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【第3話】間違いの喜劇 -前編-

先週ね、書いてたデータがパソフリーズして全部飛んだんですよw

ここは・・・


舞台?


舞台の・・・袖?



なんだか見覚えのある、いや、そう、


確かに知っている、ここは



運命の出会い

運命を変えた出会い


舞台上には煌びやかな照明ひかりが交わり輝き合っている。


私は、といえば

あの頃と同じ衣装チュチュを身に纏い、でも


身体は今の・・・ いやまぁそれほど体型は変わっていないのだが

それでも一応なんとか大人である、とは分かる程の

(しまった自己嫌悪)


今の、20歳の私が今正に、バレエを踊ろうと


ふと視線を横に振ると、


ああ、そう、


やはり、期待通り予想通り


「彼」が



紫のバールの人



舞台から洩れる照明を反射して、一際輝きを増すその腰に下げた


鮮やかな紫色のバール(くぎぬき)



そのバールに見蕩れていると、彼が


「ほら、早く」


と、手を差し伸べてきた。



私はさも当たり前のように彼の手を取り、そして


そして彼は、(やはり表情は逆光で見えないのだが)

それはそれは素敵な笑みを浮かべて


私を舞台へと導く



上下黒の作業着に足元は足袋・雪駄、

そして腰にはガチ袋と


どこから見ても思いっきり裏方な姿の彼は、

全く臆する様子もなく、私を先導して舞台中央へと進んでゆく。



「さぁ、踊ろう」



憧れの彼と二人で

二人っきりで


いつの間にか舞台の袖周りには

そして客席にも、誰の姿もなく、


二人っきりで



黒とピンク、全く対照的な衣装がくるくるくると華麗に舞う



そして彼は、不意にステップを止めると、


恭しく私に向かって一礼をし、その腰から鮮やかなバールを差し出した。



「さぁ、君にこれを」



手元で見ると、更にその鮮やかさに目を細めてしまうほどの神々しい輝きを持つ紫のバール


「ほら、嗅いでごらん」



彼に促されるまま、私はそのバールをそっと自分の鼻元に近づけてみる。


ああ、


ああ、なんて・・・



「なんて芳しいバールの香り」




!!!!!


・・・はっ。



大方のご想像通り、目覚めてみれば目に入るのは見慣れた工場の仮眠室の天井。


夢オチにお付き合い、乙カレーでございます。



(そうか、昨日はあのまま工場に泊まったんだった)



てか、


「バールの香り」って何っ?!!


鉄さび臭いわ!!



と、

ひとりツッコミを見事に決めたところで、あ、ども、改めて、

「パセリは残さない方」袖中鎮香そでなかしずかです。



高校を卒業してすぐ、なんの運命かめぐり合わせか、

この、アゴも肩も外側楔状骨も四角い「父ちゃん」こと結野鉄管ゆいのてっかんが経営する大道具製作会社「ほむら工芸」に入社し、一人前の大道具さんとなるべく日々精進しているわけなのですが・・・


