忘れたくて、忘れるわけじゃ
「くずはさん、それは…!」
「公園の、名前か…?」
灰花と隆弘の問いに、くずははぽつりと答えた。
「実家の近くにある、公園です。家族でよく行っていました」
「あぁそうか! くずはさんの実家その辺でしたよね」
「灰花知ってんのか?」
「俺も宮神楽だからな」
灰花は素早くスマホを操作し地図を表示する。隆弘が横から覗き込んだ。
「ここからなら歩いて行けなくもない距離だな」
「いるかどうかは分からないけど、行ってみるしかない」
「祐未!」
テオが玄関から下に向かって呼びかける。管理人室のあたりから白井祐未が顔を出した。
「何だよ」
「ちょっとお前のバルカン貸してくれ!」
「えー!? やだよあたしのバルカン誰かに貸すとぜってぇ壊れるじゃん」
「緊急事態なんだ今すぐに足が欲しい」
「ええー…」
「頼む」
テオが祐未に交渉している間、隆弘はどこかに電話をかけている。
「片倉か、俺だ。大至急車一台回せ。普通のでいい。とにかく早く来い」
「隆弘! バルカンいけるぞ!」
「何で俺なんだよ」
「バイク運転できんのお前だけだろうが」
「…そうか…」
「とりあえず先発で行って弟がいないか探すんだ。お前車呼んでくれたんだろ? それで俺たちも追いかけるから」
「そんなん言われなくても」
「隆弘、俺も行く」
「灰花」
「道案内が必要だろ。それにあの公園結構広いぞ」
「…いいのか、斉賀の忠告無視して」
「言っただろ、それでも俺はやる、って」
その言葉を聴いた隆弘は無言で玄関へと向かった。祐未が差し出したヘルメットを灰花に投げて寄越す。灰花は少し驚いた様子だったがしっかりと受け取った。
「早くしろ、行くぞ」
隆弘はもうひとつのヘルメットを取りながら、背を向けたまま言った。灰花もしっかりと頷いた。
「おう」