表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

【第4話】じゃじゃ馬ならし -⑦ー

あー、当初想定していた「じゃじゃ馬」は別のひとでしたが、

そうですか、そう転がりますか! という他人事ながら、無責任ではありませんよ。

(書きながら話の流れが変わるのはそれはもう、ノリで書いてますから)

号泣~!!


してる、黒いヤツらの先輩方はさておき、


私は、颯爽と去っていくこのホール(小屋)のボス


真中統括


に、ふわっと感動はしたものの、はと冷静に気持ちが戻れば



「おいおい、私をはじめての現場でおいてけぼりのぼっちにした張本人やないかい~」


なんて、


ちょっと、モヤっっと感が湧き出てきましたもので、



たっ と、駆け出し、その黒いスタッフジャンパーの背中に駆け寄る。



「あ、あの!!」


ふ、と足を止め振り返る真中統括。

ゆるっとこちらに向き直り、


「ん?なにかな? っっと・・・」


私の顔をしばらくじーーっと見つめ、何かを思い出すように目線を斜め上に泳がせたりもした上で、


「そうか、君は!」


「は、はい!!!」




「スタッフパス、(装着)してないね!!」



だー!! ここの人はTOPまでも天然かぁ~!!!



一瞬、きょとんとし、しかしすぐ、ちょっとなんかむっかーってしてきた私に、


さらに統括さまは顔をぐわん!と間近に近づけてきた・・・



は、はわ、、、これは



ちゅー



される距離だ、そうだ、これは「りぼん」で読んだことある。ちゅーーーの!!!





と、取り乱しもパない私に向かって、ようやく統括部長様の言葉が発せられる。



「あ~~!! 君かぁ!! ほむらの、あ、結野のとっつぁんとこの!!」


は、っと冷静に戻り


ほむら・・・結野・・・ あ、とうちゃん。 そだ



「え、あ、はい! ほむら工芸からきました、袖中と申します!!」


「そうか! いやいや、今朝はごめんね~色々トラブッちゃってさ。大丈夫だったかな? まあ、進行がしっかりやってくれてると思ってたから、そこは心配してなかったんだけどね」


「い、いえ~~。あ、は、はいい~~」



真中統括の表情は、相も変わらずニコニコ恵比寿顔なのだが、


んん~~、 なんだか、心の奥底が読めない人だなぁ。



「急に無理言って悪かったね。まあ、聞いての通り、特殊な設備が一杯で面倒くさい小屋だけど、慣れてみたらなんてことはない。やってることは他の小屋と一緒だしね」


「は、はぁ・・・」


まあ、そうなのであろうが、しかし、


全電動コンピューター制御


というのには、アナログな世界が当たり前という「舞台屋」が、

すぐに慣れろ、というのは、なかなか酷なもんですよ~。


「まあ、こっちも急遽お願いした立場だし、無理なことは言わないし、ゆっくり無理せずうちの小屋のやり方に慣れてくれればいいから。 ・・・っと、ごめんね、名前なんていったっけ?」


「あ、はい、袖中です!」


「下の名前は?」


「・・・鎮香しずかです」





「・・・・・シズカ、くん、ね。ふむ」




・・・なんだ、今の間は。


と、ふいに舞台側から


「しーちゃん、どこー??!! タッパ修正入るよー!!」


と、出来さんの声が。



「お、呼ばれてるね。さ、行き給え。とっつぁ、もとい、結野さんには山ほど借りがある中、更に頭が上がらない状況に、よくうちに来てくれた。来てくれたからには、しっかり働いてくれよ、いや」


少し逡巡し


「本当に助かる。若い君には負担が重過ぎるだろうが・・・ 助けてくれたまえ」



え??


っと、まさかのそんなエライサンが、こんな下っ端ヒヨッコの私に最敬礼を・・・!!



「しずりーなぁー!! どこー!! 俺のこと嫌いになった~~!!???」



どうやら錯乱しまくりな出来さんの声が更に響く。


「お、すまない、早く現場に戻ってやってくれたまえ。しばらく無理を掛けるが、よろしくな」



さ、っと身を翻して、ホールを去る真中統括閣下。


なにか・・・私に対して含みのある物言いや表情が、妙に気になったものの



私はといえば、


軽くその背中に一礼し、ダッシュでホール内へと戻り、インカムを装着する。



「すっすす、すみませんでした! 袖中、インカム被りました! 今、下手です!」



既にホール内では、照明の修正のため、サスが目まぐるしくアップダウンしている。


インカムからは、進行チーフはじめ、各スタッフと操さんとのやり取りが忙しく交差している。



私はといえば、まだアップダウンのオーダーを出せる立場ではないので、オーダーに合わせてひたすら安全確認に動いて声を出す。出す出す!!叫ぶ!!



2SUS降りてまーす!! 危ないです!! あー今その下入らないで!!!


今日はそれしか出来ないが、それもまた大事な舞台での「仕事」



一通り手直しも終わり、舞台上は照明さんの


『明かり作り』(作註:打ち込み、Cue入れ、などともいう)


の時間となる。



またまた、しーーーんとなる舞台上。


ふと、時計を見れば、



うをっは! え、もう20時回ってる?!!



