#026「スイートホーム」
@山猫荘
北山「手紙は、どちらにも括られてたんだな」
太田「僕たち各々に宛てて書かれてたみたいだね。風斗くんのほうは、何て書いてあったの?」
北山「もっと他者への優しさを抑え、仕事相手に感情移入しすぎないように。閻魔。――陽介のほうは?」
太田「ビジネスライクな頼もしさを感じますが、思い遣りが足りないので、もう少し頑張りましょう。美人の釈迦より。――だってさ」
北山「これは、つまり」
太田「不合格通知だね。残念ながら弊社ではご期待に添えませんので、他社でのご活躍をお祈りします」
北山「そうだよな。そういうことなんだよな、コレは。あぁ、朝から凹むぜ」
太田「元気を出しなよ。――お米を炊き忘れたから、トーストとインスタント珈琲で良いかな?」
北山「あぁ、そうか。昨日の晩、全部食べ切ったんだったな。そうしよう。――その切り替えの早さ、俺にも分けてくれよ」
太田「それじゃあ、代わりに何かくれる?」
北山「取引しようとするな。そういう強かさが、今回の結果に繋がってるんだぞ?」
太田「逆だったら良かったのにね。誰かが脳を入れ替えたのかな?」
北山「その例えを持ち出すな」
♪ノックの音。
北山「誰だろう?」
太田「僕が出るよ。――ハァイ。あっ、ケーちゃん」
欅坂「おはよう。ケーちゃんだよ」
北山「どうした? もう朝だぞ」
欅坂「お世話になったお礼に、お母さんと一緒にマフラーを編んできたんだよ。赤いマフラーが、カオルンの。白いマフラーが、コンさんの。緑のマフラーが、ソーさんの。黒いマフラーが、スーさんの。それで、この二つの青いマフラーが、お兄ちゃんたちの」
太田「わぁ、凄い。頑張ったね」
北山「親子関係は、良好そうだ。背も、ずいぶん伸びたな」
欅坂「エヘヘ。もう、腰に手を当てなくて良いんだ」
北山「ん? 何の話だ?」
太田「前へ倣えのことじゃないかな」
欅坂「ねぇねぇ。お願いがあるんだけど」
太田「何かな?」
欅坂「お休みの日は、ここへ遊びに来てもいいかな? お家で過ごすのも悪くないんだけど、こっちのほうが居心地が良くて落ち着くから」
北山「構わないぜ。なっ、陽介」
太田「そうだね、風斗くん。もうしばらく、ここに居ることになったもんね」
欅坂「ワァイ。ヤッタァ」
欅坂、その場で飛び跳ねる。
北山「オイ、欅坂。あんまり床を踏み鳴らすなよ。そんなことをしてると」
♪階段を駆け上がる足音。
天野「朝っぱらからドタバタと何をやってるんだ。まったく、学習能力の無い奴らだな」
北山「ホォラ、お出ましだ」
*
夢を叶えたくなければ、甘んじて努力を怠れば良い。
時代が悪い、親に恵まれない、政治が腐ってる。周囲のせいにするのは簡単だ。
努力したのに自分の夢が叶わなかったからといって、他人が夢見るのを非難する資格はない。
死ぬまで、夢をみて生きよ。
代わりの効かない人間は存在しないが、全く同じ人間は二度と生まれないのだから。
*
夢神は一夜限りの短い眠りを、死神は永遠に続く長い眠りを司る。
天神地祇、妖怪幽鬼は、意外と貴方のすぐそこに隣接してるかもしれない。
それでも、げに恐ろしきは生きしヒトなり。
陰気な飴と陽気な鞭の名コンビは、まだまだ下界を去れそうにない。




