#017「責任転嫁」
@山猫荘
太田「電気ストーブに長時間あたり続けると、トースト肌症候群になるよ、風斗くん。じっくりコンガリ焼けて、男性不妊と皮膚癌へ一直線」
北山「脅しには乗らないぞ。血を抜かれたせいで、こころなしか、身体が冷えるんだ」
太田「忠告を甘く見ないで欲しいところだけどなぁ。――下に行って、大家さんからターキーとヨッシーを借りる? 天然の湯たんぽだよ」
北山「結構だ。これ以上、厄介の種を増やさないでくれ。そうでなくても、ここのところ心身ともに疲労が蓄積してるんだから。もう、クタクタ」
太田「一週間経ったけど、まだ回復してないんだ。適度な疲れなら、よく眠れるんだけどね。バタンキュー、ねんねんころり」
北山「そのままポックリ逝きそうで怖いから、やめてくれ」
太田「フフフ。でも、どうしようかな。もう少ししたら、ケーちゃんが来るよね」
北山「あぁ。この前に言ったとおり、今日は、俺はアルバイトのほうに行くから、欅坂のことは」
太田「分かってるよ。僕に任せて。しっかり稼いで来てね。――トマトジュースでは駄目かな?」
北山「頼んだ。――成分が違いすぎるだろう」
太田「無添加なら良いかな。それとも、塩分控えめのタイプ?」
北山「そういう問題じゃない。――もう、時間だな。先に出るぞ」
太田「行ってらっしゃい」
北山、退室。
太田「(魔物は駄目だから、お隣さんには頼めないし。)あぁ、そうだ」
*
天野「また来たか、この疫病神。いま、何時だと思ってるんだ」
太田「夢神です。相変わらず、風当たりの強いことで」
欅坂「コンさん、久し振り」
天野「何故に吾輩が、このような応対をするか、そっと胸に手を当てて考えてみろ」
太田「心音、心拍、共に異常なし」
欅坂「異常なしっ」
天野「そういうことではない」
太田「ドウ、ドウ、ドウ。事情は道すがら話しますから、一緒に来てください」
欅坂「レッツゴー」
*
@木崎歯科
太田「ウィンウィンの関係だと思いませんか?」
天野「吾輩のウィンは、どこにあるんだ? 貴様が引き受ければ、それで済む話ではないか」
太田「風斗くんの憔悴具合を見てたら、二の舞を演じたくないと思って」
天野「呆れて、二の句が告げないな。吾輩に頼る前に、二の足を踏むべきだ」
太田「いやいや。この一週間、悩んだ上での決断ですよ。ケーちゃんのためにも、一肌脱いでくださいよ、権天使様」
天野「ヨイショしても無駄だ」
太田「せっかくの昇進のチャンスを、フイにしちゃうんだなぁ。もっと賢いと思ってたのに、ガッカリだ」
天野「アァ、エホン。何も、協力しないとは言ってない」
太田「それじゃあ、了承してくれるんですね?」
天野「あぁ。はなはだ不愉快だが、引き受けよう」
太田「ヤッタァ。――木崎さん、朗報ですよ」
木崎「おやおや。これは、権一氏ではありませんか」
天野「貴様、どこから湧いて出た。扉は閉まったままだっただろう?」
太田「そんな、蛆虫やボウフラみたいに言わなくても」
木崎「もう少し雅な例えにして欲しいね、陽介氏。――小生が霧化できることを、お忘れか? 鏡に写らない、十字架と大蒜が嫌い、太陽光を浴びると灰になる、細かいものを見ると数えてしまう、見つめた相手を魅了することができる、聖水を掛けられたり銀の杭で心臓を貫かれたりすると絶命する」
天野「そこまでで、充分だ。失念していただけだ。思い出した」
太田「ケーちゃんのために、輸血パックになってくれるそうですよ」
木崎「ホォ。それは、かたじけない」
天野「間違っちゃいないが、言いかたを変えてくれ、夢神」




