星が落ちる日
今日、世界に星が落ちるらしい。
らしい、なんて曖昧な表現になるのは、まだ私自身、この事実を受け入れられないからだろう。
惑星同士の衝突が原因で破片が宇宙へと散って、それが地球に降り注ぐ。世界中のどこに星屑が落ちるのか科学者も予想できなくて、でも日本みたいな小さな島国は星が落ちたら衝撃で津波も発生して、確実に海に飲まれてしまうらしい。星が落ちても、海に飲まれても、日本人は全員死んでしまう。
もちろん日本中は大騒ぎ。せめて日本から出て領土の広い国に行こうと、中国やロシアに行く飛行機は満員で、空港で殺傷事件も起きた。
これが昼間の話。
夜となった今では、皆、神様に祈ることだけをしている。
どの星が落ちてくるかわからないから、皆、空に向かって手を合わせる。無数の星に彩られた星空が凶器だなんて、あのなかのどの宝石が降り注ぐかわからないだなんて、まるでマシンガンに囲まれているみたい。でも、あの輝きに撃ち抜かれて死ねるなら、私はそれでもいいかなと思う。
「あーあ、私もついに死ぬのかぁ」
学校の屋上に忍び込んだ私は、ここぞとばかりに大きな独り言を呟いた。深夜の学校、星が落ちることもあって、もちろん校舎には誰もいない。
屋上の手すりに寄りかかり、ぼんやりと星を見上げる。
まだ私は中学生、やりたいことはたくさんあった。漫画の新刊も読んでないし、最新の映画も見てない。宿題もやってないし、あの友達と仲直りもできなかった、告白だってしていない。キスも、手を繋ぐことさえも。
「後悔先に立たず、ってね」
物事は全て、終わった後に悔いるようにできている。きっと、星が落ちてから後悔する人はたくさんいるだろう。
私の靴にゴミをいれたあの子も。
私の教科書を窓から投げたあいつも。
私の悪口を言いふらしたその子も。
私に脚をひっかけてきたそいつも。
私の言葉を無視した先生も。
みんなみんな、星が落ちてから後悔する。
「ざまあみろ。一生、後悔してろ」
大口を開けて笑う。いつぶりだろう、こんなに笑ったのは。
数分間大声で笑い、頬の筋肉に痛みが出て、笑うのを止めた。
すう。
胸が大きく上下するまで、深い呼吸をする。
本当は、星なんて落ちっこない。
明日も明後日も何日たっても、なにも変わらない日常が続くだけ。少しだけ、ドラマチックに終わりを迎えたかっただけ。
そういうことにしてもいいでしょう?
だって、私が死んでこの世界からいなくなるのと、全世界が滅亡するの、同じ意味じゃないの?
どうしたって、私は存在しないのだから。
だったら、星が落ちたことにしたって、いいでしょう。
「ほんとに、星が、落ちればよかったのに」
トン、と軽い音を立ててジャンプし、私は空中へと身を乗り出した。
体が宙に浮き、落下していく感覚。目の前には、これまで見たことのないような一面の星空。
空の遠くで、一筋の光が線を描くのが見えた。
ああ、私はきっと、星になったのだ。