莉明の提案。
ホームルームが終わり俺はすぐに荷物をカバンに入れ、部室に向かった。
ドアを開ける。
「よう。」
「やっと来たか海人。」
そんなに莉明が待ったとは思えないが。ていうかなんで莉明はこんなに部室に来るの早いの?
まぁどうでもいい。
「海人一つ提案があるのだが。」
「なんだ。」
一応期待を込めて返事をしたがそこまで莉明には期待をしていない。
「この部、つまり『万有部』はなんでもするんだよな?」
「うん。」
「だったらリクエストボックスを設置するのはどうだ?」
莉明にしてはまともな意見じゃないか。
「それはいい案じゃないか。早速準備しよう。」
俺たちは並のダンボールを用意しダンボールに紙が入るくらいの切り込みを入れ、ダンボールの周りに紙を貼り、その紙に『リクエスボックス』と書き、そこに加えて『なんでもやりますっ!!!リクエストよろしくお願いします!!!!』と堂々と書いて部室の前に紙と鉛筆と一緒に部室の前の廊下に設置した。
やっつけ感丸出しだな・・・・
で、どうする。この『万有部』を設立してからこれっといってやることもなく結局下校時間を迎えて帰るというパターンが最近続いていた。
そして今日もこのパターンになりかけつつある。
せっかく部活に俺も出ているのだからこの部活を無駄にはしたくない。
静寂の中俺は莉明に話しかけた。
「なぁ莉明・・・」
「うわぁ!!海人!!!いま人が通ったぞ!!」
「人が通っただけで驚くなよ・・・」
「でも今リクエストボックスに何か書いて入れたように見えたのだが・・」
俺は少しニヤけながら莉明に視線を送る。
すると莉明はそれに応えるようにニヤけてこちらに視線を送り返す。
俺と莉明は椅子から勢いよく立ちドアに向かって走った。
そして俺がドアを開け、莉明リクエストボックスを開いた。
すると、本当にリクエストの紙が入っていた。莉明がその紙を手に取る。
俺と莉明は部室に入った。
「莉明なに、そそ、そそ、っそそんなに手が震えてるる、る、るんだよ。」
「かか、海人ととと、だってすごくカミカミじゃないか。」
この件を数分した俺たちは冷静になった。
「ふぅ・・莉明とりあえず中身を見ようよ。」
「そうだな。じゃあ見るぞ。」
莉明が二つ折にしてあった紙を開く。
「どうだ?」
「えっと、『好きな男の子がいます。その男の子告白したいのですがなかなか勇気が出せません。私の力になってください。 一年 B組 丸岡田潤美』と書いてあるが・・・」
「えっ・・いきなりそっち系?」
「そっち系のようだが・・」
そっち系ってどっち系?と言いたくなるのだがそこはスルーしておこう。
「それでどうすんのこれ?」
「どうするも何もこの子の力になるしかないだろう。」
(そ~ですよね。正論ですわ。ていうか力にならなかったらこの部の存在価値がなくなってしまう。)
「つまりこの子は好きな男の子がいてその子に告白したいだけだよな。だから付き合いたいとかそういうのじゃないんだよな。」
「海人、乙女心というものは・・・・」
いきなり乙女心について語りだした莉明だが容姿がこうだと全く説得力がない。
「あー分かった、分かったから。えーと、だから告白してできれば付き合いたいっていうことだろ。」
「簡単に言うとそういうことだ。」
はじめから短く言えよ。
「てか一年って俺と同級生じゃないか。」
「それは都合がいいじゃないか。」
都合はいいのかもしれない。でもクラスも違う、そして話したこともない、つまり初対面だ。都合がいいのは同い年だから無駄な気遣いをしなくていいことぐらいだ。
だが、なんせ初めての依頼だ。何から始めればいいのかわからない。
「じゃあとりあえず本人を呼んでくる?」
「そうだな。呼んで来い。」
「えっ俺!?」
「お前以外に誰がいるのだ?」
呼んでくる?と提案したのは俺だが・・・・
まぁ言い訳はできない。
「俺が呼びに行こう。」
といっても手がかりが全くない。この学校は学年ごとにE組まであり顔も見たこともないのでB組のクラスの人に聞かなければならない。
こういう人探しは俺に全く向いていない。おれは人に尋ねるという行為を自らしたことがあまりない。
そう、人と接するのが苦手なのだ。
もうホームルームはとっくに終わって、この紙を入れてすぐ部活に行ったのだろう。
せめて部活が何か分かれば探しやすいのだが。
「じゃあ行ってくるわ。先生に丸岡田さんがどこの部活か聞いてみてみるよ。」
「ちょっと待て、海人。」
「なんだよ。」
莉明が時計の方に指を向ける。
「えっ、もうこんな時間!!??」
「見ればわかるだろ。」
「そうだけど・・」
俺は初めての依頼に舞い上がりすぎたのと、その依頼を考えすぎてタイムラグがおきていた。
「それじゃあこの依頼は明日から本格的にしていこう。」
「当たり前だ。」
莉明は冷たい返事をしたかと思ったが、その後ろ姿からは今日の喜びと明日への期待で胸を躍らせているように見えた。