と、近づいてくる進行チーフ


「あー、あとは照明さんの明かり作りで今日は終わりだなー。鎮香くん、初日から遅くまでお疲れ!!ああ、お疲れ!!」


「あ、は、はぁ・・・」


と、生返事を返して、また私は舞台の方を見やる。


次々と変わっていく明かり。それをいちいち作って、照明卓にデータとして打ち込んでいく。


さっきチラッと、うちの照明:襟矢チーフが横に来て、照明のCueシートを見せつつ


「はは、Cue、1200以上だってよw。俺なら絶対断るわ!」


ですって。


大変なんです、こと、お芝居やダンスなんかに関しては、



【照明が全て!!】



なとこ、ありますもん。



あの、ちょっと(いやだいぶ!)イカツイ、


なんなら~!な持ち込みの照明チーフさまも、心も身体もいっぱいいっぱいな中で、


つい、


あーなっちゃのかなぁ、と。


今も、全く休憩も取らず、ひたすらCue打ちしてるもんね。



プロ



って言葉は、概念が曖昧なんだけど、


現場で見て、初めて 『ああ!』 って思うことがいっぱい。



私も・・・ まだ駆け出しながらプロとしてできることって・・・




「だーから、鎮香くーん!!!!!」



え??!! はた、っと現実に戻る。


ちょっとテンション上がりつつ困り顔の進行チーフが、私の真横で


ふあーふはー


してた。



「え、えと、は、はい?? すみません、なんでしょう??」



ふー、とため息一息。進行チーフが安堵の表情と優しい口調で



「今日はもういいのだ。後は我々に任せて、帰っていいよ。朝から慣れないことばかりで疲れているだろう。いや!疲れているだろう!!」


「え、いやでも」


「反論は聞かない、ああ!聞かない!! ・・・今日はもう帰りたまへよ。明日からも大変だぞ。ゆっくりやすむのだ、そして休むのだ!! 明日も9時入りでよろしく!」


と、割り込むインカム


「しず~!早く帰ってぐーすか休めな~!」

「む!むむむ!!!」


なんとも、


こんなこわっぱに私に、気を遣い撒くってくれている先輩方に、感謝しかなく、

そしてもちろん、そんな先輩の優しい申し出を断るのは、この業界でもせんないこと。

素直に受け止め、明日からの仕事でお返しするのであーる。究極超人あーる。


では、遠慮なくお先に、とインカムを外そうとした矢先、


あ、そだ、操さんにも


と思ったよりも早くインカムで



「お疲れさまね。私もしずちゃんと呼んでいいかしら? ふふ」



と、


わーわー! なんか「ミステリアスなお姉さま」ができた的な、なに、このぞわぞわする感!!



改めて、インカムを外し(その行為は他の各スタッフに「上がります」との表意)、目に付く各スタッフに


「お先に失礼しまーす!」


と声掛けをして、


私物のリュックを手に取り、ホールを出て、朝、自転車を停めた搬入口に辿り着く。



はぁぁぁああああ~~~!!!!!!



疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた疲れた



疲れた~!!!!!!!!!




初めての小屋で


いきなりセクション間違われ


そして事故



くったくた。


でも、とりあえずは


ここでやっていくしかない。



なんとか一日、出向現場を終えて、まあ、ちゃんととうちゃんには連絡しとかないと、


とケータイで電話する。


も、


出ず。



ん、、、飲んでるか寝てるかだな。まあ、後でメールしとこう。


と、見返すスマホ画面には、母ちゃんからのLINE着信が。



>今日何時まで?

>早めに言ってね!

>しずちゃーん、、、まだー?

>晩御飯どうするの?

>もう美容院いっちゃうぞ!!

>19時以降、既読つかなきゃ、宅配ピザの刑ね!!



母よ、すまない。色々今日は無理だ。ごめん。


とりあえず、


今から帰るよー

宅配ピザの刑でいいよー


と返信して、チャリに跨る。



がっしょがっしょ


ガチ袋や着替えなどは、ホール(のロッカー)に置いてこれたので、行きよりは身が軽い。


が、


私の心は、重いってばよ。



でも、



やるしかない。そして、


『紫のバールの人』


の手掛かりも、ここにしかないではないか。



袖中鎮香、


♪恋も仕事も、全力とお~~~



と、


ぶぶるるるるうるう!!!



っと、くわ。電話。


とうちゃんかな、母ちゃんかな?



チャリを停めて、スマホを手に取って見てみれば・・・



へ?? あなたは?!!!



【つづく】


















【舞台あるある】

(正に今日!)ピアノコンツェツトの打ち合わせ。主催者さまが出してきたタイムスケジュールを見て、

僕「これではサウンドチェックの時間がありませんね」

主「え、この15分でできるはずです!」

僕「スタッフのお昼ご飯食べる時間ないですね」

主「え、こことここの時間で勝手に食べてください」


それはお前が決めることではないし、スタッフは奴隷でもないので飯食う時間くらい作れ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