【第3話】間違いの喜劇 -後編-
ようやく続き書きました。
いやもうね、ほんと忙しいんです・・・小屋付きってw
とーとつだが、「裏切り」が好きだ。
あ、いや、裏切られてさらに燃える、変な火サスの不倫女のようなそれではなく、
映画でも小説でも、そして演劇でも、、、
「気持ちのいい裏切り」ってあるでしょ?
ストーリーテリングもさることながら、舞台では
「え、なんで急にそんなシーン転換が出来てるの??!」
という、
アナログなのに、
デジタル最新技術も駆使されてるのに、でも、
結局、舞台はいつまでたっても「アナログ」
プロジェクションマッピングなんて使ってても、それを映し出すセットパネルは、
いつまでたっても
「人力」
なのだ。
なので、
舞台転換の裏事情をわかっている今でも、
たった数秒で舞台セットが転換されて、別世界になるのを目の当たりにすると、
ほわわ~~
となる。すげえ。
映像なら、どうとでもなるよ、こんなの。CGでぱぱっと。
でも、
マンパワーで、アナログな転換をしているのだ。
どこでも
どの小屋でも
どの演目でも
そんな「心地いい裏切り」に囲まれている
「舞台」
というものが大好きになって、いま、この業界に私はいるのだが
しかし、
「その転換の手間を軽減させる、というコンセプトを元に、ここの劇場は基本設計から設備まで、最新技術を投入されて立ち上がったのだよ」
と、
ここ、中ホールのチーフ様。進行さんはのたまう。
「自慢じゃないが、最大一気に18本のバトンを同時に動かせるプログラムを打ち込める。ということは」
そう、つまり、通常なら、一気に18本のバトン転換があれば、単純計算18人の大道具の転換要員が必要になるのだ。でも、それがいらない、ということは・・・
「経費は大幅に削減できる。でもそれがいいのか悪いのか」
ふと、自嘲するように進行さんは苦笑いを漏らした。
そう、なのかなぁ。
「おっと!もちろんいいことさ!! ただ、それにはそのシステムを理解し完璧に操れるオペレーターが必要になる」
「なるほど、それが」
「そう、操くんだよ。彼女がいないとこの小屋は回らない。ま、彼女がララアでバトンがビットってとこかな、ははは!!!」
進行先輩は、どうせわからないであろうガンダムネタで自己完結していたが、意外に地味にガヲタな私にとっては、至極、理解しやすい例えだった。
「舞台さーん!!」
と舞台中から声が響く。
立ち居振る舞いからして舞台監督さんであろう。
「舞台さん」
とは、なんとも抽象的な呼び方ではあるが、これはままあることで、
「劇場さん」「舞台さん」と呼ぶのは、
外からきた持込みのスタッフさんの常。
一過性の、特に巡業している座組みのスタッフにとって、今いる小屋のスタッフの名前も覚える余裕もないのだ。
ので、総じて「舞台さん」「劇場さん」とよんでいれば、表面上問題なく、
「劇場付きスタッフ」の【誰か】が応えてくれる。
「む、失礼・・・ はぁーーいだ!!」
と、進行先輩がその声に応える。
ごにょごにょ、と、舞監さんと進行さん、そして持ち込みの照明チーフ(なんなら!!)や音響チーフとの談合が、
ぼそぼそごにょごにょ
・・・・・
と、とーとつに舞監さんが、
「はぁーい! 照明、大道具、演出部は13時まで休憩にします! この間、音響さんはサウンドチェックで!」
と、同時に進行チーフがインカムで、
《はい、俺ら舞台機構も休憩~。13時までね。操さんはここまで取れたタッパ(作註:ここでは高さの数値の意)データの整理ができたら》
《できてます》
《だよね~はは。んじゃ、全体休憩!! 昼ライス!!!》
ふわ、っと舞台全体に「緩和」な空気が漂う。
テコい(作註:スケジュールの厳しいの意)現場だと、ろくに休憩も取れないのがこの業界だが、
きっちりご飯休憩が取れるのは、舞台監督さんの采配と、受け入れ側である劇場スタッフのチーフの采配によるものが大きい。
どれだけ忙しく時間の無い現場でも、
(チーフ=自分自分はともかく)他のスタッフにちゃんと休憩を取らせることができる。これが、「出来る」チーフだと聞いた。
実際、私も他の外現場で出会った照明チーフさんが、
「俺たちゃ「豚」じゃねーんだから、ちゃんと飯食う時間はとるぞ!」
と、舞台監督さんに噛み付いていた状況を見たことがあって、
(作註:実話)
かっこいい
と思ったもんね。
とまれ、
休憩、というゆるゆるモードになったこの劇場空間の中、
私は、ただひとり、緊張を解かず、いや、解けずにはいられない心境だった。
ミサオサン
どんなひとなんだろう・・・
てか、
え、
あの、その「神の手」操さんはどこにいらっしゃるんで??
