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#001「人間臭さ」

@山猫荘

太田「奥右真(オウマ)市、端左間(ハザマ)町、四丁目九番地十三号、山猫荘。一時はどうなることかと思ったけど、こういう暮らしも悪くないね」

北山「俺は即刻、冥界に帰りたい。下宿生活なんて、真っ平御免だ」

太田「下宿か。下界での宿泊先だけに?」

北山「イライラしてる横で、下らない駄洒落を言うな。手許に鎌があったら、八つ裂きにしてるところだぞ。フッ。命拾いしたな」

太田「くわばらくわばら。でも、恵まれてると思わない? 住む所だけじゃなくて、制服や生徒手帳なんかも用意してあって、おまけにアルバイト先まで融通してあってさ」

太田、手帳を開く。

太田「二年四組、北山風斗。フフッ。変な顔」

北山、手帳を取り上げる。

北山「そっちは俺のだ。勝手に見るなよ、二年一組、太田陽介。――まったく。生活費くらい支給してくれたって良いだろうに。何が悲しくて、自力で稼がなきゃならないんだ。しかも、何で俺だけ体力勝負の仕事を」

太田「だって、その顔で接客なんか出来ないでしょう。子供がギャンギャン泣くこと請け合いだよ」

北山「悪かったな、キツイ顔で。俺としては、ニコニコと正論を吐いてメンタルを抉る誰かさんより、よっぽどマシだと思うけどな」

太田「僕としては、照れ隠しでツンケンしてるせいで、イマイチ思い遣りが伝わらない誰かさんに言われたくないかな」

北山、部屋を見渡す。

北山「何か、鎌の代わりになりそうなものは」

太田「軽い冗談なのに」

北山「付き合わされる身にもなれ。――ただ、実際に下界で働いてみたことで、なぜ二人で下界に落とされたかは納得できたな。高校生一人のアルバイト代では、到底、満足な暮らしができない」

太田「相当な我慢を強いられるよね。苦学生というだけのことはあるよ」

北山「ウム。理解できるとはいえ、だ」

北山、太田をキッと睨む。

北山「俺を巻き込んだことを許すつもりはないからな。それだけは覚えとけ」

太田「貧乏くじを引かされて、不満の一つも言いたくなる気持ちは、僕も共感できるから、忘れるまでは覚えておくよ。でも、その代わり僕からも言わせてね。たしかに、一億総安眠熟睡計画に賛同したけれど、まだその時点では、風斗くんとタッグを組むことになることを知らされていなかったんだよ、僕」

北山「それじゃあ、何か。もし、事前に知らされていたとしたら、陽介は計画を降りたのか?」

太田「タラレバの話には答えられません。悪しからず」

北山「けんもほろろだな。まぁ、いいや。諸悪の根源は、釈迦と閻魔の痴情の縺れだし」

太田「二者とも、人間にとっては尊い存在のはずなんだけどね」

北山「どれほど立派なものでも、蓋を開ければ大したことないものだ」

♪ノックの音

太田「はぁい。――誰だろう?」

北山「大家じゃないか? また、おかずを作りすぎたんだろう。――いま、開けます」

二人、玄関に向かう。


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