#014「ドントウォーリー」
@山猫荘
太田「引き続きケーちゃんをお願いしますね、先生」
天野「仕様がない。例外を認めよう」
*
北山、欅坂を捕まえ、鼻をつまむ。
北山「どうだ、欅坂。窒息する前に、観念して口を開けろ」
欅坂、口を開ける。北山、すかさず口に指を入れ、下の歯を抑える。
欅坂「マッ。アガガ」
北山「おぉおぉ、立派な虫歯だこと。よくもまぁ、ここまで育てたもんだ。これじゃあ、冷たい物が滲みるわな」
太田「ただいま。これは、どういう状況?」
北山「おぉ、陽介。欅坂が、冷蔵庫の麦茶を飲んだあとに急に真顔になったから、ちょっと調べてたんだ。こいつは、歯医者に予約した方が良いぜ。左奥を見てみろよ」
欅坂「グッ」
太田「あぁ、本当だ。これは不味いね」
北山「だろう?」
北山、欅坂を解放する。
北山「いいか、欅坂。家に帰ったら、このことを正直に伝えて、早く治してもらうんだ。良いな?」
欅坂「無理だよ。それが出来るなら、とっくにそうしてるもの。歯医者さんに連れて行くのを見られたら、ご近所さんから、あの家の親は子供にキチンとした歯磨きをさせてないって思われるから駄目なんだ」
太田「フムフム。そういうことか」
北山「だから我慢してたのか。まったく。なんて親だ」
欅坂「お願い。このことは内緒にして」
太田「分かった。僕たちで何とかしよう」
北山「オイオイ。安請け合いするなよ」
欅坂「ケーちゃんの歯、治るの?」
太田「治る、治る。だから、また放課後においで」
北山「オイ、陽介」
欅坂「ハァイ。約束だからね。それじゃあ、行ってきます」
太田「行ってらっしゃい」
北山「車に気をつけろよ」
欅坂、退出。
北山「本気で、どうするつもりなんだ? いくらなんでも、俺たちは歯の治療なんか出来ないだろう」
太田「もちろん、僕たちでは無理だよ」
北山「だったら」
太田「他人の話は、遮らずに最後まで聞こうね、風斗くん」
北山「すまない。続けてくれ」
太田「僕だって、何の当ても無いのに引き受けるようなことはしないよ。一〇三号室の木崎さんにお願いしてみようかと思うんだ」
北山「えっ。あの部屋は空室ではないのか?」
太田「風斗くん。ここで暮らすようになってから今日まで、何回太陽と月が昇ったと思ってるの?」
北山「えぇっと」
太田「計算しないでよ。反語だって分かってるくせに」