その私の疑問の表情を察してか、進行チーフが
「ああ、操くんかい? あそこのギャラリーの上の踊り場スペース。あそこを操作盤スペースにしているのでそこにいるよ」
「え、あんなとこ?でもどうやって??」
見上げれば、私がいる舞台下手袖の真上・・・高さでいうと5m程上の踊り場スペースに、なんだか大仰なコンピュータシステムに囲まれた一角がある。
そこに行く手段といえば、端っこに申し訳なさそうに付いているサル梯子ひとつだけ。
「そう、あそこが操作盤エリアで・・・このホールの心臓部であり、操くんの「聖地」だ」
せ、聖地・・・
確かに、言われて
再度、見上げてみれば、そのエリアは複数のコンピュータに囲まれているであろう状況で、でまた複数あるモニタ画面のハレーションで、薄暗い中でもぼんわと浮かび上がっている。
私がそのエリアに魅入っているうちにも、進行さんはじめ、他のフロアスタッフ(後に聞いたが、安全確認要員だそうだ)たちが、各々付けていたインカムセットを外し、
めし~ めし~
と緩和な表情になっていく。
「袖中くん!メシだ!ご飯だ、つまり、昼ライスだ!! 休憩!!」
「あ、はい!」
フロアの安確スタッフの数名が、私の顔を見てはもの珍しそうに、でも、不快感を与えないようにとの気遣いからか、軽く会釈と笑顔を投げかけては去っていく。
「さあ、みんなと一緒に楽屋食堂にいこうじゃぁないか! ま、まずいので有名だけどね! ははは!!」
そう言って、
「みんなへの紹介は食堂でね」
という分かりやすい含みを入れてくれ、私を引導してくれる進行チーフ。
でも、
私は、まだ、暫く動けずにいた。
あの、
「操作盤スペース」
から、目が離せなかったのだ。
どんなとこなんだ、どんなシステムしなっているのだ、どうやってバトンが指一本で動くのだ、てか、そもそも、
操さんて、どんなひとぉおおぉお~~!!???
強化人間?義体化してる?レプリカント?
ともあれ、一目、お目にかかりたいと・・・
「どした?袖中くん??」
「あ、いや、その」
「早く行かないと、マズイなりにも売り切れがあるのだぞ、ウチの食堂は!理不尽!!そして理不尽!!」
「あ、すみません、あの・・・操さんにご挨拶をしたくて」
一瞬、進行チーフは??な表情を浮かべたが、すぐに先程までの笑顔に戻って、
「あ、多分もう操くんはそこにはいないよ」
「?? は、なんで??? ですか?」
「そのギャラリーの裏に別通路があってね。もう彼女は控え室に戻ってると思うよ」
は、っはあ??
まさかの「裏口」かよ。
うむむ~、益々ミステリアスな女性だぜ
と、
《***だ、だれか! まだインカム付けていらっしゃいます?!!》
!!! 操さんの声だ! え??
流れに乗らず、いや乗れず、「休憩」と言われてもまだ渡されたインカムを付けっ放しだった私にだけ、
私にだけ
痛烈に響く、声!
《ギャラリーに!誰か上がっていらっしゃいます?!モニターで見えました、ヘルメットも安全帯もなしで・・・ああ!!》
え?あ、あっと!!
「進行チーフ! 操さんが! あ、その、メットも帯もなしで誰かギャラリーにいるって!!」
「な、なんだとぅ?!!!」
急に緊張感に包まれる。この状況を今知っているのは
操さん、進行チーフ、そして
私!
何がどうなっている! ど、ど、
私は・・・
どうすれば?!!!
(ご飯。 ・・・うん、違うな)
【劇場あるある】
ベテランほど、バレエの仕込みでは「雪駄」
・・・バレエでは、仕込みで必ず「リノリウム=バレエマット」を舞台上に敷きます。
樹脂マットなので、広げたら大道具さんが「蹴って」皺を伸ばして汗だくで敷くのです。
そこに来ている大道具さん(見た目:ベテラン)は、大概「雪駄」を履いてる。
雪駄ですよ、、雪駄。
雪駄でリノ蹴ったら、ふつう指の股、裂けますww
結論:「ハナから【蹴る気なし】」




