベル5って……ボクもうレベル11だけど……」
そのアンジュさんはというと、ボクの隣でひたすらバツが悪そうにしている。
「……ちょっと道に迷ってたのよ」
「そうなんだ……それと、遣わされたっていうより、落ちてきたみたいだけど……」
するとアンジュさんは、またキッと眉を吊り上げて、
「それはキミのせい! てっきり空に浮いていると思って目標を定めたのに、まさか地面にいるだなんて……おかげで降りそこねてちゃったじゃない!」
ボクの肩をガッと掴んできた。
「まぁまぁ」と画面の向こうから、オジサンが止めてくれる。
「着地点の設定を誤ったんじゃな。でもソラが昨晩『治癒』の奇跡をとっておいたおかげで、あの高さから激突しても助かったんじゃよ」
「ってことは、もう少し早かったら死んでたってことじゃない! んもぉーっ!!」
ボクの肩を掴んだまま、八つ当たりするみたいにガクガクゆさぶってくるアンジュさん。
「ヤメテ!」とラヴィさんが止めてくれた。
アンジュさんはボクより背が高くてお姉さんなんだけど、ラヴィさんよりは背が低い。
なので末っ子のボクが、真ん中のお姉ちゃんに責められて……そこを長女のお姉ちゃんに仲裁されているみたいな、姉弟ゲンカっぽい状況になっている。
アンジュさんはやおら、犬みたいに鼻をヒクヒク動かしたかと思うと、
「……キミたち、お風呂入ってる?」
いぶかしげな表情で尋ねてきた。
「……オフロ?」
初めて聞く単語に、キョトンとするラヴィさん。
そういえば、お風呂は教えてなかった。
「あ……忘れてた……ボクも、みんなも、まだ生まれてから一度もお風呂に入ってなかった……」
するとアンジュさんは、見えないちゃぶ台をひっくり返すみたいに諸手を上げて絶叫した。
「だぁーっ! 信じらんないっ! キミもキミも、そしてアタシも、今すぐお風呂に入らきゃ! 細かい話はあとあと!」
悪夢を見ているみたいに頭をガシガシしている。ツインテールから大量の砂がバラバラとこぼれ落ちた。
きっと彼女は、かなりの綺麗好きなのかもしれない。
「えっと、悪いんだけど……この世界には、まだお風呂がないんだ。水と火はあるけど、浴槽になるものがないから、お湯が沸かせないし……」
「うぅ~ん…………。なら、水浴びしよう! あの川で! 石けんをちょうだい!」
アンジュさんは歯噛みをして、少し苦悩したあと……ホコラの中から外の川に向かって、ビッ! と指さした。
「ミズアビ? セッケン?」
ボクとアンジュさんの間にいるラヴィさんは、首を傾げるばかりだ。
「えーっと、石けんもないんだ」
「え……ええっ……!? マジでっ!? ……あ……アタシ……なんて所に遣わされちゃったのよぉ……!」
お風呂と石けんが無いだけなのに、アンジュさんは余程ショックだったのか……ガックリとヒザをついた。
高いところから落ちて死にかけたり、お風呂に入れないとわかったり、彼女的には災難続きのようだ。
どっちもボクのせいじゃないけど、なんだかかわいそうになってきた。
うーん、なんとかしてあげられないだろうか……お風呂は川で代用するので納得してたみたいだから、あとは石けんがあればいいわけか……。
ボクはしばらく考えてから、ポンと手を打った。
「そうだ! 石けんなら作れるから、ちょっと待ってて!」
ボクはそう言うなり、ホコラを飛び出す。
「マッテ ソラ!」とラヴィさんも付いてくる。
それからボクはみんなに頼んで、森でドングリを拾ってもらった。
山盛り集まったドングリを、さらに石オノで砕いてもらう。
細かくなった実を、木のコップに入れ……中に川の水を注いだら完成。
「はい、できたよ! アンジュさん!」
「……これが石けん?」
川べりにて、ボクから手渡されたコップを、半信半疑で眺めるアンジュさん。
「うん、試してみよっか!」
ボクは、隣りにいたラヴィさんの手を取った。
彼女はいっしょうけんめいドングリを集めてくれたので、手が真っ黒だ。
コップの中で白濁している『ドングリ石けん水』をひとすくいして、ラヴィさんの手に擦り付けてみる。
すると……みるみるうちに汚れが落ちていく。ボクも初挑戦だったけど、驚きの白さだ。
「……へぇ……!」
アンジュさんも目を丸くしている。
「へへ……どう? 天然の石けんだよ! まぁ、売っている石けんみたいにイイ匂いはしないけど……」
「匂いなんて、後からどうとでもなるわ! ……コレ、いいじゃない! もらうね!」
アンジュさんの機嫌は、もうすっかりなおったみたいだ。
すぐ怒るけど、すぐ笑う。
泣いたカラスがもう笑った、みたいな女の子だな……とボクは思った。
彼女は颯爽とした様子で、バッ! と手を掲げると、
「よぉーし、女の子たち、水浴びするよ! アタシについてきて!」
集落の女の子たちを連れて、川上に向かって歩きだした。
せっかくだからボクも! と男の子たちを連れて、ついていこうとしたんだけど……シッシッとやられてしまう。
「なんでついてくるの!? ダメダメ! 男子は川下で水浴びをして! 絶対見ちゃダメだからね!」
「えっ……なんで?」
「ダメに決まってるからでしょ! さあ、あっちへ行って!」
ぜんぜん納得できない説明だったけど、すごい剣幕で追い払われてしまったので、ボクはしょうがなく男の子たちと川上に向かって歩きだす。
ラヴィさんは、ボクたちのほうに同行しようとしてたんだけど、
「ラヴィ! キミはそんな身体してるんだから、特に男の子と水浴びなんてしちゃダメ!」
なんて叱られながら、引きずられるようにしてアンジュさんに連れていかれてしまった。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:11)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが2あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●創造の奇跡
魔法生物
(1) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(0) LV3 ??? … ???
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 ??? … ???
回復
(1) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天候の奇跡
雲
(0) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(0) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 ??? … ???
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




