#006「羊の皮を被った」
@山猫荘
北山「ホントに、すぐそこだな。隣の部屋じゃないか」
太田「二〇三号室、黒沢角也。突然ですが、風斗くんに問題です。ジャジャン」
北山「エスイーは結構。答えを教えてくれ」
太田「黒沢さんのお仕事は何でしょう? 十秒以内にお答えください。カッチ、カッチ、カッチ」
北山「スーツ姿しか見たことないな。会社員か?」
太田「もっと、限定して欲しいね。どこで働いてる人でしょう? 想像力を働かせてみてよ。カッチ、カッチ、カッチ」
北山「小奇麗にしてるし、柔和な顔をしてるし、接客か営業に向いてると思うけどな」
太田「おおぉ、良い線だね」
北山「それで、正解は?」
太田「ご本人から、どうぞ。――黒沢さん。太田です」
太田、ドアをノックする。
黒沢「こんばんは。あ、北山さんもご一緒でしたか」
北山「こんばんは」
黒沢「音楽を聴いていたのですが、五月蝿かったでしょうか?」
太田「イヤホンですよね? 全然、聞えてませんよ。それより、お願いがありまして」
黒沢「私で良ければ、ご相談に乗りましょう。男の一人暮らしですから、とても綺麗とは言えませんが、どうぞ」
太田「僕たちの部屋より、ずっと綺麗ですよ。お邪魔します」
北山「お邪魔します」
*
北山「生命保険会社の社員なんですね」
黒沢「えぇ、そうなんです。卓上に置く三角形のカレンダーや、腕時計のバンドに装着するカレンダーが余っているんですけど、いかがでしょう?」
太田「いただいて良いんですか?」
黒沢「粗品としてご契約者様にお配りしてるんですが、とにかく量が多いので、いつも余らせてしまって。団扇もそうなんですけど、ボールペンやタオルと違って、季節を選ぶ物なので、使い回しも出来ませんし」
太田「コンビニも、販促用のオマケや、店内用のポスターやポップの処理に困るんですよね。食べ物や消費財なら、受け取り手が多いから、すぐに捌けるんですけど」
黒沢「そういえば太田さんは、コンビニエンスストアでアルバイトされてるんでしたね。それで北山さんは、たしかガソリンスタンドでしたよね?」
北山「あぁ、そうです。よく、覚えてますね」
黒沢「記憶力には、ちょっとした自信があるんです」
太田「ここで風斗くんに、クエスチョン。何と黒沢さんは、ただの人間ではありません。実は、僕たちと同じように、下界以外の世界からやってきたのですが、どこからやってきた、何者でしょう? チャラララ、チャラララ、チャラララ、チャラララ、ラー」
黒沢「フフッ。身近な世界にある不思議として、発見されてしまいました」
北山「人形を没収していいから、答えを教えてくれ」
黒沢「ヒントくらい、いただいたら如何ですか? 無関心すぎますよ」
太田「そうだよ。もっとアンテナを広げないと駄目だよ、風斗くん。色んなことに興味を持たないと」
北山「そんなこと言ったって、見た目は普通だし、部屋もスッキリと片付いてて、特に変わったところなんか、なっ」
北山、部屋を見渡し、黒沢に視線を戻し、驚いて仰け反る。
黒沢「驚かせてしまいましたね。ヒントのつもりだったのですが」
太田「あぁあ。もう、答えを言ってるようなものですよ、黒沢さん」
北山「角が、生えてる」
黒沢「座ってますし、ここは狭いので、翼と尻尾は割愛しました。――改めまして、こんばんは。魔界からやってまいりました、悪魔です。以後、お見知りおきを」




