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―暗澹たる内心― 11/14
「伸びている分だけ切ってお呉れ。」僕は恐らく店主にとっても無難な要求を投げかけた。後は少し目を閉じて、ここ数刻で得た自らに対する情報を散髪以外は一旦打ち止めることにしよう。そんなことを考え、瞼を支える筋肉を緩め始める。途端、店主はそれを制止し、側面を刈り上げてみてはどうかなどと余計な提案を投げかけてきた。行動を邪魔されたことは遺憾ではあったものの、返答に困る内容ではない。提案を許諾し、再度微睡の世界へと入る手筈を整えた。その所が、この店主、喧しい。揉み上げをどうするだの、耳にかかる髪をどうするだの、逐次問答となりなかなか鋏に手をかけようとしない。午前に思い出したくもないほどいやな気分―ただの独り相撲であるという指摘は正論であるが―になり、もう既に辟易としていた。畜生め、此方人等問答は苦手と言うに、是非で終えられぬ問を聞くとは。ああ、災難だ。抑々、雑貨屋のハンケチの論理に気付かなければここまでは心証を悪くすることもなかったというのに。




