異世界転移と呼ばれるもの
アルトーナ王国にある世界に10個ある大迷宮、セントリング大迷宮の中で僕は一人取り残されていた。襲ってきた魔物はなんとかなったがこの壁だけはなんともできない。
「はぁ。なんでこんな目にあうのかなぁ」
呟いてみるが返事はない。一緒にいたはずのクラスメイトや先生、騎士たちは魔物が出てきた瞬間に逃げ出していた。こんな状況でも残っていてくれていただろう友人は別のグループにいる。こんなところで待っていても助けが来るわけでもないので、先に進む覚悟を決める。どうやらこの階層にはあの魔物以外の魔物はいないようだ。しばらく探索をしていると下に降りるための階段を見つけた。階段を下りながらどうしてこうなったかをふりかえる。
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僕の名前は鳴堅 守人。高校一年生だ。今は購買から急いで屋上に向かっている最中だ。急いでいる理由は簡単だ。
「も、持って来ました」
「おいおい、俺様が今食べたいのはこれじゃねぇんだよ。今まで行ってたんだからそんくらいわかんだろ?」
「しかも量も足んねぇぜ?これはお仕置きコースだなぁ」
そんなもん分からないし、文句を言うのなら自分で買いに行けよ。と思いつつも、言えばひどくなることがわかっているので心の中にしまっておく。
「兄貴!もうそろ時間ですぜ」
「おぅ、そうか。おい守人。今日もいつもの場所な。わかったか?」
「はい」
あいつらは単細胞生物のような奴らだ。あいつらが好きな人が、僕のことを気にしているのでいじめて来ているようだ。おっと早く教室に戻らなくちゃ。この学校の先生たちはものすごく恐ろしいからな。授業に遅れたら大変なことになる。大変なことに関しては、一度見たことがあるがとても言葉にできるようなものではない。それをされた生徒は、性格が以前とは比べ物にならないくらい変わってしまった。これを知っている生徒は絶対に先生たちに逆らおうとはしないだろう。
「ふぅ、間に合ったぁ」
「いつも大変ね。貴方も」
この人は僕の数少ない友人の木葉時雨さんだ。影が薄くて、いつの間にか後ろにいることも多い。そのせいか僕と話していてもいじめに巻き込まれることはない。
「うわっ。びっくりした」
「びっくりとは失礼ね。いつも貴方の席の前にいるでしょうに」
「そ、それはごめん。それで、なんか用?」
「いえ、べつに」
「もうすぐ始めるぞー。席について準備しろー」
先生がそう声をかけ、慌てて生徒たちが準備を始める。
僕と時雨さんは既に準備をしていた。授業が始まり、黒板にチョークを当てる音だけが響く教室で、放課後にまたあれをされるのかと思い、憂鬱な気分になる。一応あれに耐えるために身体を鍛えているのはいいが、そのせいでされる時間が増えているのは皮肉な話だ。そんなことを考えていると、目の前に光の玉が浮かんでいた。なんだこれと思いつつ触るとまるでそこになかったかのように霧散した。幻覚を見るほど疲れているのかなと思った瞬間、教室の床が光り出した。
「うわっ。なんだ⁉︎」
と言葉に出てしまい、生徒たちがそれに触発されたように騒ぎ出す。
「お、おい。なんだこれ」
「落ち着け!席に座りなさい!」
と先生たちも声をかけるが、生徒たちは聞いていないのか指示に従わない。その光を観察していると、光が何かを描き始めた。
「まるでゲームみたいだな」
僕はその描かれていくなにかを見てそう思い呟いた。
「守人君もそう思う?」
「思うってことは時雨さんもそういうのやるんだね。意外だよ」
「あら、そうかしら?」
「それでさっきの話だけど、ゲームで出てくる魔法陣みたいだなって思うかな」
「私もそうね。こんなこと起こるとは思わなかったわ」
「おい、誰だよこんなことしてんのは‼︎」
「これは…流石にうるさいわね」
そんな会話をしていると魔法陣らしきものが描き終わったようだ。一体なんだろうと思い近づくと、突然魔法陣が光り出した。目が眩む閃光に思わず手をかざし目を瞑る。光りが収まり、目を開けるとそこは白い空間だった。僕たちの目の前には一人の女性が立っていた。
