#005「パーティー準備」
@山猫荘
太田「ただいま。あれ、ケーちゃんは?」
北山「一旦、家に帰った。そのうち、また来るだろう」
太田「一緒に食べようと思って、プリンを買ってきたのに。何のために付き添わせたと思ってるのさ?」
北山「家に帰りたいって言ってるのに、無理に引き止めることもないだろう」
太田「夜中に公園で、はしゃぎ回ってるような子だよ?」
北山「あの夜、欅坂が、はしゃいでたのは、陽介が変なことを言ったからだろうが」
北山、卓袱台の上のノートを取る。
北山「これが、欅坂についての情報」
太田、北山からノートを受け取る。
太田「どれどれ。――欅坂。本名では無いらしい。実名不詳。銭湯に行くのを拒む。服を脱ぐのを嫌がるので、故意によるものか、事故によるものか分からないが、身体に傷や痣があるのかもしれない。家族関係では、トラブルを抱えている模様。自宅には滅多に家族が居らず、居たら居たらで居場所が無いのだそうだ。辛くなったら公園ではなく、ここに逃げてくれば良いと告げる。経済的な援助以外なら、何でも相談に乗り、可能な限り解決に導くと請け負う。以後は、経過観察で対処する」
北山「まぁ、どれも欅坂の言動を基にしたものだから、裏付けが無く、推測の域を出ない。ただ、毎晩不安で眠れないってのは、尋常とは言い辛いと思う」
太田「これは、一般常識に鑑みれば、行政のしかるべき担当局庁に相談するのが筋だけど、それで済むなら、僕たちが下界に突き飛ばされる必要は無い訳だよね?」
北山「あぁ。そんなことをさせるなら、何も俺たちみたいな人間離れした存在でなくても良いはずだもんな。と、いうことは?」
太田「きっと、何らかの別の理由があるはず」
北山「だよな。でも、どんな事情なんだか、さっぱり手掛かりが掴めないぜ」
太田「一介の勤労高校生では、これが限界だろうね。よぉし。ここは、助っ人を募ろう」
北山「何か良さそうな伝手でもあるのか?」
太田「僕たちの、すぐ身近に居るよ。あ、でも。風斗くんは、ちっともご近所付き合いに熱心じゃないから、ピンと来ないかな」
北山「俺には、目的を持たない当たり障りの無い世間話ってのが、どうも苦手なんだ。何故、特に用件も無いのに長々と話さねばならないのか、理解に苦しむ」
太田「お喋りそのものが目的であり、用事なんだよ。円滑な社会生活を営む上では、共同体でのコミュニケーションが大切だよ、風斗くん」
北山「エンドレスで的確な答えを選択し続けなければならない、というこちらの苦痛も理解してほしいものだ」
太田「まぁ、得手不得手があるのは仕方ないけど、これを機に少しでも考えを改めてくれたら嬉しいかな」
北山「鋭意、努力しよう。それで、どこの誰に頼むつもりなんだ?」
太田、人差し指を唇に当て、微笑む。
太田「フフフ。それは、付いてきてからの、お楽しみ。それじゃあ、レッツゴー」




