【第2話】お気に召すまま -前編ー
なんだか長くなってしまいましたので、まだまだ続きます^^;
ぎゅぅうわうーーーーん、、ちゅるんっ
ぱすん、ぱっぱすんっぱすんっ
ちゅうーん、ちゅん ちゅーん、ちゅん
ん、うぃーい、、、んんぐ、ばりばり
以上、工場の音でした。
え?なんの事かさっぱりわからない??
仕方ないですねぇ。では・・・
上から順に、
・パネルソー
・エアタッカー
・押し切り
・インパクト
の音でした。
は?ますますわからない??
もう、
ぐぐって下さい(フォント大)
ちなみに「工場」は「こうじょう」ではなく「こうば」と読みます。
まあ、これがまんまと映像化でもされようものなら一目瞭然なのでしょうが、
それは凡筆者の儚い夢としてスルーして・・・
先ほどのような五月蝿い、でも慣れると小気味もよくリズミカルな音は、
ここ「ほむら工芸」の工場から毎日朝から晩まで(下手すりゃ朝まで)響いている音だ。
「ほむら工芸」は、いわゆる「大道具製作会社」で、小さいながらもこの業界では老舗で、
安い・早い・上手い、そして「無理がきく」という、この業界で生き残るための要素を最大限にもっているのだ。よって、大きな劇場さんや劇団さん、イベント会社さんからの発注が後を絶たない。
そして、申し遅れました私:袖中鎮香は、現在20歳にして、
今はここ「ほむら工芸」の見習い大道具としてお世話になっておるわけですな。えへん。
思い起こせば12年前のバレエ発表会・・・
あの時、緊張してびびりまくっていた私の背中を押してくれたスタッフさん。
腰に下げていた工具などから、たぶん大道具さんなのであろう(とは後々の知識で知る)
その人は、それ以来、私の憧れの人となった。
彼が持っていた、なぜかそれだけ裏方には似つかわしくないような、
色鮮やかな紫色のバール・・・
【紫のバールの人】
ああ、貴方は、
セットを組んだりバラしたり、場面転換してくれている上に、
出演者のケアまでしてくださるなんて、なんて高貴なお方なのかしら。
嗚呼、
【紫の バール の人】(フォント大)
と、
やばいやばい、ガラにもなく少女マンガってしまいました。
これでは僕地球だ。
ともあれ、その一件以来私は「舞台の裏方さん」という職業に憧れを抱くようになったのだ。
決して、
同じ業界・業種に入れば、またその【紫のバールの人】に再会できるかもしれない
なんて浅はかな夢と思惑を持ったからではない。
と、しておいて下さい。
駄菓子菓子、
その、所謂「舞台スタッフ」というものに、どうやったらなれるのかが判らなかった。
母に聞いても当然?マークが浮かんでる始末で、
(でも流石に「なにいきなり突拍子もないこと言い出してるんだこの子は」というような
いぶかしんだ様子は見られなかった。奔放な性格の母でよかった)
小学校の先生に聞いてももちろん全くわからず、ただ、ちょっと天然の入っていたその時の担任の女性教諭は、
「ん~、大工さんみたいなものだから、とりあえずトンカチとか売ってるところに行ってみれば?」
という全く的外れなアドバイスを真に受け(純粋だったのだその頃は、いや、も)、
近所のホームセンターで一日ウロウロしてもみたが当然なにも収穫はなかった。
よく補導されなかったものだ。
バレエ教室の先生に聞いてみれば
と、子供にしては名案を思いついたものの、実は私はあの発表会を最後にもう教室を辞めてしまい、
今更、なんともつまらない子供の疑問だけのためにまた教室に行くのも、なんだかバツが悪くてできなかったのである。
そうやって悶々としたまま中学に上がり、暇を見つけては舞台スタッフになる方法をいろいろ密かに模索していたが、(密かに、というのは別にやましいことがあるわけではない。か弱き乙女が腰にがっちゃがっちゃ工具を下げたガラッパチの大道具になりたい、と思ってることを周りに知られるのが、嫌ではないがでもちょっと恥ずかしい、微妙なお年頃だったのだと思ってくれ。下さい)
ある時、音楽の先生がミュージカル好きという噂を聞きつけ、その先生にこっそり聞いてみると、
「そうね・・・アタシも詳しくは知らないけど、音響さんとか照明さん?ていうのは
特殊な技術が必要だから、資格がいるって聞いたことはある。あ、そうそう、専門学校
もあったはずよ。大道具は・・・うーん、ちょっとわからないわ、ゴメンネ」
そうか、大道具だけ判らないとは・・・
なんともミステリアスで因果な職を選んだものだぜ私は、ふふ。
などと中二病よろしく(中二だったが)悦に入っている場合ではない。
あまり期待していなかったとはいえ、やっぱり収穫なしかぁ、と落胆の色を隠せずに去ろうとする私の背に向かってその先生は、
「あん、でもほら!高校!高校に行けば、「演劇部」があるでしょ? 鎮香ちゃんが
どの高校にいくかはともかく、どこにだって演劇部はあると思うから。そこで先輩や
顧問の先生に聞いてみれば?!」
なるほど!演劇部かぁ。さすがにいいところに目をつける。
やはり音楽を愛するガチムチ男性教諭の意見は一味違う。
これ以来私の、進学する高校選びは、
「演劇部があるかどうか」という、とてもシンプルなものとなった。
偏差値とか学校の設備とかは元より、それこそ同じ演劇部でも
【規模の大きい、コンクール常勝の演劇部に!】
などというかんたーびれ的な事を考える頭はこれっぽっちもなかった。
馬鹿だったからではない。
ただ、シンプルに自分の将来の目標に暗中模索だった私に、一筋見えた光明・・・
そこに、真っ直ぐに何も考えずに突き進むだけなのだと。
馬鹿だった。
いや、いい意味で。
そもそも、見た目も頭の中も、そして家庭の懐事情も(かーちゃん、ごめん)、
取り立てて抜きん出たものもない、なんとも
「普通」
な、一少女だった私が、高校受験に際してできることなどしれていたということ。
自分の偏差値に合った、自宅から程なく通える距離の、そして公立の高校。
で、演劇部がある。
自ずと絞られ、いや、当時の担任曰く、
「ここでいいんじゃない?」
との一言に、
そーだなー、ま、ここしかないわなー、と
絞った高校に志願し、あっさり入学。
ま、演劇部があるんだし、入ったらなんとかなるさ!
的な、いやもう自分の楽観的思考がこれほどあほらしく・・・
しかし、
しかしなのだ。
入学したその、H県の郊外に位置し、自宅からも電車で20分というなんとも好条件の
県立S高等学校普通科において、
私は、
夢を追いかけていながら、なんだかまだ夢に夢見てのらりくらりとしていた
私:袖中鎮香(当時16歳)は、
自分の馬鹿さ加減・適当さ加減に神の祝福があるかのごとく・・・
ここで運命的な出会いをするのであった!!
(長くなったので、中編へ続く)
高校演劇の話は、それだけでドラマ1本撮れるくらいネタが満載なので、いつかスピンオフを書きたいな、て、とりあえず本編仕上げてからでしょw