#024「決着へ」
@奥右真総合運動公園
黒沢「お待たせしました。どちらも、まだ来てないみたいですね」
北山「えぇ。まだです」
太田「お待たせ。あれ、ケーちゃんは?」
黒沢「守護天使に預けてきました」
北山「それなら、問題無いな。思えば、最初に欅坂を見つけたのも、この公園だったな、陽介」
太田「そうだね、風斗くん。あれから、もう半年近くが経つんだよね」
黒沢「色々ありましたね」
北山「でも、もうすぐオシマイだな」
太田「うまく事が運ぶと良いけどね。――この作戦の発端は、三ヶ月ほど前に、黒沢さんの内偵で、十河夫妻のダブル不倫発覚したことだよね」
黒沢「夫の博さんはホテルで、妻の愛さんは夫と子供が留守の家で、それぞれ密会を重ねていることが判明しました」
北山「夫婦合わせて博愛ってところが、皮肉だよな」
太田「そこで、木崎さんが夫人を魅了して、赤城さんが十河氏をたぶらかして、それぞれの不倫相手から遠ざけた。ここまでは、作戦通りだよね」
黒沢「そして、同じ日時に同じ場所で待ち合わせて、鉢合わせさせようというのが、今回の作戦です」
北山「わかりやすい修羅場だよな。――それで、二人は?」
太田「お手洗いに隠れてるよ。小窓から様子を見て、二人が揃ったところで出るってさ。遊び人風のおちゃらけた感じの男性と、山姥風のメイクを施した色黒な女性になってるから、きっと見たらビックリするよ」
黒沢「あっ。十河夫妻が来ましたよ。お静かに」
*
博「愛。こんな時間に、こんなところで何をしてるんだ? 奥様懇親会に行ってるはずじゃなかったのか?」
愛「あら、博さんこそ。四、五日、遠方の支所へ出張だとおっしゃってたじゃありませんか」
赤城、登場。
赤城「ヒロくん、お待たせ」
愛「まぁ、何ですの、そのハシタナイ格好の阿婆擦れ者は。まさか、現地妻を拵えになったの?」
博「知らない。誰かと勘違いしてるんだろう」
赤城「ヒドイ。あたしたち、一夜を共にした仲じゃない」
赤城、博の二の腕を掴み、擦り寄る。
愛「本当なの、博さん?」
博「嘘だ。事実無根だ」
木崎、登場。
木崎「待たせたな、マドマーゼル。おや、こちらの二人は?」
博「誰だ、このチャラチャラしたホスト崩れは。まさか、若い燕を飼ってるんじゃあるまいな?」
愛「違うわよ。どちらさまでしょうか?」
木崎「お忘れかな? 唇とハートを奪った怪盗を」
木崎、両腕で愛を抱き寄せる。
博「どういうことだ、愛。説明しなさい」
愛「あなたこそ。その台詞、そのままお返ししますわ」
黒沢、登場。
黒沢「ハァイ、そこまでです。どういうことなのか伺いたいのは、こちらのほうですよ。子供の世話を放棄して、あまつさえ配偶者に愛想を尽かして不倫に走るのですからね。――もう帰って結構ですよ、赤城さん、木崎さん」
赤城「了解です、隊長」
木崎「御意の通りに」
赤城・木崎、退場。
博「お前は誰だ? これは、何のつもりだ」
愛「ハッ。ひょっとして、あのときの」
黒沢「お察しの通りですよ、十河夫人。いつぞやの、生命保険の営業担当でございます」
博「すべて、お前が仕組んだことだったんだな。こんな詐欺同然の真似をして、ただで済むと思うな」
愛「そうよ。いまに見てらっしゃい」
黒沢「啖呵を切るなら、相手を選んだほうがよろしいですよ」
黒沢、悪魔の姿に。
博・愛、腰を抜かし、へたり込む。
博「ヒッ」
愛「あ、あなた、何者なの?」
黒沢、元の姿に。
黒沢「こちらのことを申し上げる前に、お二人のお子さんについて、ご説明いただきたいことが多々ございます」
北山、登場。
北山「どうして夜中に公園にいたのか、どうして一人では眠れないのか。どうしてだ?」
太田、登場。
太田「何で僕たちの元にやってくるのか、何で歯が悪くなっていたのか、何で髪を切らなければいけなかったのか。ねぇ、何で?」
黒沢「幸少年なら、信頼の置ける人物に預けてますので、ご心配なく。それでは、ご同行願いますか?」




