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短編・エッセイらしきもの

またね……

作者: 本谷文途

その出会いは──

「こんにちは。お兄ちゃん──」


 一人の少女が、うずくまって座っている青年に声をかけた。


『……知らない人に話しかけちゃいけないって、お母さんに言われなかったのか? それに、友達に見られたら変だと思われるぞ』

「大丈夫だよ。ここ誰も来ないもん。それに、学校行く時とか、帰ってくる時お兄ちゃんいつも一人で可哀想なんだもん──」


 青年は抱え込んでいた足から顔を上げて、少女を見る。

 少女は、にっこり笑っている。


『心配してくれるのか……』

「うん! ねえ、お兄ちゃんはなんでここにいるの?」

『……俺は、死んじゃったんだ。ここで──世間で言う、幽霊だ』

「だから透き通ってるんだね! キレイ」

『キレイか……初めて言われたな──』


 青年は思わず笑う。


「お兄ちゃん、笑うんだね。いつもそうしてればいいのに」

『そうだな……』

「じゃ、そろそろ帰るね。またくるね! お兄ちゃん──」


 少女は手を振ると、走って行ってしまった。


『……──』


 青年は、少女の後ろ姿を見送った──


         *


 次の日も、その次の日も少女はやって来た。

 だが、その日少女は泣いていた。


「お兄ちゃん……っ──」

『どうした? イジメられたのか!?』

「ううん……、ペンちゃんがっ……ペンちゃんがあぁっ──」


 話によると、朝学校に行くと、クラスで飼っていた金魚が死んでいたらしい。

 それがペンちゃんだったのだ。


『……そっか。今頃天国で、見守ってくれてるよ。きっと──』

「お兄ちゃんはっ……いなくならない?」


 目をこすって、少女は青年を見つめる。

 きっと、せっかく仲良くなったのに、ペンちゃんのようにいなくなるのが怖いのだろう。


『……わからない。ごめん──』


 青年は、顔を背ける。


「ヤダよ。お兄ちゃん、ずっとここにいて! それで、いっぱい話そうよ──」

『約束は出来ない。悪いけど……』

「お兄ちゃん……!」

『でも、成仏するまでならいいぞ』

「ほんとに……?」

『……あぁ──』


 青年は、苦笑いで頷いた。

 いつか消えてしまうとわかっていたのに──


         *


 身体の異変に気づいたのは、少女と仲良くなってから一ヶ月過ぎた頃だった。

 身体が、普段よりうっすらし始めていた──


「お兄ちゃん?」

『うん?』

「何か、いつもより透けてる……?」


 少女は不安げに言う。


『気のせいだろ。心配いらない──』


 青年は、手を振ってごまかす。

 青年は気づいていた。

 もうそろそろだと──


         *


「お兄ちゃん──?」


 帰ってくると、青年はいなくなっていた。

 朝は、いつものように笑顔で手を振っていたのに。


「お兄ちゃん? どこ?」

『いるよ。近くに──』


 少女はキョロキョロと辺りを見渡す。

 しかし、どこにもいない。


『ごめん、もう逝かなきゃいけないみたいだ』

「どこ? お兄ちゃん!」


 声だけが、辺りを漂っている。


『話せて楽しかった。元気でな』

「お兄ちゃん! 待ってよ! まだ話せてないこといっぱいっ──まだっ……まだ話したいよっ……お兄ちゃ……ぁっ、うえっ……ひっ──」


 少女はついに、泣き出してしまう。

 ぼろぼろと、大粒の涙が目からこぼれ落ちる。


『……またな──』


 青年は、少女の頭を優しく撫でて消えた──




 

「……またね──」


 泣き止んでから少女は呟いた。

 また会える日を願いながら──



 

 




 


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 女の子の純粋さすごくが伝わる文章でした。 [一言]  心のあったまる小説で、とても感動しました。  ほっこりする小説を久しぶりに読めました^^         
[良い点] 私こういう話好きです! 文途さまのお気持ちが伝わる優しいストーリーに感激です [一言] 自分もこんな雰囲気のお話を一つ書いていますが、自分以外の人も、私と同じような事を想像していると思うと…
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