【第4話】じゃじゃ馬ならし -②ー
はぁ、、、やっと、、、、、書けた^^;;;
シュート!!!
シュートと言えば数あれど。
・カミソリシュート
・隼シュート
・ドライブシュート
などなど。
いえいえ、ボールは友達、てな話じゃございあせんでした。
ども、タモリさんと同じく和製ミュージカルはちょっと苦手な方、袖中鎮香です。
なんだかんだドタバタと
私にとって思い入れも一入のここ県立の劇場「そよかぜホール」にて
舞台管理スタッフとして、見学?研修?にきた当日に、いきなり本格的にお芝居の仕込みの現場に巻き込まれてしまったのですが、、、
先程の照明の球切れ対応もそこそこ、
現在、ここ中ホールでは、、、
「シュート中」
シュート、とは、照明さんが吊り込んだ照明機材(灯体)の
・向き
・フォーカス(広さ狭さ)
を決めていく作業のことです。
(まんま「フォーカス」とも言います)
当然、手作業。
プランナーが客席や舞台上から見て、フロアの照明スタッフに指示を出します。
当然、照明バトンは吊り込んだらもう手の届かない高ぁいとこにいらっしゃいますので、
灯体を「触る」には、でっかい脚立や、ローリングタワー、ジニーなど専用の可動式梯子装置を使います。
高所作用です。当然、皆、ヘルメットに安全帯装備。
ここでの事故が一番多い。下手すりゃ死亡事故だって、、、(作註:本当!)
しかーし、
照明さんが求める、電動バトンが絡むセット転換がない限りは、基本、我ら「舞台セクション」(通称:操作さん)は、
じ~~~
っと、
待つ
待つ
待つ
だけなのですよ。
じ~~~
そんな、ただ今シュート中の中ホールの下手袖で、、、
わた、しは、、、 ちょっとし た 疑問ん をです、 ねぇ、、、、、
ぐぅ
ぐがぁ!!
ぺちっ
と頬に軽い手の感触。
「しずりん、お腹いっぱいで眠いのはわかるけど、我慢我慢だぜ~!」
ふは、とぼんやり、いやでもすぐさま覚醒!
「す、すみません!!」
慣れないと当然だよね仕方ないよね、的笑顔を出来先輩が返してくれる。
そうだそうだ、寝ちゃだめだ!
私が持ち込み側の大道具の時は、シュート中なんてまさに
「昼寝の時間」
父ちゃん社長も他の先輩方も、セット裏で転換の声が掛かるまで爆睡!!
でも今は、この劇場の「管理」「機構操作」のひと。である私。
「吊り物のセットだけじゃなく、照明や音響の吊り込んだ機材のタッパ(高さ)変更もこのタイミングでよくあるのだよ、だから」
はい。さすがに最後までは皆まで言わず、これまた優しく進行チーフが声を掛けてくれた。
改めて、重くなってた瞼をごしごし擦り、舞台の方へと目をやる。
と、
先程まで落ちそうになっていた時にふぅっと浮かんでいた疑問が再び頭に過ぎる。
さっき食堂で進行チーフは「俺たち三人で」と言ってた。
え、でも、それじゃ私がここに来た理由って、、、
確か、
「うむ。あちらの管理の人間がひとり、急遽事故で入院することになったと。人員がカツカツらしく、もう切羽詰まってるらしいべ」
と、父ちゃん社長こと私のいる大道具会社「ほむら工芸」の社長:結野鉄管氏の弁。
では、
「あ、あの、進行チーフ」
「なんだね?」
「ちょいと質問があるのです」
「あ、俺、彼女募集中ね!」
「出来君は彼女募集中だそうだ。ちなみに彼はロリコンだ。そして中二病だ」
「そうではなくて」
「出来君を責めないでやってくれたまへ!!」
「ですからそうではなくて!」
めんどくさいな。面白いけど。
私は、私がここに派遣された経緯を簡単に説明し、
(いつの間にか上手担当の中入さんもここ下手袖にきて話しに加わってた)
「進行さんがチーフで、出来さんが下手、中入さんが上手で管理と安全確認してるんですよね?」
「そうなのだ」
「でも、その、怪我したもう一人の方って」
「ん?」
「はい?」
「ん???」
「は、はいぃ???」
・・・・・
「しずりーな、俺たちだって休みたいっしょ」
、、、っはっ!!!
