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―五感― 2/14
日々の苦痛にならない程度の絶妙な拘束から微々たる解放を求めて散髪に行こうと思いつき、家の戸を開けたその瞬間に家中の比にならない陽光に襲われた。息つく間もなく緑葉が、ほこりまみれの部屋で鈍っていた鼻腔を上書きするように刺激した。まともにものを見ることができるようになったかと思えば、無音の空間にあった鼓膜を今度はアブラゼミの声が劈いた。喧しさにうんざりしながらもいざと歩を進み、数十間と距離を伸ばしたところで自身を取り巻く情報が思考回路を誘起した。
「なんだってこんなにも嫌な思いをしなきゃならないのだ。」
思いあぐねながらさらに足を延ばす。何故かやたらと出る唾液を飲み込んでは今まで幾度覚えたかわからないその味を再度確認し、ふと腕を見ると湿気を帯びていることに気いた。そこまで来て愚鈍な僕は漸く、まったくもって漸く事態を理解したのである。
「ああそうか、初夏か。」