昨日のこと。


「明日から??!」

「うむ。あちらの管理の人間がひとり、急遽事故で入院することになったと。人員がカツカツらしく、もう切羽詰まってるらしいべ」


出向・・・あの私にとっての運命の場所:そよかぜホールに。

運命の・・・ あの「紫のバールの人」がいるかもしれない、あの、


いや、いない可能性の方が高いのだ。彼はたまたま来ていた(私のような)持込みのスタッフさんであるのかもしれない。

しかし、手がかりが何か・・・ たとえ小さな手がかりでも、少しはあるかもしれない。


でも、よりによって明日からとは。

乙女モードマックスになれないなりきれない複雑なこの心情をどうしてくれる。


あ、でも、


「ふぅん・・・でも、私、あの『そよかぜホール』には父ちゃんが」


そう、

思えば、「ほむら工芸」の社員になって2年・・・

工場からは車で15分程度という近距離、しかもそこでの持込み大道具の仕事も結構頻繁に請けているというのに、


私は件の「そよかぜホール」に、仕事で行ったことはまだ一度もなかった。


父ちゃん曰く、

「お前っちにはまだ早い」


ということ。


「むぅう~~、どうしてですかだよ?」

「鎮香よ、まぁそうムクれるな。お前が仕事できねぇからってんじゃねぇ。

 なんつぅかあそこは・・・」


特殊なんだよ



と。


なのに、


「ああ、あの話な。まぁいい機会だし、そろそろお前っちにもあのホールを経験させてもいいかなぁとは思っていたんだが・・・ まさかこんな形で、なぁ」

「なんなのさ、勿体ぶっていつもの父ちゃんらしくもない」


ちなみにだが、「父ちゃん父ちゃん」言ってますが、もちろん結野のおっちゃんは私の本当の、血の繋がった父ではない。


私に、「父ちゃん」はいない。

ま、


その話は追々、追々・・・


「おいおい、らしくもねぇ、はねぇだろ。実はな、あそこのホールには」

「ほい?」

「『あるもの』が無い」



は?


「あるもの」とは、「とある物」なのか「有るはずのもの」なのか、その言葉の意味はともかく、


「いや父ちゃん、余計わかんないよです」

「いや、だからな、なんつうかお前っちも知ってるだろ、ほらあの」

「え、なんすか?」

「だからあのほらこうやっていつも・・・」


なんか両手で中空を揉みしだくような仕草。なんかエロイ。

なので口に出して言ってみる。


「父ちゃん、エロイ」

「だぁ~!もう! まどろっこしい!! 酒だ、酒持ってこい!!」


なんでそうなるのだ。



ともあれ、時計の針は17時。今日の仕事は早々に切り上げ(といっても大きなオペラ仕事がひと段落ついていたので、大した製作物はしばらくなかった。つまり「ひましてた」)、

受注元から頂いた酒しか入っていない冷蔵庫から、父ちゃんが缶ビールを2本、がしょんと引っ掴んで一つを私に投げてよこす。当然のように500ml。


どちらから言い出すともなく、工場の外へ出て、喫煙所のベンチに腰掛ける。


季節は4月も半ばを過ぎたが、外の並木道には、桜の花がまだもう少し名残りを惜しんでくれていた。夕暮れの風が心地よい。


かぷしゃっ

ぷはー


二人して缶のまま、一気に乾いた喉にキンキンに冷えた液体を流し込む。


「あ、鎮香、お前っち乾杯もせずに飲みやがって」

「父ちゃんだって。てか、何に乾杯?」

「そうだー! なにが乾杯だ! めでてぇことなんざありゃしねぇ!! 畜生~~俺っちの鎮香を取りやがってぇ・・・鎮香をぉおぉおおお」


いや、仕方なしとはいえ、アンタが決めたんでしょうが。

酒は好きだが、すぐに酔っ払って感情の起伏が激しくなる。いい年した大人が子供みたいに。まぁ、そこがこの「父ちゃん」の可愛いところだが。


「まぁまぁ、別に嫁に行くわけじゃないんだし」

「なんだとぅ?!! 鎮香、誰の許可得て嫁に行くんだぁ??!!! そのクソ野郎、連れて来い!!!」


しまった、火に油だった。


「いやあのね、取りあえずさっき言いかけたことを詳しく聞きたいんだけどですよ」

「あに?」

「だから『そよかぜホール』の」

「ん、まぁ、口で説明すんのもアレだしよ、明日行って自分の目で確かめてこいやさ」


さては、酒飲んで説明するの面倒になったな。


「はぁ、でも、『劇場管理』の仕事って、当然大道具とは全然違ってくるよね。できるかなぁ、私に。ってやつですよ」

「大丈夫!鎮香は俺っちの見込んだ男だ。なんだってこなせるっぴゃ!」


一応、生物学上、女ですけどね。

そして酔うとますますキャラが不安定だよ父ちゃん社長。


「ま、冗談は抜きにして(冗談だったのか)、あっちの管理スタッフの統括、つまり偉いさんで真中まなかってヤツがいる。いい加減そうなヘラヘラした面構えしてるが、なかなかやり手だし面倒見もいい男だ。そいつが色々説明してくれるみてぇだ。あいつならまぁ、大丈夫だ。安心しな」


