与えられた時間が呼ぶ
数分後、テオが立ち上がれるようになった頃にスロワも合流した。灰花を見るなりほっとした様子で、しかし心底怒っていた。彼女のお小言を聞きながら一行は教室に散乱した机を片付けた。そして灰花や周辺の生徒からの話を聞いた。
「くるさんろくに俺の話聞いてくれない感じだったんだ。少なくとも最初は」
「でもあの目、てめぇも見ただろ」
「あぁ…あれ、完全に正気でやってた。どうしようって顔してた。…何があったんだろう…」
そこで教室の扉が開き、周囲の生徒からの証言を聞きに行ったテオとスロワが戻ってきた。
「おい、隣のクラスの奴から聞いたけど、くずはの奴今日は来てないらしいぞ」
「あぁそれなら知ってる。今日元々、くずはさんはプリン食べに行くって学校休むつもりだったんだ」
「そうか。お前は行かなくてよかったのか?」
「俺は出席日数足りてないから学校来なきゃいけなくて」
「くずはのためとか言ってプリン弾丸旅行とかしてるからだ」
「一年の教室行ってきたけど、葛城の弟も今日は学校欠席しているらしいね」
「………あの染み、血だよね?」
それまでずっと黙っていたノハがふと口を開いた。
「多分な…」
「最初に教室に入ってきたときにはもう付いてた」
「自分の血か…それとも……」
そのとき、全員の考えが言わずとも一致した。皆一様に何かに気が付いた顔、最悪の事態を想定した恐れの表情をしていたから、互いに何を思っているのか一目瞭然だった。
「くずはさん…!」
真っ先に動いたのは灰花。すぐに教室を飛び出していく。
「おいどこ行くんだ!」
「くずはさんたちの家だ!」
ノハとテオが後に続く。隆弘は行こうとして、何か言いたげなスロワに向かって言った。
「スロワ、お前はここまでだ。とりあえず早く帰れ。…灰花は大丈夫だ。あの兄弟と、お前がいる限り殺したって死なねぇ」
隆弘はそのまま三人を追って教室を出ていった。その背を見えなくなるまでずっと追っていたスロワは、寂しそうにため息をついた。
「ホント……アホでしょ、アイツ……」