【第4話】じゃじゃ馬ならし -⑧ー
あらー
いつのまにやら2ヶ月も空いてすみません><;
とぅ~~~るるるる!!
とぅ~~~るるるる!!
なんて擬音を書くと、ドッピオかよ!ボスからかよ!とか突っ込まれそうですが、
なんかLINE電話の着信音って、そんな感じじゃないですか?
なんてこと考えている場合ではなく、仕事の帰り際、電話を掛けてきたその相手とは…
「ちょ~~っとしずぅかちゃ~ん! あにしてんのよぉ~~~」
なんともはや、べろんべろんに酔っ払ってるであろうことは明白な、
しかしそんな姿(声だけだが)は初めて見る、S校演劇部時代の先輩
そして今は、そよかぜホールのレセプショニスト(受付・客席案内係)である
モギー先輩こと、藻切千佳先輩からだった。
「あ、モギ-先輩、お疲れっす。今上がって帰るとこだよです」
「あー?? どーこー??」
「え、あいや、まだ、そよかぜの搬入口あたりで」
「・・・そこ出てまっすぐ行って、一個目の信号右の『鳥下僕』ね」
「・・・は?」
「秒でこーい」
・・・
高校時代は清楚で、でも演劇にはとことん真っ直ぐだった先輩が、
どうもメンドクサイことになってる模様。
とりあえず、母ちゃんに連絡。
「母ちゃんごめん!今終わって、小屋出たんだけど・・・もしかしてピザは」
「むーん、親不孝な娘にピザなんて勿体無いです~! きゃっは~!ぜーんぶ食べちゃった!!」
やばい、こっちも酔ってる。
「あ、うん、ごめん、それなら逆に都合がいいっていうか・・・ ちょっと先輩に飲みに誘われちゃって」
「はいはーい。そんなことだろうと思ったわよ。気にしなくていいから楽しんできなねー。あ、残したピザはいつでも食べれるように冷凍しとくからねー」
はぁ、強がってさぁ。
全部食べたんじゃないのかよ。どこまで娘思いの母かよ。
「あ、うん、ありがと。テッペン(0時)までには帰れると思うから。多分。帰れるとは思うからー多分」
「はいよー。飲むなら自転車置いてきなよ」
はい。
もちろん、自転車でも飲んだら飲酒運転。
先輩が言ってたお店はホールから歩いてもすぐっぽいので、改めて駐輪場に自転車を置き、
ぽてぽてと歩いてそのチェーンの焼き鳥屋を目指す。
【お客様は神様です! 鶏と店員は下僕です!】
がキャッチフレーズの、格安チェーン焼き鳥屋の看板はすぐに見つかった。
がらりと戸を開けると、
しゃーせー!!! よーこそー!!! おーーひとりさま喜んでー!!! 踏んづけてーー!!!
という、想像通りの出迎えを受け、
「あ、多分、連れが・・・」
と言うが早いか、カウンターで2合徳利を3~4本転がしてるうら若きダメ女を発見。
すかさず、隣に座る。
「モギ-先輩、大丈夫っすか??」
「あー、だーれぇ??」
ま、、典型な反応だわな。
こんなことには、がらっぱちの大道具のオッサン共に混じって仕事して飲んで
飲んで飲んで飲んで
(まさかこんは私が酒豪、というかいくら飲んでも「大体最後まで冷静」な気質だったことに我ながら驚いたが)
てのは、さんざ経験してきたので、こんなのも特に驚きはしない。こと、この業界では。
しかし、相手が、かつての演劇部の見目麗しい先輩部長だと、
引く?
いや、引かないよ。
この業界はそんな人をそんな風にさせてしまうのだ。
ここまでくるのに、色々辛かったんだろうなぁ。
重ねて、今日の問題もあっただろうし
「モギ-先輩!鎮香ですよ。お呼びにより、只今参上!ってやつですよ!」
「ん?? むおー!! し~ずかちゃぁ~~ん!!」
なんかまた頭をもちゃもちゃされたけど、
とりあえず先輩を落ち着かせるために・・・
水
は?
な訳ないでしょ。
「お願いしまーす、生大と、熱燗2合おかわりで」
こういう時には、とことん乗っかるのだ。
ぱんかーい!!!
