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【第2話】お気に召すまま -後編ー

やっと本編に入れる・・・かも^^;

「人間こそが神を持つ」


そして、その内なる神に・・・おっと、いやいや、私は無宗教ですよ。


そんな一角獣的人型汎用兵器な世界観はともかく。



私、こそが、ナグリを持つ。



ナグリ=舞台大道具が使う、専用の、いわゆる「とんかち」です。

普通のとんかちとは一味も二味も違います。


でも決して、大道具さんに、


「そのとんかちが」


なんて言わないで下さい。


ナグリなんです。


ナグリは、


ナグリ!(フォント大) なんです!!



だってほら、もし貴方が特殊部隊のスナイパーで、

M16アサルトライフルを愛用してたとして、

通りすがりの素人がそれを見て、


「かっこいい鉄砲ですね」


なんて言われでもしたら、プライドずたずたでしょ?


閑話休題。


冒頭から閑話?!



とまれ、


私:袖中鎮香(当時16歳)は、入ったばかりの弱小演劇部に突然現れた、


この四角いおっさん


もとい、背は低いながらガタイがやたら良く、顔も肩っぱりもやたら四角い、

この高校の近所に、大道具の工場兼本社を持つというこの「父ちゃん社長」=結野鉄管ゆいのてっかんさんに驚愕していた。


だが彼は、この演劇部ではみんなの「父ちゃん」だった。



「いいか、廃棄するものを『一時的に』ここに置くだけだからな。あとは知らねぇ、嬢ちゃんらの好きにしな」

「きゃー!!!」

「風の噂で、森のドロップと玉座が欲しいって聞いた。もってけ泥棒」

「さすが父ちゃん社長!」

「大好き~!!」


先輩方は黄色い声を上げまくったやいなや、だだだと階下へ走りだしてゆく。


私はといえば、ぽかーん。


と、している場合ではなく、

なんとなく状況からみて、この父ちゃん社長さまが、我が部に要らなくなったセットや大道具などを無償提供してくれている、らしい。たぶん。


JKにきゃーきゃー言われたいがために、おっさんもよくやるぜ


なんて、スレた考えは私はしませんことよ。


とにかく、私も一番下っ端として新入部員としてなにか手伝わねば、と

しかし、

今から追いかけたのでは先輩たちに追いつかない。

舞台の世界は縦社会(ただの思い込みだったが後で的を得ていたことを知るが)、そこは律儀?な私は、先輩たちより先にお仕事せねば、と、


目に留まったのが窓の外の雨どい。そして、階下の窓上の梁と軒。


ここは3階。



・・・いけるか?


と、


考える間もなく、体は動いていた。



ほっ と


雨どいに手を掛け、


ふっ と


つま先がしたの軒先に当たると、

手を離して校舎の壁の縦横に走っている1cmほどの梁に指先を引っ掛ける。


ふんっ と、


指先の手応え・・・ もつな、 という感覚を確認してすぐ、

梁の上の足を離してぶらんと遊ばせる。


このようなことを、ふんふん、と連続で2回繰り返したら、


もう、地上まではあと2mほどというところまできていて、


でも、


そのすぐ横のトラックの荷台には、横への距離は少しあるが

高さ的にはもうあと少し、というところだったので、

ふんふん、と振り子のように足で勢いをつけ


りゃっ

とん


っと、荷台の上に飛び降りた。



と、ちょうどそこに

先輩方が駆け下りてきたところだった。


父ちゃん社長はといえば、その荷台からまさにセットを降ろそうとしていたところだったみたいで、


いきなりそらのおとしもの、のように舞い降りた私に、びっくりを通り越して、


ぽかーん


先輩方も、なにが起こったのかわからず、


ぽかーん



え?



あ、えと、なんかスンマセン・・・ 子供の頃から男勝りのやんちゃっ子だったもので木登りやジャングルジムからのダイヴなんてのは私にとっては



「うおぉぉおお~!!! なんじゃ、あんたは天女さまかぁ?!!!!」



いやいや、、こんな私は、吉祥天女ならぬ失笑天女。



唖然としている一同の中、真っ先に正気に戻った(ひどいな)3年の部長さまが、


「鎮香ちゃん? まさかあそこ(3階教室)から飛び降りて・・・」

「え? あ、なんか無茶してすみません。でもとりあえず先輩がたより早くお仕事しないとと思ったもので。あ、でも、飛び降りてはいませんよ。雨どいとあそこの軒とか使ったら割と簡単に」


父ちゃん社長の方を見ると、なんだかいかつい表情で鼻息もイノシシのようにふーふーと荒い。私の顔と、飛び出してきた教室、途中の梁や軒などに鋭い目線を行き来させている。