そか、
そかそかそか、
休館日(月曜日:劇場のお休みは全国共通(例外もあり))だけじゃぁ月に4休のみ。
このきっつい仕事でそれはないわな。しかも県立だし。
「僕らは規約で一応、月に8休を保障してもらっているのだよ。なので」
そかそか、
レギュラースタッフの休暇対応で、そらもう一人や二人替わりのスタッフはいて当然だわさ。
でもその、
「うん、準レギュラーで僕たちの交替要員でいてくれてた見切隠さんが、この間のバラシ中に****で++++っちゃって(作註:リアルすぎるので自粛)」
「ええ~?!!」
「左足首粉砕骨折で」
「ぐ、ぐは! そりゃ、**(自粛)が@@@(自粛)に$$$ってきたら(自粛)、、よく生きていましたね」
「まぁ、命あってのモノダネなのだよ」
そうか、いや、そうだ。
改めて思う。
ここ、劇場というものはとかく危険がいっぱいなのだ。
高所作業しかり。重量物の扱いしかり。
前に父ちゃんから聞いた。
「舞台での仕込みってのはな、正確には「工事」に相当するんだ。だからそれなりの免許を持った人間が立ち会わないといけないし、いわゆる建築基準法にも則って行わないといけないっさ」
舞台は高所作業、大型車両免許、フォークリフト、玉掛け、
照明さんなら電気工事士免許、煙を炊くなら消防法、
音響さんなら電波法に基づいた各種免許、
華やかなようで、実は「がちがちの現場模様」であるのです、舞台って。
「で、まぁ、幸か不幸か、いや、不幸だけど、、、カクさんは事故に巻き込まれちゃって」
流石にこの話題の時にはチャラけず、眉間に皺を寄せて出来さんは話をつなぐ。
「あれ、持ち込みの演出部、、、悪い」
ぼそっと、でもぐっと怒りを奥に秘めた感じで中入さんも呟く。
くっ、っと、重い空気になる、、、 でも、
「でも!こうやって袖中くんが今日から来てくれたのではないか! かなりほむらさんには無理を言ったんじゃないかな? 結野のおやっさんにありがとう! そして」
『ありがとう!!』
なんか、進行チーフの持ち上げた(くれた?)空気に乗せられ、出来さんも中入さんも、
そして私も声を揃えて言ってしまった。
《ありがとう》
と、不意打ちでインカムから操さんの声が届く。
ほへやえ?! とびくついた私に、
皆、爆笑。
その瞬間を見計らっていたかのごとく、すぅうう、と暗かった袖が明るくなる。
シュート対応で袖の明かりも落としていたのだが、明るくなったってことは、
「シュート、以上です。30分音響に渡します。それから明かり作りに入りまーす!」
舞監さんの声が舞台全面に響く。
たちまち、舞台上は今回使うであろう曲やSE(効果音)の爆音が容赦なく響く。
音響さんの「サウンドチェック」だ。
もう、これまでの人生で溜まりまくった鬱憤を爆発的に吐露しているんだろうと(勝手に)思ってやまないこの「サウンドチェック」に入ると、他のセクションのスタッフたちはもう、
「‘‘++‘+@@は?」
「$#5.。え??」
「M,.;@@lh!!」
「+::1え$##?!」
も、会話にならない、できない。
音響さん以外は舞台から逃げたほうが賢明である。
「吊った(ス)ピーカーもマイクも、とりあえずタッパ修正はないとのことだ、とのことだ!」
「休憩~! お、しずらーしか、アイス買いにいこーぜ!!」
もうなんだか私をロシアのコミキャラにしたいのか、という出来さんに引っ張られ、先程の楽屋食堂まで強制的に促される。
もう、なんだかなぁ、、、可愛いなこのひと。
あ、でも、、、、
「操さんは? あの人も休憩、でいいんですよね? だったら」
「だったら、なに?」
「あ、いや。一度ちゃんとお会いしてご挨拶したいな、と」
「ほへ~、真面目っちね、静御前は」
もはや側室かよ。
「操さんはねぇ、、、 ま、その、機会があればまた、ね、、、へへ」
なんだ、その意味深な含みは。
「、、、、レアキャラ」
!! 中入さんにまでそう言わすとは?! はぐれメタルばりの??