ほう、父ちゃんが他の男性を褒めるとは珍しい。


「朝9時に楽屋口にきてくれと。取りあえず急な依頼だから手ぶらでいいってよ。けど」

「はい、ガチはちゃんと持っていきます」

「そういうことだっち」


それから、まぁ、よくわからない「劇場管理」なる仕事についていろいろ父ちゃんから聞いておこうと思ってはいたのだが、いかんせん酒が入るともうただの新橋のガード下オヤジ状態。

やれ、あの劇団ではシェイクスピア劇なのにスポーツタオルを首にまいて本番に出た役者がいただの、

やれ、あの劇場の衣装さんは60歳超えてまだ現役のオカマで、周りからは「姉さん」と呼ばれているだのどーのこーの、

(作註:実話)


父ちゃんがこれまで経験してきた、舞台裏の面白話をたっぷり聞かされ、


で、気がつけば・・・



ソファ。

天井。


と、冒頭にシーンに戻るのである。


繁忙期には徹夜仕事もままあるので、こういうことには慣れている。


そして、うちの母も、年頃の娘(一応)がむさ苦しいオスどもに混じってがっさ働いて、

泊まりもよくある、なんてこともすっかり慣れっこになってくれていた(だから母ちゃんごめん)。


案の定、ケータイを見ると母ちゃんから


「晩御飯いらないなら早めに言ってね」


とメール、ではなく、ラインメッセージが。


その後、なんだか可愛らしいスタンプが連発で押されていた。



そんな、私よりよっぽど女子力の高い母の、寛容な心と言葉に複雑な気持ちになりながらも、


ケータイの時計表示は午前6時。

ふは、とりあえず一旦うちに帰ってシャワーくらいは浴びれるな。



眠い目をこすりつつ工場の方に出ると、父ちゃんは押し切り(作註:木材を丸ノコで押し切る機械)の台の上で、何故かバレエの「ラ・シルフィード」で使う小道具のスカーフを抱いて爆睡されていた。


(このまま押し切りのスイッチ入れたらいろいろ面白いな)