わ、なんだか無茶して怒らせちゃったかな。


と、2年の先輩が、このなんだか張り付いた空気を和らげようと思ってくれたのか、なんの脈絡もなく私を父ちゃん社長に紹介しだした。


「あ、父ちゃん社長。この子ね、今日からウチに入部してくれた、1年生の鎮香ちゃん。なんと奇特なことに裏方、大道具希望なんだって」


と、その言葉を聞いた父ちゃん社長が、いきなり火山の大噴火のごとく、



「*+¥@@;*・・>~^!!!!!」


と、とても文字にはできない叫び声を上げた。


そして、私が立つ荷台の上にひらりと飛び乗ってきたかと思うと、

私にぐぐいっとその四角い顔を近づけて、


たっぷり10秒


にらめっこよろしく見つめられた(またはガン見された)あと、


私の細い肩(当社比)にごつごつとしたその両の掌を、ごぶわっ!っと乗っけて、



「初めましての娘っこよ。話は聞いた」

「知ってます」

「この世界、厳しいぞ」

「その厳しさすらもまだ知らないひよっこなんです」

「だがその身のこなし、只者ではないな」

「そんな、たまたま」

「本気で、やりたいんだな?」

「・・・はい。本気と書いてマジです」


固唾を飲んで私たちを見守る4人の先輩方。



・・

・・・




「よっしゃ~!! 鎮香よ、おめーは今からうちの社員だ!!」



いやいやいやいや!


流石に私も先輩方も、真っ直ぐに吉本新喜劇的にツッコミを入れ、

入れたのだが、


「なんでぇ!コイツはもう大道具になるべくして産まれた子だぜ!現場ではな、20尺高のパネルにひょいひょい登って手直ししないといけないことなんかしょっちゅうだ。コイツにはその素質がある。遺伝子がもう裏方だ」


なぜいきなり遺伝子レベルまで見抜けるんだ、というツッコミは置いておいて。


「俺様の目に狂いはねぇ。なぁ、嬢ちゃん・・・鎮香といったか。俺の後継者になれ。いや、なってくれよぉ~!!」


さっきまで慟哭していたかと思えば、次は子供のように泣き出してしまった。


なんだか無茶苦茶で突拍子も無い性格のおっさん、いやもとい、父ちゃん社長・・・ だが、そんなこの人が全然憎めないどころか、とっても好きになってしまっている私がいた。


「あの、父ちゃん社長・・・ 鎮香ちゃんもまだ高校に、うちの部にも入ったばかりなんですから、その」

「せめて、その、社員さん?には、卒業まで待ってあげたら?」

「それまで、今まで通りウチの部に遊びにきてくれた時に」

「鎮香ちゃんに、大道具・・・裏方のノウハウを教えて下さる、というのはどうでしょう?」


部長以下、ようやく冷静を取り戻した他の先輩方が、口々に父ちゃん社長に(至極、真っ当な)提案を優しく投げかけてくれる。


私はといえば、


実はこの父ちゃん社長の超無茶振りな申し出を、

結構、本気に受け止めていたのだが(だから母ちゃん、ごめん)、

冷静に、先輩方の言葉を聞いてみると、いやはやどうも、せめて高校くらいは出とかないと、というか、


こんな、今日初めて会った演劇部の先輩方なのだが


たったこの数十分でのやりとりで、



この人たちと一緒になにかやってみたい。


演劇、舞台というものを



教えてください。一緒にやらせてください。


と、



「ようしわかった!! 娘っ子たちがそこまで言うなら、俺様も男だ」



むしろ、「おとこ」ですよ、魁。



「鎮香よ。俺様が今から3年間、みっちり!大道具のノウハウはお前に叩き込んでやる。それでこの娘っこ先輩たちをしっかり裏からサポートしてやってくれ。そして、晴れてここを卒業して、イッパシの大道具になった暁には」


うん、はい、そう。



神をも恐れぬ私に、なんとも神がかりなお導きか。


私は高校入学を果たしてすぐ、


卒業後の就職先がいきなり決まってしまったのだ。




そして・・・



演劇部での校内での公演は、大きく記すと3回。


春の「新入生歓迎公演」

秋の「文化祭」

そして、年末の「クリスマス祭」


秋には文化祭と平行して、日本全国の演劇部が争う


「高校演劇コンクール」


もあるのだが、我が部は弱小・・・ くやしいけど、そこに割く時間も余裕も予算もなく、


毎年、文化祭で披露した作品をそのままコンクールに持っていくのだが、



せめて、

せめてもと、



私が入部した日の事件をきっかけに、父ちゃん社長は3日と空けず部活に顔を出してくれた。


まず彼が私にくれたものが、いわゆる「ガチ袋」だった。


「俺様の使い古しだがよ。ナグリ、バール、ラチェット、カッター、釘袋・・・ とりあえず最低限現場で必要なモンだけつけてある。娘っこだしな、あまり使わないもんをガチャガチャ下げても重くて疲れるだけだ」


