終わらせないでくれ
一八〇センチをゆうに越えた男二人が乗るにはバルカンは少し手狭だったが、そうも言っていられない。後ろの灰花はもはやバイクと隆弘にしがみついているような状態だ。隆弘の運転が若干荒いために余計必死に捕まっていなければいけなかった。
「二つ先の信号左だ!」
「おう!」
と、電話が来たら取ってくれと預かっていた隆弘のスマホが鳴る。灰花が取ると、テオからであった。どうやら車が来たらしい。
『あとな、これ裕樹が言ってたことなんだが……もしあの弟が何かやらかそうとしてたら止めるための説得材料にしろ』
「え?」
灰花はしばらく黙ってテオの話を聞いた後、少しばかり受け答えをして電話を切った。
「テオのやつ、何言ってたんだ!?」
「くるさんをどうやって説得するかって話だ! 着いたら動きながら話す!」
「話す時間なんかあるか!?」
学校での様子を見るに、くるは灰化の言葉には耳を傾けてくれないだろう。ならば自分ではなく隆弘に言ってもらった方がまだ効果があるかもしれない。灰花はそう思った。
「じゃあ…今言うぞ! よく聞け!」
前にいる隆弘の耳元に向かって電話の内容を伝えると、隆弘の少し表情が変わったのがヘルメット越しにわずかに見えた。
「あいつ……」
隆弘のつぶやきはバイクのエンジンにかき消されていった。
***
噴水の前を、兄弟らしき小さな子供が楽しそうに駆けていく。それが昔の記憶にわずかに重なって視界が歪んだ。気が付けばこの場所に来ていたが、そんなかつての記憶がここへ招いたのかもしれない。公園の光景はあのときとまったく変わることなく、それは安堵でもあり、残酷でもあった。
どうしてこうなってしまったのだろう。どうしてこんなに変わってしまったのだろう。今日何度目かの後悔をする。どこで、いつ、何を間違えてしまったのだろうと、無意味に記憶をさかのぼり、どうすればいいのか考えて、いつも同じ結論に辿り着くのだ。
平日の夕方だからか、広い公園に人はほとんどいない。風の音と、噴水の水音だけが静かに響いている。迎えようとするその瞬間にはぴったりな、荘厳な雰囲気すら感じられた。手にしたナイフをじっと見つめて、しっかりと握り締めた。
と。
突如、激しいエンジン音が辺りを切り裂いた。振り向くと、正面の道路から、大型バイクが猛スピードでこちらへ向かってくる。止まる気配はない。クラクションが鳴り響いて、反射的にバイクの進路から飛び退くと、入り口の柵をなぎ倒してバイクが突っ込んできた。そのままほぼ横転するような形で無理矢理バイクを停める。乗っている二人の男が転がると無人のバイクはそのまましばらく滑って止まった。
先に降りた後ろにいた男がヘルメットを投げ捨てる。その顔を見た途端、反射的に手にしたナイフを構えていた。
「くるさん! 見つけた…!」
「宮下、灰花…!」