(演劇部時代の伝統の「乾杯」の言葉)
「モギ-先輩、とりあえず酔い覚ましに一回ビール入れときましょ」
「そ、そうね」
「大丈夫です。熱燗は私が頂きます」
ま、これくらいでバランスが取れるってもんです。
お互い、程よく喉を潤して
折をみて
「で、先輩・・・ やっぱ今日のことで上から色々怒られちゃったですか?」
「むー、ま、多少はね。それよりも」
「よりも?」
「色々騒がせた責任って訳じゃないけど、あの今回の中ホールの芝居で主演の「久慈原ヨリカ様」がね」
「あー、言ってましたね。なんだか「楽屋ぜーんぶ貸切に」って」
「そーそー!ありえないでしょ?!でも結局、ホール側がそれ受けちゃって」
「えーーー。じゃあ、ほかのキャストさんとかどうするんだですよ」
「奈落に仮設楽屋作って対応、とかって」
「えーー!!!」
「そして、私が特例で、奈落含めた楽屋周りのケア担当のチーフに、と」
「えええ~~~!!??」
わ、こりゃまた大変だ。確かにホールの奈落(地下)は備品置き場や工作場などにもなっているが、それを除いても広大な面積は確かに・・・ある。
年に1度のホールの大々たる主催事業のオペラの際なぞ、メインキャストやコーラス隊、オーケストラのメンバー含めると、とても既存の楽屋でも賄いきれないので、奈落に仮設楽屋を設営するとは聞いたことはあったが
「たかだか、持ち込みのツアーの芝居でしょ? なんでそこまで」
「一応、共催事業にもなってるし」
「にしても」
「んなこたー、さっきまで私も上と戦ってきたんだよー!!」
・・・
そか。
先輩、ごめんなさい。
私は、裏方に憧れ、裏方「しか」知らず
この道に入って、たった2年だけど、まがりなりにも「プロ」として仕事させてもらってきました。
先輩は、役者は辞めちゃったけど、「レセプショニスト」として、私とはまた畑の違う「裏方」として、
今も愛する「舞台」の世界で生きている。
だからこその、
思うようにできない
もどかしさ
くやしさ
久しぶりの再会でだったけど、
やっぱり貴女は今でも、
私の尊敬する、舞台を愛している「先輩」だ。
「でもね、モギ-先輩、そのヨリカさまって、そんだけ楽屋独占して何がしたいの?ってやつですよ。ただの自己顕示欲?」
「ん~、私もそうなのかなー、って思ってたんだけど・・・ なんか上の対応もちょっと違うような」
「どんな風に?」
「なんかね、急遽、ホールと提携してるホテルのレストランから厨房機材や調理機材の搬入が大量にあるって言われて」
「は??」
「明日も朝からその対応なんだけど・・・なんだろ?小屋入り中、三食高級グルメ独り占めしたいってこと?とか思っちゃって!」
『海原雄山かよ』
これは二人のユニゾン。
かかかー、っと笑ってろところに、
がらり、と、お店の戸が乱暴に開く。
お、襟矢さん、まいどー!
との店員の声
そう、入ってきたのは、
今日、すったもんだで私もモギ-先輩もお世話になった
そよかぜホール:小屋付き照明チーフの
襟矢集登さん
その人であった。
「おう、ほむらの新人ちゃん。今日はお疲れ。ここで飲んでたか、やるねー。ここは小屋のスタッフみんな行きつけだ。・・・っと隣の女は」
とたんにがばっ!っと立ち上がったモギ-先輩
「も、藻切千佳! と申します!! か、彼氏募集中です!!!!」
・・・直球かよ
【続く】
ひっぱりまくりましたが、ようやく「じゃじゃ馬」がなんなのかが明らかになります^^;
と、
ここで勝手にキャスト表作成!
皆さんの為です。
決して!作者のためではありません!!(コピペ用とか言わないでw)
・袖中 鎮香 主人公。女性。子供の頃に助けられた舞台の裏方「紫のバールの人」に憧れ、再会を求め舞台スタッフに。入学したS高校の演劇部に、なんと「裏方志望」として入部。その部に手助けをしていた、近所の大道具製作会社「ほむら工芸」の社長:結野鉄管に才能を見出され、卒業後すぐ社員となってがちむちに修行を始める。そして何の因果か、紫のバールの人と出会ったきっかけである「県立そよかぜホール」へ、管理スタッフとして出向することになった。ちなみに母子家庭で、結野社長のことは愛情も込めて「とうちゃん」と呼んでいる。20歳
・結野 鉄管 鎮香に大道具の才能を見出した、大道具製作会社社長「ほむら工芸」社長。涙もろい。65歳
・進行 守 鎮香の出向先となった、県立「そよかぜホール」の中ホール舞台チーフ。さわやか青年。38歳
・飾 操 そよかぜホール:中ホール操作盤オペレーター。全電動機構のホールにおいて「神の手」を持つといわれるミステリアスな女性。??歳
・出来 明 チャラくてパリピな中ホールスタッフ。でもその実、心根は真っ直ぐな憎めないやつ。演劇関係の催しに長けている。28歳
・中入 障子 中ホールスタッフ。大柄でいかつい顔つきだが、とても温和で女子力が高い。歌舞伎、能、舞踊など、古典芸能の知識に長けている。40歳
・真中 心 そよかせホールの舞台統括部長。現場のトップ。しかし立場とは裏腹に、常に現場を気遣うスタンスはあらゆるスタッフから信頼を得ている。結野とも昔ながらの付き合い。48歳
・襟矢 集登 そよかぜホール付きの照明チーフ。いつも飄々としているが、押さえるところ、やるところはキッチリする性格。45歳
・藻切 千佳 鎮香の2コ上の、S校演劇部の先輩であり当時の部長。鎮香を「ほむら工芸」に推した当事者でもある。現在は、そよかぜホールのレセプショニスト(お客様対応スタッフ)として従事し、鎮香と再会する。22歳
・久慈原ヨリカ 今をときめく、TV・舞台にも引っ張りだこの「大女優」。大女優だけに、方々の現場でもワガママし放題だといわれるが…