10 ボスモンスターに、石ころだけで立ち向かいます
身長だと、ぼくの倍以上、体重だと、十倍以上ありそうなオーク。
まるで天燈鬼みたいに、肩に巨大な石柱を担いでいる。
ピエールを一撃で倒したあの武器……ボクなら掠めただけで終わりだろう。
そんな物騒な相手が、こちらに向かって一歩、また一歩と近づいてきている。
でもボクは、不思議と恐れを感じなかった。
理由はふたつある。
ボクは腹を立てていた。悪いことをする、コイツに……!
コイツは仲間を巻き添えにして喜んでいるような、とっても悪いヤツだ……!
それとボクは今日、初めて投げた石で、初めてゴブリンたちをやっつけたんだ……!
だからボクだって、やればできる……。子供のボクだって、モンスターをやっつけられるっていうのがわかったんだ……!
さらに強力な武器を手に入れた今なら、なおさらだ……!!
「ワンッ! ワンッ! ワンッ!」
オークの後ろから、犬になったポポが吠えかかる。
「待って、ポポ! コイツは……ボクがやるっ!!」
ボクが叫ぶと、ポポは鳴き止んだ。でも、ちょっと心配そうにしている。
「大丈夫……見てて、ポポ! ボクは……負けない……絶対に!」
ボクはオークを睨み上げながら……手にした石を、ゴブリンのベルトのバックル部分に装着する。
そして、ベルトの端を束ねて持って、グルグルと振り回した。
ゴブリンのベルトは蔦を編んで作られたものだったんだけど、ボクには偶然それが投石器のように見えたんだ。
そして思いついた……手で投げるより何倍も威力の出る投石器なら……コイツを倒せるんじゃないか、って……!
投石器は石器時代からある、最も原始的な遠距離武器……!
単純な構造ながらその威力は、弓矢にも匹敵するという……!
ボクは投石器をさらに振り回し、勢いをつける。
まるでプロペラみたいになって、ブォンブォンブォンという風切音がたちこめた。
あと数歩というところまで近づいたオークは、
「ブヒッ! ブヒッ、ブヒッ……! ブヒヒヒヒヒ……!」
豚が鳴くみたいな声で、ブヒブヒと笑いだした。
そんな紐なんかを振り回して、一体なにをするつもりだ、なんていう表情。
自分より小さい者を見下ろし、嘲り、明らかに油断している。
今のコイツは、旧約聖書に出てくるゴリアテのようだった。
そしてコイツがゴリアテなら、ボクはさしずめ、ダビデ王……!
羊飼いから身を起こしたダビデ王。
幼少時には3メートルもある巨人兵士ゴリアテを、投石器だけで倒したんだ……!
「……くらえっ!!」
ボクはじゅうぶんに勢いをつけた投石器を離し、石を投げつける。
でも、狙いは大きく外れ、オークの頭上を飛んでいった。
オークはニターッと笑ったあと、ボクめがけて石柱を振り下ろす。
ボクはそれを、すんでのところで後ろに飛び退いてかわした。
……ドォンッ!!
地響きとともに、地面が陥没する。
ピエールの時と比べて、明らかに軽くやっているのに……すごい威力だった。
ボクはオークから視線を外さず、投石器に石を再装填する。
だいたいコツはわかった。今度こそ……外さない!
「ブヒッ! ブヒヒヒヒヒヒ……!」
投石器を振り回すボクを見て、何がおかしいのか身体を揺すって笑うオーク。
笑ってられるのも……今のうちだっ!
ボクは自分の身体のことが、だいたいわかってきていた。
竹のようにしなやかで、羽根のように軽い、この身体……!
木登りも、ピッチングも、2回やればうまくできるようになった。
これが他の子に比べて、優れているのか劣っているのかはわからない。
でも次に放つこの石が、ヤツに命中するのだけは……わかるんだっ……!
オークも二発目の攻撃をするため、石柱を構えなおしている。
ヤツの狙いはきっと……ボクの二投目にあわせて、石柱でペチャンコにすることだろう。
だからボクは、一撃で決めるっ……!
この一撃を……ヤツの急所に叩き込むっ……!!
「……あったれぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!」
ボクはめいっぱいの気合を込めて、渾身の一撃を放つ。
それをボクごと打ち返してやろうと、オークは石柱を振りかぶった。
だが、迫りくる礫のスピードと、その正確さに……ニヤついていたヤツの顔が、凍りつく……!!
……グッ……シャァァァァァァァァァァァァァッ!!!
砲弾のような一撃が、ヤツの眉間にめり込む。
醜い顔面が歪み、*みたいにへこんだ。
勢いのあまり、ぐんっ、と後ろにのけぞったあと、ぐらり……と前のめりに倒れてくる。
ボクは巻き込まれないように、慌てて距離をとった。
……ズズ……ンッ……!!!
