12 はじめての集落、作ります
『成長促進』……それがボクの下した決断だった。
赤ちゃんを一気に成長させれば、普通にリンゴも食べられるようになるし、病気にも強くなるはず……!
『治癒』と『死者蘇生』もいいけど、これは身体を壊したときや、死んだときに役に立つものだ。
つまり……赤ちゃんがそんな目にあうことが前提になっている。
そんなこと……絶対に嫌だ……!
ボクの未熟さを赤ちゃんに背負わせるなんて、ボクにはできない……!!
オジサンに『成長促進』の使い方を教えてもらったボクは、すぐに使ってみた。
赤ちゃんの額に手を当て、
「成長……促進っ……!」
手のひらから発生した光に、赤ちゃんの全身が包まれる。
白いシルエットとなった赤ちゃんが、ボクの腕の中で、グングンと大きくなっていく。
ボクと同じくらいの背の高さになると、抱えきれなくなったので、地面に立たせてあげる。
すると、自らの足で立った。さっきまでの衰弱ぶりが、ウソのようにしっかりと……!
時間を早回ししているようなスピードで、赤ちゃんは幼児になった。
それでも成長は止まらず、あっという間にボクの背を追い抜いていく。
さらりとした栗色の髪が、腰まで伸び……腰も引き締まるように、キュッと丸みを帯びていく。
しばらくして、覆っていた光が消えると……ボクよりずっと年上の、お姉さんが立っていた。
マシュマロのように柔らかく、ちっちゃかった赤ちゃん。
でもボクの与えた奇跡によって……マシュマロのような柔らかさはそのままに、美しい姿に成長した。
別人のように見違えたけど、顔つきとかは間違いなくあの赤ちゃんだ。
目元とかに面影が残っている。
このやり方が、本当に正しかったのかはわからない。
でも今はそれよりも、赤ちゃんが元気になったのが嬉しくて、
「よ……よかった……助かったんだ……!」
ボクはホッと胸をなでおろした。
それと同時、お姉さんが全裸であることに気づき、慌てる。
かつて赤ちゃんだったお姉さんは、大きな胸も隠そうともせずに……何が起こったのかわからない様子で、ぼんやりと立ち尽くしている。
ボクは足元に落ちているシーツを拾い上げて、お姉さんの身体に巻いてあげた。
そのあと、オジサンに教えてもらって知ったんだけど、小人が人間になった場合、それまで見えていた小人などの妖精はすべて見えなくなってしまうらしい。
逆に妖精のほうからは人間は見えるんだけど、妖精たちは人間を怖がるそうだ。
『小人成長』で小人が赤ちゃんになった途端、まわりの小人たちが逃げたのもそういう理由らしい。
でも、小人たちって人間になりたがってるよね?
なんでそんな怖がる対象にすすんでなりたがるのかは、オジサンは教えてくれなかった。
さらに……小人は人間になると、妖精の言語を忘れてしまうらしい。
なので、お姉さんは……戸惑う気持ちを表す言葉すらも持っていなかった。
ようは、すでに滅亡してしまった人類から、何も受け継がずに誕生した新人類……それがお姉さんなんだ。
「ヒュ ヒュ ササササ……」
天空城の庭に佇んでいるお姉さんは、風に吹く草の音を口真似している。
その後ろ姿を見ていたボクは……心のなかで誓う。
お姉さんと一緒に、強く生きていこうって……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからボクの『人類復活計画』が始まった。
ボクは前世で読んだ本の知識を総動員して、計画と準備をする。
まず動物には、『最小存続可能個体数』がある、というのを思い出した。
この数だけいれば、天災や環境が変わったりしても絶滅しないというやつだ。
ボクが今いる、この世界の場合だと……地上に降りても、まわりのモンスターから身を守れるだけの数、ということになる。
でもそれは正直、想像がつかない。
ゴブリン軍団にはポポとピエールで楽勝だったのに、途中でオークが現れて大逆転されてしまったようなことが、普通にあるかもしれないんだ。
そこでボクは決めた。
人類が独り立ちできるようになるまで、ボクも一緒に地上に降りて暮らすことを……!
そのための準備として、手のひらサイズだったピエールを、再び巨大サイズに組み直した。
オークが持っていた黒い石柱が庭に転がったままだったので、それを武器にして持たせる。
『図鑑』で調べたところによると、石柱だと思っていたのは『黒水晶』という、石より硬いものだというのがわかった。
河原の石の倍くらい硬いらしくて、ピエールがあっさりやられたのもそのせいのようだ。
ゴーレムの武装を整えたあと、ボクは九人の小人を『小人成長』で人間にして、『成長促進』で大人にした。
その時点で、レベルがひとつあがってレベル9になったんだけど、ポイントはすぐに使わずにとっておく。
お兄さんが五人、お姉さんが五人……あわせて十人なったところで、ボクは覚悟を決めて、オークと戦った原っぱへと天空城を降ろした。
新たなる新生活の始まり……まずはみんなで力をあわせて、木材を作る。
ピエールに木を引っこ抜いてもらって、天空城の庭に落ちていたゴブリンの石オノで削って木材にした。
そのあと天空城の庭のまわりを囲むようにして、地面に穴を掘り……できあがった穴に柱となる木材を組んだ。
細い木と樹皮で屋根を作ったあと、掘ったときにできた土を乗せる。
それで石器時代の家……『土屋根の竪穴式住居』の完成……!