なんて、ジョージ・A・ロメロも真っ青なブラックジョークは昨日の酒の残りカスだとしておいて(別に父ちゃんに恨みは全くないぞ)、



父ちゃん、ありがと。

なんだかよくわかんないけど、行ってくるわ。


「そよかぜホール」


私がかつて、初めて舞台に立ち、

私がかつて、初めて「舞台」というものを知り、

舞台を好きになり、

そして、

私がかつて、いや、今も、


生まれて初めて恋を知り、恋焦がれる場所。



「風邪引くな、ですよってば」


と、私はその辺にあった雑パンチを、布団代わりに父ちゃんにばっさと被せ、


この「ほむら工芸」に入ってから愛用している、先輩のお下がりの軍用リュックに父ちゃん譲りのガチ袋と着替えの黒Tシャツを数枚詰めて、


がっちょ、とこれまた愛用のママチャリに跨る。



晴れ。快晴。


早朝出勤のリーマンさんや、健康のためにランニングに勤しむ壮年の方々とすれ違いながら、


なんだかまだなんにもわからないまま、なんにもわからない仕事に今から就くのに、


やたらと遠足の日の朝の子供のようにテンションが上がっている私は、がっさ、立ち漕ぎ状態をキープして、自宅のアパートへとすべり込んだ。




**********




「ほ、そうか・・・あの「ほむら」から急遽出向で。しかしよくあのオヤジがOKしたな。ああ、真中が・・・・・ 今日から? ・・・いや、そこまではいい。まずは」


あともう2・3言、聞こえない位のトーンで電話の相手となにがしかの言葉を交わした後、

男は、電話を切る。



薄暗い部屋の中。



どこかの事務所か、彼の私室か。


閉じられたブラインドの隙間から、朝の日差しが申し訳なさそうにかすかに差し込んでいる。


「ま、しばらく・・・様子見、だな」


と、その男は、勢いよく「黒い」ジャンパーを羽織った。



*********



「ごめん、母ちゃん! ただいま!!」

「いってらっしゃい!!」

「って、おーい!!」


と、なんだかもう日常茶飯事のネタ的やり取りになっちゃって、ごめんだよ母ちゃん、でもありがと。


「昨日の晩御飯、お弁当にしてるから」

「さんきゅ!」

「今日はどこ? 工場じゃないの?」

「なんか・・・そよかぜに」

「え?」

「なんかいきなり今日からそよかぜホールの管理スタッフになっちゃった。とりあえず行ってくる!」


と、このやり取りは、私がアパートに帰って真っ先に風呂場に駆け込み、ぶわっしゃーとシャワーを浴びているときに母と交わした会話。


「父ちゃん社長さんから? ま、そうだわね、アンタはあの社長さんの言うことなら回れ右だろうから・・・とりあえず、着替え置いとくわよ。下着、靴下、黒Tと替えの黒カーゴパンツと、あ、足袋も洗ってるの2足入れてるからね。このバックごと持ってけばいいからね。じゃ、お母さん、仕事行ってくるね!」


なんとも高校を卒業して大道具となってから2年・・・ 「大道具の妻」かよ!的、有難き母の適応力。


ほんとありがと、母ちゃん。



ぶわっさ!とシャワーから上がり、バスタオルでもしゃもしゃと髪の毛の水気をふき取り、


ふと、目の前の自分の産まれたままの姿を鏡越しに見ると・・・



20歳にもなりながら、未だ中学生と見間違われる幼児体系。

出るとこも出ず、伸びるかと淡い期待を持った身長も伸びず。


大道具の仕事するのに鬱陶しい!とのことで、バッサリ切ったオカッパの髪。

当然、化粧なんてしない。化粧がセットのパネルを汚したら大変だ。


こんな私が、


憧れの「紫のバールの人」の前に出て・・・



果たして、彼は私を「女」と見てくれるのだろうか。


一抹の、いや、

前々から心にずっと抱いてきた


「不安」



私は、彼に憧れて・・・ 彼とまた再会したくて、


「ありがとう」


と、



ちゃんと言いたくて、


でも、


これは、

この、私の彼に対するこの「気持ち」は、


はたして「恋」


なのだろうか?



彼に近づきたくて、大道具スタッフの仕事に就いた、でも、


今の私は、仕事に追われて


女子力ゼロ!の女になってないか??



っは! と、洗面台の時計を見る。


思い悩んでいるうちに、いつの間にか時間はふつふつと過ぎていたみたいで、



現在、7時55分



やべ、チャリで飛ばしてギリギリか。

大丈夫、私のペダルは弱虫ではない。


うちのアパートから「そよかぜホール」までは、電車を使えば15分弱。

でも、経済的な思考を持つ私は、愛用のママチャリで向かうことを計算して、


約30分



ギリギリだ。



あ、この世界では「30分前行動」が基本なので、


9時集合、なら

8時半に来て


「あたりまえ」



がん!がしゃ!! わっしょ!!!


と、


母ちゃんが用意してくれたバッグを前カゴに突っ込み、自前の軍用リュックをがっさと肩に背負い、


「手ぶらでいい」とはいえ、微妙に知らない現場でもまあ即対応できるであろう、黒ジーンズと黒Tシャツ、黒のフリースパーカーを羽織った私は、


がっしょがっしょと愛車を走らせ、



8時30分


件のそよかぜホール、楽屋口に到着。


なんだか、どきどき。

真中さんと言ったか、あの父ちゃん社長が認めた、ここの技術テクニカルスタッフの統括、長、偉いさん。


なんだか、いろんな思いがない交ぜになって、どきどきだよ、ですよ。



8時45分



こない。


え?


8時55分




・・・こ、こない。



え、えと、これなんだ? 私が間違えたか??


時間か? 9時って言ったよね?父ちゃん。

場所か?? いや、楽屋口ってここしかないよね?



むはー、なんか「迎えに来てくれる」という、極めて受身な状況なのに、

このまま、待ち合わせ時間までにその、「真中さん」と出会えることができないとなると・・・


なんだこの、


「こっちが遅刻した」感は!