「地球の人々よ。私は世界の創造神です。申し訳ございません。貴方たちは異世界へ勇者として召喚されることとなりました。時間がないので手短にそれに関しての説明をしますので聞いてください」
と言われ、誰も言葉をださなかった。いや、出せなかったの間違いだろう。目の前の女性に見とれるもの。驚愕して、座り込んでいるものなど様々だ。
「貴方たちを召喚する国はアルトーナと言います。あちらの世界では貴方たちの世界には存在しない、『魔法』があります。さらにはレベルやスキルといった様々な力があります。詳しいことに関しては、あちらの世界に行った後に聞いてください。貴方たちには、召喚された勇者として私からユニークスキルと呼ばれるものを授けます。勇者の目的は、あちらの世界の脅威を取り除くことになります。済みませんが、もうすぐ時間が来てしまいます。それでは頑張ってください」
さっと説明して創造神は消えていった。流石に大雑把すぎやしないか?と思っていると、いつの間にか移動していたようだ。周りには神官と思われる服を着た人たちが、円を作って囲んでいた。したを見て見ると教室に描かれていた模様と同じものが描かれていた。
「ようこそ、私たちの世界へ。異世界の勇者様方」
と言って出迎えてくれているのはまさに王様っといった雰囲気と格好をした男性だ。見た目的には50代くらいか。
「まず私たちの世界のことについて話さねばならないな。ついてきてください」
と言われ、おとなしくついて行くと食堂のような大きな部屋へ出た。
「どうぞ座ってください」
と言われ静かに座る。
「まず私たちは大きな脅威を抱えております。それの正体は不明、ただ魔物を生み出しております。勇者様方にはそれの討伐をお願いしたいのです」
「すみませんがそれに関しましては、この世界の詳しい話を聞いた後に返事をするというのはダメでしょうか?」
と先生が返事をする。さすが先生。しっかり考えてくれているようだ。
「それもそうですな。それではその用意をさせることにいたしましょう。話は明日からにするとしましょう。そちらも落ち着いていないようですしな」
「ありがとうございます」
そうして各自の部屋に案内された。勇者だけあっていい部屋を用意されたようだ。何か用事があるときはベル型の魔道具とやらでメイドを呼んでほしいとのことだ。いつの間にか外は真っ暗になっていた。どうやらかなり時間が経っていたらしい。ベッドに横になるとすぐに睡魔が襲ってきた。よほど疲れていたようだ。抗えずに睡魔に身を委ねる。
起きたらメイドさんに呼ばれて昨日の部屋に集まった。ここで話をするらしい。話といっても授業みたいなもので世界がどうだのこうだのなどの説明ではないようだ。
教えてもらった内容をまとめると、
・この世界にはステータスがありステータスと念じると現れる。HPは生命力で0になると死亡する。MPは魔法や特定のスキルを使用すると消費する。STRは攻撃した際の力強さ、INTは魔法や特定のスキルを使用した際の攻撃力、DEFは物理防御力、MINDは魔法防御力、AGIは素早さを表している。
・スキルは補助的な役割。基本的に、特定の行動で得られる。勇者だけスキルポイントを使い、手に入れることができる。レベルがあり、スキルに当てはまる行動をすることであげられる。レベルが上がればその能力も上がっていく。ユニークスキルは通常のスキルよりも効果が高い。
・魔法は魔法陣を作り使うもの。魔法陣には様々なことを書き込み、適性があれば書き込む内容を少なくできる。
・レベルは魔物などを殺すことで経験値を入手することで上がる。
・魔物は生み出される以外にも自然発生する。空気中の魔力が集まることで生まれる。
ということだ。明日から参加できる人だけ訓練を受けるという話をして授業は終わった。僕は自分の部屋に戻らず、時雨さんの部屋に行った。
「あんな話を聞いて盛り上がるなんて。信じられないわね」
「確かにね。普通は心配になるところだと思うんだけどね。それで、話って?」
「ステータスなんかの話をするためにね。スキルなんかは考えて取らないと」
