#003「手の鳴るほうへ」
@端左間通り
北山「二十四時間三百六十五日休み無く営業という、過剰サービス」
太田「高度情報通信化社会により、曖昧になるプライベートとパブリックの境界」
北山「皆勤手当て狙いで、死に物狂いになって出勤する会社員に」
太田「皆勤賞狙いで、高熱に浮かされながら出席する学生」
北山「風邪で休めない状況は、組織として危機的すぎる。ストレスが溜まって当然だ」
太田「病気や悪天候と戦おうと考え出したら、働き過ぎのサインだね」
北山「睡眠時間を八時間以上確保した上で、一日のタイムスケジュールを組むべきなのに、仕事や勉強に必要な時間を確保した上で、申し訳程度に残った時間が睡眠時間になってしまっている」
太田「睡眠時間を削って帳尻を合わせても、早晩に限界に達するよ」
北山「どこで歯車がトチ狂っちまったんだろうな。不眠に悩む患者が増えるのも、理の当然だ」
太田「不眠症を含めて、精神病に悩む患者は承認欲求が強い状態にあるから、余計に厄介なんだよね」
北山「いわゆる、構ってちゃん、だな。共倒れしたくなかったら、そっと距離を置いて、専門家に任せるしかない」
太田「そうだね、風斗くん。――さて、と」
二人、足を止める。
太田「ターキーに括られてた地図によれば、ここで間違いないね」
北山「あぁ。こんな真夜中の公園に居る人間のことだ。碌な奴じゃないだろうぜ」
*
@奥右真総合運動公園
北山「誰か居たか?」
太田「うぅん、こっちには誰も居なかった。そっちも?」
北山「あぁ、こっちも違う。チクショウ。無駄に広い公園だぜ」
太田「虱潰しに探すしかないよ。あとは、このアスレチック広場だけだし」
北山「よし。こうなったら、必ず見つけ出してやる。俺は、時計回りに当たるから」
太田「僕は、反時計回りだね。了解」
*
北山「登り棒にも、雲梯にもいないのか。ジャングルジム、そして吊り輪、と。ん? あのシルエットは、どう考えても陽介じゃないな。ちょっと待て、オイコラ。そこで何をしようとしてるんだ」
北山、人影を追いかける。太田、北山に駆け寄る。
太田「誰か居たんだね?」
北山「あぁ、バッチリな。クソッ。どこへ隠れやがった?」
太田「もう、いい、かい?」
北山「かくれんぼじゃないってのに」
人影「まぁ、だだ、よぉ」
太田「背後に回ってたみたいだね」
北山「どういう神経してるんだか。とんだ愉快犯だな」
太田「鬼さん、こちらって? あっ」
太田、前方を指差す。
太田「きっと、アレだよ。ホラ、あそこの茂みの向こう」
北山「ヨッシャア。今度は二人だから逃がさない。俺が右から追い込むから」
太田「僕は、左で捕まえれば良いんだね?」
北山「あぁ、頼んだぜ」
太田「フフフ。ケイドロみたいになってきたね」