この業界で、遅刻はご法度。もう二度と仕事は来ない。


むはー、それはマズイ!とこれまでの経験上、なんとかこのホールの中に入れないかと、


常套手段、というか、スタッフの共通認識として、



「とりあえず、搬入口」



そう、初めて行く劇場で、その現場で誰も見知った人がいないとわかっていても、


「搬入口にいけば誰かいる」



そこにいる、いるであろうスタッフ・・・「黒いヤツら」に聞けばいい。

大体、どんな現場でもそれでなんとかなる、なってきた。

(作註:本当)



案の定、搬入口の方へ回ると、中ホール側への搬入をしようと10tトラックが横付けされており、アオリも開けて、まだかまだかと搬入を待ち望んでいる持込み(であろう)黒いヤツらがわらわら。


ふわ、芝居っぽいな、どんなセットかな? などと、


職業的純粋な好奇心で近づいてみると、



「あー!アンタ?増員? 遅いよ!! ほら、もうマーカス(搬入扉の意)開いたら即、搬入と吊り込みだからね! はいこれ、仕込み図!」


と、ばん!と突き出されるように有無を言わさず突き出されたのは、


照明・・・ の。


仕込み図。

回路図。



は、

は?

はぁあ???



「え、いやその、私は」


と、自分のここでの立場や、今日ここに来た理由や事情を話す暇もなく、


ぐぅうーんわ


と、マーカス扉が厳かに開き、



「ほら!開いたよ!! クソ野郎ども、とっとと搬入しやがれ! 大道具はあとじゃっつっとるじゃろ!! 照明の機材優先じゃ! 照明より先に搬入するやつぁなんぴとたりともぶち殺す!!」


鬼気迫る、いや、鬼も逃げ出す形相と勢いでまくし立てているのは、多分、今回の照明チーフ・・・プランナーであろう。こと、芝居とかバレエなんぞの催しにおいては、とにもかくにも照明さんの負担が大きく、


「時間がない」



ぼけかすあほしね


もう、普通の一般企業なら即、大問題になるような様々なハラスメントな怒号が飛び交う。

あ、言っておきますが、私に「おいこらわれ!」と言ってきた照明さん(暫定プランナー)は、


30代そこそこの


「女性」


ですからね。



とまあ、そんな照明さん業界の理不尽なヒエラルキーを第三者的にぽかーんと見ていると、


「ほら、はよ吊りこめ! ?は?できひんのんか? わからんのか? これなんか知ってるか? パーライトって言ってな、あはは・・・ あっちゃーど素人か・・・ あいつこんなん増員で放り込みやがって!! 殺す、殺して二度と発注せん!! そしてギャラ踏み倒す。殺す。そして踏み倒す。いっそ踏み殺す」


なんだか訳のわからないうちに、照明業界の誰かさんが殺されるらしい。


いやいや、てゆーか、私、照明の増員とかでは全くもってないのですけれど!!

高校の演劇部で、照明のこともちょっとは習いましたけども!


ITOとかソースフォーとか、ヴァリライトとか・・・ すんません、日本語でお願いしますってばよ!!!


「おい、使えんど素人!! もうそこはええわ! 空になったボテ箱(作註:照明機材を入れていた箱)片付けとけ!」



はは、

ははは、


私はここになにしに来たんだっけ・・・



私は違う、と分かっていて、

私は違う、と叫びたいのだけれど、


できな、い、


そんな、


空気、だよ。



父ちゃん、

父ちゃん父ちゃん、

助け


「どぐるわぁ~!! 泣いてる暇あったら、ギャラリー上って回路降ろして来い、ドンガメ!!!」


ひぃい!!!



嗚呼!

せっかく、憧れの「紫のバールの人」の手がかりがあるであろう、運命の劇場

「そよかぜホール」の管理スタッフとして出向することになった私:袖中鎮香は、


赴任当日、なんの因果かすれ違いか、



照明の「ど素人増員」として、


このままいい訳も説明もできないまま、



巻き込まれてしまうのかぁああ??!!!



(つづく)



挿絵(By みてみん)

【舞台あるある】


1寸のずれは「無い」と同じ。


※解説※

舞台セットなどで、1寸(=約303mm)のズレがあっても、でかい舞台でそれを客席から見れば、


「わからんわからん! 誰が気づくか、ぼけ!」


てな、舞台監督や大道具の「ノリ」。


※スタッフの名誉のために言いますが、適当に仕事してるわけでなく、

「1寸のズレを直すためにまた何時間も手間隙かかるなら『ズレてない』として許容範囲とできる、という現場判断です。

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