#016「鉄の味」
#016「鉄の味」
@木崎歯科
木崎「欅坂氏だね?」
欅坂「そうだよ。呼びにくかったら、ケーちゃんでも良いよ。先生のお名前は?」
木崎「小生の名は、木崎創牙」
欅坂「フゥン。それじゃあ、ソーさんって呼ぶね」
木崎「随意に、どうぞ。それでは、診察を始めるよ。口を大きく開けて」
欅坂「ねぇ、ソーさん。お願いがあるんだけど」
木崎「何かね? 治療は、やめないよ」
欅坂「ううん。治して欲しいんだけど、痛くしないでね」
木崎「安心したまえ。すぐに済ませる」
*
欅坂「終わったぁ。ソーさん、すっごく手際が良いね。全然、痛くなかった」
木崎「約束を果たしたまでだ。経過を見たいから、一週間後に来るように。良いね?」
欅坂「わかった。必ず来るから」
木崎「約束だよ。小生は二人と話があるから、欅坂氏は、向こうで助手のお姉さんと一緒に居なさい」
欅坂「ハァイ」
*
太田「どうでしたか、ケーちゃんは?」
木崎「見事なグランドキャニオンだったね。カルデラと言っても良さそうだ。さぞかし、痛かっただろう」
北山「欅坂の奴、変なところで大人の顔色を伺って、何も言わないで我慢するんだから、放っておけない」
太田「それで、治療のほうは?」
木崎「ウム。永久歯なら削って埋めるところなのだが、乳歯だからね。この際だから、抜いてしまったよ。抜いた後の様子が知りたいから、一週間後に連れて来てほしい。本人にも、忘れず来るように言ってある」
北山「一回では終わらないんだな」
太田「悪くなくても、定期的に検診を受けたほうが良いけどね。――あの、治療費のほうは?」
木崎「その点なんだがね。あいにく、保険証を持っていないようだから、こちらとしても全額負担を請求せざるを得なくてね。次回も含めて、総額で、このくらいになる」
木崎、バインダーをペンで指差し、二人に見せる。
北山「割と手痛い額だな」
太田「払えそう?」
北山「俺のポケットマネーを当てにするな。陽介も負担しろ」
太田「風斗くんのほうが、稼ぎが良いじゃないか」
木崎「まぁまぁ、口論するんじゃない。生身の人間には、吸血鬼に対する耐性が無いが、二人とも、神様なんだろう? 金銭的負担をチャラにする代わりに、身体で払ってもらおうじゃないかと思ってね。フゥム。どちらも十七歳であるし、五十kg以上であろうから、四百ミリ頂いても問題無かろう」
太田「良い予感がしないね、風斗くん」
北山「そうだな、陽介。むしろ、嫌な予感しかしない」
木崎「案ずることはない。すぐ終わる。大人や魔物の血は不味いから嫌いだが、子供や神様の血は美味しいからね。逃すのは惜しいのだよ。さぁ、今日はどちらが支払うかね? フォッフォッフォ」
*
欅坂「待ってたよ、お兄ちゃんたち。見て見て。お姉さんに、歯ブラシもらったんだ」
太田「おまたせ、ケーちゃん。良かったね」
北山「帰るぞ」
欅坂「あれ? ねぇねぇ、夢神のお兄ちゃん。死神のお兄ちゃん、疲れてない?」
太田「ウン。ちょっと、献血に協力してきたからね」
北山「あぁ。実に、不本意だ」