と、進行チーフが優しく割り込む。
「操くんはね、ちょっと体力的なことやら人見知りな性格やらデリケートな部分があってね、、、ま、気になるのは分かるが」
あ、うん、そか、、、 それは、、、
「あ、はい、すみません」
「君が謝ることではない。ああ、ない。またいつでも顔を見れる機会はあるさ。でも」
「でも?」
「今日の操くんは、業務上以外の部分でも少し多弁だった。こと、君に関してね」
「は、はぁ」
「操さんも、しーちゃんを気に入ってるってことっすよ、ね?進行チーフ!」
とりあえず「しーちゃん」に落ち着いたか。いや、そうではなく、
と、とーとつに、
「アイスじゃんけん、、、する?」
とは、一番後ろからついてきていた中入さん。
は?あいす?? じゃんけん??
「いえーい!! やろーぜ!! 恨みっこなしな!! チーフも入る?」
「ふふふ、この進行を侮るな。新人の、しかも女子が初めて混ざったとて、、、容赦はせん!!」
ああ、なんかじゃんけんで負けたらアイス全員に奢り、ね。
いや、いいけど、、、 みんなノリが子供だなぁ、、、
私はといえば、
「う~~らっしゃー!!! やるぜぇええい!!! 引かぬ!媚びぬ!省みぬ!!!」
じゃーんけーん!!
「私はグーを出すぞぉ!!!」
、、、、、? は? 進行チーフ??
ほい!!!
、、、ぱ。
ぱ。
ぱ。
ぱ。
「うはぁ~!負けた!! 完敗なのだぁ!!! むむむ、皆、好きなものを言いたまえよ!!」
なんてことはないデキレース。
単純に、チーフさまがアイスを皆に奢ってくださる、のだ。
スタッフ控え室で、皆、子供のように(ある意味そのまま)ぺろぺろと食堂の自販機で買った(もといチーフが買ってくれた)アイスバーを堪能していると、
なんだか、中ホールへ続くバックヤード廊下が騒がしい。
「あれー、そろそろキャストさんの入り時間だけど、なんかあったんすかね?」
「む、、、ちょっと見てくる。いやいい!!! 君たちはアイスをたっぷり堪能していればいいさ、ああ、いいさ!」
「む」
そう言って足早に中ホールへと向かう進行チーフ。
と、中入さんが静かに、でも力強い足取りでその後を追う。
他方、出来さんはみんなの食べかすのゴミを綺麗に片付けて、ポケットからタバコを取り出し喫煙所に向かう。
「俺に一服の時間をくれるあの二人に感謝。ま、なーんかマジモンでヤバかったら走るよ」
それぞれの、、、
ポジションと連携、信頼が、綺麗に取れている、な。
あ、見蕩れている場合ではない、、、私もとりあえず何が出来るかわからないが
走る!!!
っ!!!
中ホールに入る楽屋廊下で、がつん!とひとにぶつかってしまった。
わ!っは、すみません、ごめんなさい!!
「こっちこそごめんなさい! 大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
見れば、紺とグレーの清楚な制服姿の女性。
これは、この劇場のレセプショニスト、、、 いわゆる「受付」や「客席案内」の担当スタッフさんだ。
「すみません、ちょっと舞台でトラブルが」
「すいません、ちょっと楽屋でトラブルが」
・・・・・
は、
しばしの沈黙。
そして、
何故か、彼女から、私へのガン見ビーム、、、、、
え?