袋もベルトも工具各々、どれも色褪せてはいたが、長年使い込んで、所謂「匠」な雰囲気をかもし出しているそのガチ袋に、なんだか恐れ多くて触るのも躊躇われた。


が、


「ほれ!なにしてる?! 早くガチ下げろ!! まずは平台の組み方と、パネルの立て方だ!!」



そうして、


父ちゃん社長から大道具に必要な技術を基礎から徹底的に仕込まれ、


先輩方も、


各公演では、特に必要も無いであろうに、やたら美術セットを提案してきて

(つまり私の仕事を無理に増やして)



コンクール



コンクールで、


部としては初めてであろう


「いっぱい飾り」(作註:舞台全面をめいっぱい飾るセット)


を組んだ。



生まれて初めて徹夜なんかもして、


なんだか、先輩方と父ちゃん社長も交えて


「青春」


してみた。



けど、



まぁ、付け焼刃のシロートに

できることは限界があるわけで。



でも、


そうやって、この演劇部で過ごした日々が・・・



3年の先輩が卒業し、


2年の先輩が3年になり、そして、

彼女らもまた卒業し、



私が入って以来、この演劇部にはついに新入部員はなく


たったひとり、



舞台美術




平面・立面図をVECTORで引き、エレヴェーション(作註:セット完成時の外観イラスト)も描けるようになっていた私は、


文化祭でただひとり


自分の考えた、過去の先輩方の演劇作品の舞台セットのミニチュアを作り

(当然、本当に組んだときの予算なんて度外視)、


教室でひとり。展示会なぞを。




そして、春。



卒業、でも


それは終わりではなく、

終わりの始まり。



卒業式のあと、校門に歩めてみれば、そこに


4人の先輩方と、



父ちゃん社長が。



「ようやく、ようやくだな、鎮香。この時を待ってたずら!」



なんだかキャラがもう安定してない程に興奮している父ちゃん社長に、私も先輩方も屈託のない満面の笑みを返し、



こうしてこの日、


桜舞い桜散る卒業式の日。



私は晴れて、「ほむら工芸」の見習い社員としての人生をスタートさせた。




・・・で、


それから2年。



ぎゅぅうわうーーーーん、、ちゅるんっ


ぱすん、ぱっぱすんっぱすんっ


ちゅうーん、ちゅん ちゅーん、ちゅん


ん、うぃーい、、、んんぐ、ばりばり





じゃりじゃりじゃりーん!!


と、これは電話。



「はい、ほむら工芸! お。あ、はい、お世話になってます。

・・・は、はぁ? はあはあ・・・・・・はいぃ??!!」


ん?仕事の電話か? にしてはなんだか父ちゃん(もうめんどくさいので入社してからは「父ちゃん」と呼んでるちょうどいいし)の様子がいつもと違う。やば、私の仕事でなんかミスが??


「え、いやそれはでもいきなり・・・ しかし今ちょうどウチのもん皆、でっかいオペラのツアーに付いて出払ってまして。 ・・・はぁ、まぁ、いなくはないですが」


いなくは?ない?? なんだ?



「ま、はぁ・・・え?! そこまで?!! なんとも急ですな。しかし」



急な? 発注の変更か? そんなのはいつものことだ。徹夜でもなんでもどんとこい。


「・・・わかりました。とりあえず、急場凌ぎの穴埋め、でいいんですね? なら」


穴埋め?? パテか? いや、ベニヤで裏打ちして色塗りなおして・・・てかどこの現場だ!今すぐ走りますぜ!父ちゃん!!!


ちん



ん?


「鎮香、こっちゃこい」

「はいな」


父ちゃんの複雑な表情。いつもなら、ミスっても怒りはしない、「叱る」ひとだ。

でも今のこの状態は、なんか違う。複雑な、今まで見たことのない


「鎮香、すまない。来月からな」

「は、はい?」


「出向だ。そよかぜホールの・・・ 管理スタッフに就いてくれ」



「は、はぁ・・・ でも、管理って、って・・・」



そ~よ~か~ぜ~~~~??!!!(フォント大)




こうして、


私:袖中鎮香は、


かの「そよかぜホール」に、何の運命のいたずらか


あの時、


幼き頃見た、そして助けてもらった「黒いヤツら」の一員として、


赴任することが決まったのであった。




(つづく)

【舞台あるある】

リハーサルと全く違う動きをする出演者に、スタッフ右往左往!

(せめてキッカケは守れ)

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