#020「揺籃歌」
@山猫荘
太田「ねーんねーこぉ、ねぇんねぇこ、ねぇんねーこーよぉ」
北山「よく効くもんだな。スヤスヤと寝てる」
太田「本当は、女声のほうが良いんだろうけどね」
北山「そういうものなのか?」
北山、欅坂の髪を軽く指で梳く。
北山「それより、コレ、どうする?」
太田「困ったね。髪を弄りたくなる年頃なんだろうけど、自分で切っちゃったのは不味いよ。セルフカット、大失敗だ」
北山「本来は両親が叱るべきなんだろうけど、理不尽に怒鳴られるだけに終わりそうだ」
太田「ウン。場合によっては、手が出るかもね」
北山「一難去って、また一難だな。ウゥン」
太田「ここも、やっぱりプロに任せようか。気が進まないけど」
北山「ん? 今度も、ここの誰かに頼んでみるのか?」
太田「パターンが読めてきたみたいだね。その通りだよ。でも正直、僕は苦手なんだよね、赤城さん」
北山「あぁ、二〇一号室の。俺も、挨拶程度だな。まぁ、いつもバタバタしてるから、返事が戻ってきたことは無いけどさ。――たいてい、ケバケバしく派手な格好だけど、何の仕事をしてるんだ?」
太田「美容師だよ。彼女の格好には、美意識を疑うところがあるけど、腕は確からしいよ。黒沢さんは、たまにお世話になってるんだって」
北山「ホォ。あの端整な髪型をキープできるとすれば、技量に問題は無さそうだな」
太田「そう。僕も、その点に関しては、まったく心配して無いんだけどね。――あとは、明日にしよう。僕たちも、そろそろ寝ようよ」
北山「そうだな。その先は、明日になってから考えよう」
*
北山「このあいだ木崎さんと食事をしてから、ずっと気になってしまってることがあるんだけどさ」
太田「まだ起きてたの、風斗くん。早く寝なよ」
北山「そう言わず、聞けって。これは、頭の中で考えた机上の空論にすぎないんだけどさ。例えば、俺が脳死状態になって、同時に某ジェー事務所のアイドルが心肺停止したとしてさ」
太田「十中八九、ありえない話だね。エスエフの世界だ」
北山「万が一の確率で、もしも、そういうことが起きたとしてさ。外科手術でアイドルの脳を俺に移植したら、俺は何者なんだと思う?」
太田「それは、身体が風斗くんなんだから、風斗くんなんじゃないの? 眼球にコンタクトレンズを入れたって、コンタクトレンズが入れた人間を乗っ取らないでしょう?」
北山「コンタクトレンズは、人工的に作られた無生物じゃないか。俺に移植したのは脳なんだぞ?」
太田「だから、何なのさ? 実は自分の脳は他人のもので、身体を乗っ取ってるんじゃないかと思ってるわけ?」
北山「ナッ。恐ろしいことを考えるんだな、陽介は。背筋が凍るじゃないか。とんだホラーだ。ウゥ。本当にそうだったらどうしようかと思えてきた。もう、眠れない」
太田「それなら、眠らせるまでだよ。ゆぅりかごーの、うーたを、カーナリヤーが、うーたうよ」