今までこの地域は、勢力図上では無色だったんだけど……簡素ではあるけど家ができたおかげで水色へと変わった。
そしてさらにレベルアップ、ついに大台であるレベル10になったんだ。
ボクたちはさらに建築を繰り返して、五つの住居を作り上げた。
ひとつの家につき、ふたりひと組で住んでもらうことにする。
……つもりだったんだけど、最初の赤ちゃんであるラヴィさんはイヤイヤをして嫌がり、ボクの手を握りしめたまま離さなかった。
どうやらボクと一緒にいたいらしかったので、ラヴィさんはボクの家に住んでもらうことにする。
本当は十人くらいだったら、全員ボクの家に住んでもらってもよかったんだけど……なぜか他のお兄さんやお姉さんは、天空城の家に入ることを拒んだ。
仕草から察するに、どうやら怖がっているようだった。
「遺伝子の中に、神様を恐れ、敬う気持ちが組み込まれておるんじゃろうな」
とオジサンは教えてくれた。
ボクは納得したけど、でも、ラヴィさんだけはなんで平気なんだろう……という疑問だけは残った。
住居がいくつかできたところで、ボクは食べられる木の実や果物のことをみんなに教えることにした。
まず目指したのは、ここを『採取集落』にすること。
野生の木の実や果物を採って、生活する集落のことだ。
人が集まって暮らす形としては、もっとも原始的な形態。
とりあえず自分で食べ物を取る方法を教えてあげれば、最悪の事態があっても彼らだけでも生きていけるだろう。
でも、冬になると採れるものも減ってくるはずなので、それまでには集落を次の形態に発展させる必要がある。
季節の問題はひとまず置いておいて、ボクはみんなに食べられるもの、食べられないものを教えつつ、あわせて話し言葉も教えた。
あのゴブリンたちですら、カラスみたいに「ギャア」っていう鳴き声でコミュニケーションを取ってたんだ。
少なくとも敵が現れた時の警告や、助けが欲しい時などの合図だけでも決めておけば、かなり役に立つはず。
ボクより年上のお兄さんお姉さん相手に、言葉を教えるのは大変かなと思ってたんだけど……みんな小さな子供みたいに好奇心旺盛になって、「これは何というのか?」と質問攻めにあった。
その度にボクは、
「それは根っこ。木を引っこ抜いたあとに残る根本だよ。あ、食べちゃだめ! えっ? そっちはダンゴムシ。ボクたちと同じ生き物だよ。甲殻類だから食べられなくはないみたいだけど……土を良くしてくれるから、離してあげて」
ってカンジに答えてあげたんだ。
なかでもラヴィさんはずっとボクの側にいて、誰よりも熱心に話しかけてきた。
夜はボクの家にある、寝室のベッドで一緒に寝るんだけど……そこでも質問はやまなかった。
「……ジャア コレハ?」
目の前で横たわるラヴィさんは、ボクの顔を覗き込みながら……瞳を指さした。
「これは目だよ。ものを見るためにあるんだ」
ボクは彼女の顔を見上げなら答えた。
ひとつしかない枕はラヴィさんが使っていて、かわりにボクは彼女に腕枕をしてもらっている。
だからこうしていると、ボクがラヴィさんの子供になったみたい。
ちなみにボクとラヴィさんの間には、まっすぐに伸びたポポがいる。
大きなベットで、ボクらは三人で川の字になってるんだ。
「ソラ メ キレイ」
「えへへ、ありがとう。ラヴィさんの目も、宝石みたいでキレイだよ」
「ホウセキ?」
「石のことだよ。といっても、そのあたりに落ちてるやつじゃなくて……星みたいにキラキラしてるんだ」
「……ソラ スキ?」
「好きって、宝石のこと? うーん、実物を見たことないからわかんないけど……好きってわけでもないし、嫌いってわけでも……たぶん、普通かな?」
「ウウン ワタシ メ」
ラヴィさんは桜の花びらみたいな爪先を、自身の涙袋に当てる。
トパーズみたいな瞳を、ぱちぱちと瞬かせながら。
「ラヴィさんの目? もちろん大好きだよ! 絶対、宝石よりキレイだもん!」
ボクは自信を持って答える。比べたことないけど、ラヴィさんの瞳のほうがキレイなのは間違いないと思ったから。
すると、ラヴィさんの腕枕にアゴを乗せているポポが、異議を唱えるように「フニャ~」と鳴いた。
「あ、もちろんポポの目も大好きだよ! 瞳の奥に海があるみたいで……」
ボクはポポのマリンブルーの瞳が見たくなって、抱き寄せようとしたんだけど……「ウニャアン」とうざったそうに押し返されてしまった。
どうやら話題に入りたいわけじゃなくて、「さっさと寝ろ」と言っているようだ。
でも、ボクはめげない。
「寝る時のポポって、お目々まんまるで可愛いよね……そんなに嫌がらないで、もっとよく見せてよ~」
「フミャアン!」
「わぁ!? 目、押さないで!」
そのやりとりを見ていたラヴィさんは、フフッと笑って、
「ワタシ ソラ ダイスキ!」
ボクをポポごと抱きしめてくる。
寝る前は、いつもこうしてギューッてしてくれるんだけど……ラヴィさんの胸は、やわらかくて、あたたかくて……まるでママに抱っこされてるみたい。
そしてボクは、思い出すんだ。
一度だけ、ママに抱っこされたことを……。
いつものように薄暗い病室の中で寝ているボクを……ママがある日、泣きながら抱きしめてきたんだ。
涙の雫がボタボタとボクの顔に落ちてきて……まるでふたりで泣いてるみたいだった。
それがボクの、前世の最後の記憶。
気がついたら……あの、賽の河原に立っていたんだ。
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:10)
今回は『絶滅』と『成長促進』に1ポイントずつ割り振りました。未使用ポイントが2あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●創造の奇跡
魔法生物
(1) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(1) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(0) LV3 ??? … ???
有機生物
(1) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(1) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 ??? … ???
回復
(0) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天候の奇跡
雲
(0) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(0) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 ??? … ???
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