わ、わたし、
なんかいけないことでも???
「し、鎮香、、、ちゃん??」
「へ?」
「もしかして、、、袖中鎮香、ちゃ、、ん??」
「へ?ええ??!!! は、はい、ワタクシ、ソデナカシズカと申しますが貴女さまは??」
きゃっはー!!
と奇声をあげて、いきなりその女性は私をぎゅいぎゅい抱きしめ、、た!!!
「きゃー!!鎮香ちゃん鎮香ちゃん鎮香ちゃんきゃーー!!!!!」
むぐ、ぐむうむ、、、 あのあの、、なんか感動の再会を一方通行にされててなんかもう、ね、てか、
息苦しいから離せ
てか、誰ですかアンタ??!!!
ぐっぱぉーん!!!
すみません、
ぐーで殴った。
吹っ飛ぶ女性。でもめげずにすぐ立ち上がる。
できるな、コイツ。
いや、そんな格闘マンガノリではなく、、、
「ぐ、ぐはぁ、、そんなところもやっぱり変わってないですわ。さすが入部初日に3階の窓から軽々と飛び降りただけのことはありますわね」
「え、へ? そ、それって、、、貴女、まさか」
「ひっさしぶりぶり~!!! S高演劇部24期部長、藻切千佳!ここに推参ですわよ!!!」
「きゃ~!! モギーせんぱーい!!!!!!」
モギー先輩こと藻切千佳さんは、私のトンデモな演劇部の入部当日、父ちゃん社長に
「せめて卒業まで入社は待ってあげて」
と、至極真っ当な進言をしてくれた、あの演劇部の部長さんだ。
黒髪ロングは学生の頃から変わらず、清楚で大人しそうに見えるが、内に秘めた炎はハンパない。常に演劇に対するコスモを燃やしている、ブロンズクロスなお姉さまなのだ。
ぎゅわぎゅわ~!もちゃもちゃ~!! っと、お互い抱きつき頭なでなで攻撃など、一通り再会の儀式(あったっけそんなの?)を行った後、
「卒業してからも、ちゃんと父ちゃん社長の下でしっかり修行したみたいですね」
「あ、はい。おかげさまで。でもモギー先輩はなんでここに?」
「卒業してからいろんな劇団の制作とかやってたのでが、、、その絡みでここのレセプショニストのクチを紹介されてましてね。今じゃ「受付のプロ」ってわけなのですよ」
「ほわわ~、裏方でも特殊で大変な劇場の受付さん、、、凄いす!」
「うふふ、嬉しいですぞ後輩よ。 でも舞台の裏方で大変なのはどこも一緒ですよ。 、、、で、今日ここにいるってことは、持込みなのかしら?」
「いやそれが色々あって、ここの常駐管理にって」
「へええ!!凄いじゃない!! でも、大変ですわよ、ここ」
「はい、既に今日初日で色々大変さを目の当たりに、、、てか、モギー先輩、制作サイドでなんかトラブルがあったんじゃ」
「は!!そうそう!! んも、やばいのよまずいのよどーすんのよ!って感じですの!」
「へ?なにがどう???」
「それがね、今回の主演女優の、、、」
ふ、と
そんな私たち二人の背後から影がさす。
なんとも不穏な、
「闇」
言っちゃまずい、聞かれちゃまずい、
そんなことがそこかしこに跋扈するここ
「劇場」
なんか、、、、、 まずい空気っすね、モギー先輩、、、
ここはこっそり、何もなかったかのように、ですねぇ、黙ってこっそり、、、
「マズイわ!鎮香ちゃん!! 逃げろー!!!」
口に出すのかよ!!
(続く)
【劇場あるある】
「インカムあるある」
①入れっぱなしで鼻息
②入れっぱなしで雑談
③入れっぱなしで上司の悪口
④入れっぱなしで持ち込みの作品の出来や出演者のダメだし
③④はもやはフォロー不可能w