大の字に倒れたオークを中心にして、衝撃が波紋のように広がる。
それはかなりのもので……草むらに隠れていた小人たちが、ポップコーンみたいに跳ねあがるほどだった。
「か……勝っ……た……!」
ボクはそこで気づいた。声がすっかり枯れてしまっていることに。
こんなに叫んだのは、生まれて初めてのことだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
回復した奇跡力で空に戻るころには、あたりはすっかり暗くなっていた。
激戦を終えたボクはすっかり疲れ切っていて、なにもする気が起きない。
オジサンに会いに行こうかと思ったんだけど、明日にすることにして、そのまま家に引っ込んだ。
でも、バラバラになったピエールを放っておくのは嫌だったので……残った力を振り絞る。
オーバーオールのポケットの中に残っていた小石を、居間のテーブルの上で組み合わせて……手のひらサイズのゴーレムを作りあげた。
そのあと、取ってきていたリンゴを晩ゴハンがわりに食べる。
テーブルの上で、ちっちゃいゴーレムと小人がじゃれあっている姿を眺めていると……なんだかホッとして、急に眠たくなってきた……。
「ニャーン」
寝室の扉の前では、猫のポポが「そろそろ寝ようよー」とボクを誘う。
「うん……」
ボクは返事をするだけで精一杯。
フラフラと椅子から立ち上がり、寝室へと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ボクは、意識を失ったように眠って……そして次の日、
「んふっ……!? うひゃひゃひゃひゃっ! くすぐったいよっ!」
顔をベロンベロン舐められて、飛び起きた。
犬になったポポが、ベッドの上でお座りして、ボクを見下ろしていたんだ。
昨日の夜いっしょに寝たときは、猫の姿で寝かしつけてくれたんだけど……朝は朝で、犬の姿で起こしてくれるんだ……。
ボクは寝室を出て、居間で朝ゴハンがわりのリンゴを食べる。
リンゴはおいしくて、いくら食べても飽きないけど……これだけじゃ栄養が偏っちゃうかなぁ……なんて考えながら。
朝ゴハンのあと、家を出てオジサンのところに行く。
「おお、おはようソラ。昨日はすごい活躍だったようじゃな。大きいゴーレムを作って1レベル、ゴブリンたちを倒して1レベル、さらにボスのオークを倒して1レベル……あわせて3レベルアップじゃ!」
天空石に浮かび上がった画面の向こうで、ニコニコ笑顔のオジサン。
続けざまに、勢力図が浮かび上がってくる。
「ボスを倒したから、このあたりの森が解放されたぞ。ほら、見てみるがいい。赤でも黄色でもない、無色の地域になっておる」
オジサンは、天空城の真下にある森を指し示していた。
たしかに何の色もついていない。
「でも喜ぶのはまだ早いぞ、無色なのは中立地帯でしかないからな。ここに人間を住まわせることによって、水色に変わり……神の制圧地域になるんじゃ。住んでいる人間が発展すると、水色から青に変わって、完全制圧となる」
オジサンからの情報を、ボクは頭の中で整理した。
赤色 → 黄色 → 無色 → 水色 → 青色
という順番で、良くなっていくというわけか……。
そこでボクは、はたと気づく。画面のオジサンが、いたずらっぽくウインクしていることに。
「以前、ソラが小人を人間にしようとしたとき、ワシは止めたじゃろう? でも今なら、何も言うことはない。……おぉ、ちょうどポイントが3つもあるではないか……。さぁ……どうする? ソラ」
そのメッセージとともに、勢力図は奇跡ツリーの画面に切り替わった。
奇跡ツリー
■■■奇跡ツリー■■■(現在の神様レベル:8)
今回は割り振ったポイントはありません。未使用ポイントが3あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●創造の奇跡
魔法生物
(1) LV1 ゴーレム … ゴーレムを創る
(0) LV2 小人成長 … 小人を人間にする
(0) LV3 ??? … ???
有機生物
(0) LV1 絶滅 … 生命を絶滅させる
(0) LV2 成長促進 … 生命の成長を早める
(0) LV3 ??? … ???
回復
(0) LV1 治癒 … 病気や怪我を治す
(0) LV2 死者蘇生 … 死んだものを蘇らせる
(0) LV3 ??? … ???
●天候の奇跡
雲
(0) LV1 雲 … 家の煙突から雲を出せる
(0) LV2 虹 … 虹を出せる
(0) LV3 ??? … ???
風
(0) LV1 風 … 風を起こせる
(0) LV2 竜巻 … 竜巻を起こせる
(0) LV3 ??? … ???
雨
(1) LV1 雨 … 雨を降らせる
(0) LV2 洪水 … 洪水を起こす
(0) LV3 ??? … ???
雪
(0) LV1 雪 … 雪を降らせる
(0) LV2 大雹 … 大きな雹を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
雷
(1) LV1 雷 … 雷を落とす
(0) LV2 導雷 … 目標に誘導する雷を落とす
(0) LV3 ??? … ???
火
(0) LV1 火の粉 … 火の粉を降らせる
(0) LV2 火の玉 … 火の玉を降らせる
(0) LV3 ??? … ???
●神通の奇跡
神の手
(1) LV1 ジオグラフ … 大地を切り取る
(0) LV2 ウェポン … 武器を出す
(0) LV3 ??? … ???
神の叡智
(0) LV1 現界の声 … この世界の声を聞く
(0) LV2 異界の声 … 異界からの声を聞く
(0) LV3 ??? … ???
●天空城の奇跡
高度
(0) LV1 高度アップ … 天空城をさらに高く飛ばせる
(0) LV2 天空界 … 「天空界」まで飛ばせるようになる
(0) LV3 ??? … ???
速度
(0) LV1 速度アップ … 天空城の移動速度があがる
(0) LV2 高速移動 … 高速移動ができる
(0) LV3 ??? … ???
流脈
(0) LV1 消費減少 … 奇跡力の消費を抑える
(0) LV2 放出 … 天空城から物体を放出できる
(0) LV3 ??? … ???
障壁
(0) LV1 防御障壁 … 天空城を守るバリアを張る
(0) LV2 水中潜行 … 水中に潜れるようになる
(0) LV3 ??? … ???
●太陽の奇跡
気温上昇
(0) LV1 気温上昇 … 気温を上げる
(0) LV2 猛暑 … 猛暑にする
(0) LV3 ??? … ???
気温下降
(0) LV1 気温下降 … 気温を下げる
(0) LV2 寒波 … 寒波を起こす
(0) LV3 ??? … ???




