#004「不審者エックス」
@山猫荘
北山「ケヤキザカ、で良いんだな?」
欅坂「呼びにくかったら、ケーちゃんでも良いよ」
太田「よろしくね、ケーちゃん」
北山「陽介、初対面の他者との距離が近すぎる。もう少し警戒して慎重になれ」
欅坂「決して、怪しいものではございません。これも何かの縁でしょう。ささ。親睦を深めようではありませんか」
太田「ホホ。越後屋、お主も悪よのぉ」
北山「えぇい、静まれぇい。この不届き者どもめ」
欅坂「もう、お裁き? ここからが盛り上がるところなのに」
太田「悪代官が腰元の帯を引っ張って、アァレェって」
北山「まったく。俺たちは、欅坂が何をしてたか聴き出す必要があるから連れ帰ったんだぞ、陽介? 忘れてないか?」
欅坂「まぁまぁ、そんな些細なことは、よいではないか」
太田「そうそう。お互いのことを知るのは、仲良くなってからのほうが良い」
北山「ハァ、しょうがないな。二対一では不利だ。ここは、陽介に従おう」
欅坂「ヤッタァ。ねぇねぇ、三人でカラオケに行こうよ」
太田「いいね。あ、そういえば。公園に行く途中にあったよね?」
北山「あぁ。だが、再び夜の街に繰り出すのは感心しないな」
欅坂「えぇー。嫌だ嫌だ。カラオケに行くんだぁい。ウワァン」
太田「あぁりゃりゃ、こりゃりゃ。いぃけないんだ、いけないんだ。せぇんせいに、言ってやろう。泣ぁかした、泣ぁかした。知ぃらないぞ、知らないぞ。おぉこられる、怒られる。どぉにも、なんないぞ。わーるいんだ、わーりんだ 帰りの会で、覚えてろ。ぜぇったいに、言ってやろう」
北山「オイ。あんまり図に乗ってると、痛い目に遭わせるぞ」
欅坂「脅迫する気? 何が出来るって言うんだい?」
太田「どうする、風斗くん? 先に正体を明かしておく?」
北山「あぁ。面倒だから、言ってしまおう」
*
欅坂「それは、その。場合によっては、魂を差し上げる方向で?」
北山「俺は、悪魔じゃない。契約もしなければ、魂を頂戴することもない」
太田「僕も、ケーちゃんがお望みの姿に変身することはできないからね。いい夢の方向性が違うよ」
欅坂「クシャミ三回で、壺の中に戻るということは?」
北山「風邪薬と大魔王が一緒になってないか?」
太田「アクビをしようが、シャックリをしようが、ランプを擦ろうが、僕たちは消えたり現れたりしないよ」
欅坂「良かった。それじゃあ、遠慮なく。ハァワ」
欅坂、座布団を枕にし、横向きに寝る。
北山「やれやれ。結局、明け方になるまで、何者か分からず仕舞いか。こっちには、まだまだ質問したいことが山ほどあるというのに」
太田「続きは、起きてからだね。四組は、今日の授業は何?」
北山「たしか、現代文、リーダー、世界史、体育、ライティング、生物のはずだ」
太田「それなら、僕のノートで間に合いそうだ。ガソリンスタンドに出勤するまでで良いから、ケーちゃんに付き添っていてあげてよ」
北山「オーケー。でも、なるべく早く帰ってきてくれ。俺ひとりでは、少しばかり手に余りそうだ」
太田「エーエスエーピーで、そうするよ。――さて。授業の用意をしなくっちゃ」