「それもそうだね。じゃあ互いのステータスを見せ合わない?その方がなんかあったとき便利だし」
「そうね。これが私のステータスよ」
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Name:コノハ・シグレ 木葉 時雨
レベル:1
種族:人族
ジョブ:忍者
HP:150/150
MP:110/110
STR:100
INT:120
DEF:90
MIND:110
AGI:200
ユニークスキル
忍術Lv1 AGI上昇Lv1 電光石火Lv1
スキル 100SP
短刀Lv1 アイテムボックスLv1
魔法
称号
異世界人 勇者 創造神の加護
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「という感じよ」
「じゃあ僕のも見せるね」
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Name:ナルガタ・モリト 鳴堅 守人
レベル:1
種族:人族
ジョブ:盾剣士
HP:500/500
MP:100/100
STR:100
INT:90
DEF:210
MIND:150
AGI:100
ユニークスキル
タンクLv1 MIND上昇Lv1 不撓不屈Lv1
スキル 100SP
片手剣術Lv1 盾術Lv1 アイテムボックスLv1
魔法
称号
異世界人 勇者 創造神の加護
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「見事にHPと物理防御が高いわね」
「そっちこそ。忍者ってとこにびっくりしたよ」
「家がそういうところだったからかしらね」
「へぇ。道理で影がうすいわけだ」
「それでスキルのことなんだけど。一緒に見てみましょう?」
「わかった」
スキルポイント略してSPを使って取れるスキルの欄を見て見る。
鉱物鑑定 10SP
植物鑑定 10SP
スキル鑑定 10SP
ステータス鑑定 10SP
アイテム鑑定 10SP
暗視 10SP
千里眼 10SP
などのたくさんのスキルが出てきた。
「これまたたくさんだなぁ。良さげなものをマークしていくかな」
と言いつつスキルを見ていく。
「いいのはあった?」
「一応。とりあえずスキル鑑定を取ってからかな」
「どうして?」
「スキル鑑定でスキルの内容をみてから判断したほうがいいかなって」
「確かにそうね」
10SPを使ってスキル鑑定を取って、スキル鑑定を使いながらスキルを見ていく。
「時雨さんはどんなスキルを取ったの?」
「暗視スキルね。それ以外には取ってないわ。守人君は?」
「僕は踏ん張りスキルだね。タンクだからね」
「あら。もうこんな時間ね今日はお開きにしましょう」
「わかったよ。じゃあまた明日」
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「そんなところに突っ立ってないで入ってきたらどう?」
そう言って時雨はドアの向こうにいる人物に話しかける。ドアを開け入ってきたのは学校でも屈指の美形で肩までの髪が特徴の女子、立花翡翠だ。
「守人くん、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。いじめのことなんて気にしてないわ。まあ、あれだけされてれば普通のことになるのかしらね」
「でも…」
「あなたは気にしすぎよ。あの事に関してはあなたは何も悪くないわ。悪いのはいじめてる側。彼ももう気にしてないわ」
「それでもいじめられる原因を作って、さらに酷くしたのは私だもの」
「そんなに気にするのなら明日話しかければいいじゃない」
「一応頑張ってみるけど…。どうしてこんなことをしてくれるの?」
「さーて、どうしてかしらね。兎に角、明日頑張りなさいよ」
そう口にして冷めてしまっている紅茶のようなものをすする。翡翠は立ち上がり、部屋を出ていく。
「今日はありがとう。これからもよろしくね」
部屋を出ていく際に、そう時雨に声をかける。
「本当に恋心っていうのは大変ね」
時雨は一人だけの静かな空間に呟いた。