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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第2章 エルフの都市 サガム
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第8話 審議

目の前に木製の門が見えてきた。


木製の門はゴーレムが余裕で通れるほどに大きく、道幅と同じ位に広く、何ら装飾されていないシンプルな門だった。見張り役にエルフの男性達は護衛部隊と同じ鎧を着ていて、地上に2人、門の上に2人、計4人とゴーレムが2体が立っていた。


また木製の門の両隣には門より少し低い木の杭が壁のように立っていた。


その木の杭は紙1枚通さない程、隙間無くびっしりと置かれ、空に向かって先が尖っていた。


 「巫女様、御無事だといいな」


 「そうだな。こればっかりは捜索に行ったジェラルド隊長が間に合う事を信じて、待つしかないからな」


 見張り役のエルフの男が心配そうに森へと続く道を見ていた。


 その数分後、見張り役の1人がジェラルド達の接近に気が付いた。


 「おい!! ジェラルド隊長たちが帰ってきたぞ!!」


 「なに!?」


 見張り役全員が一斉にいち早く発見した者の視線の先に集中した。


 ジェラルドが門に到着すると見張り役の1人が近付いてきた。


 「お疲れ様です、ジェラルド隊長。巫女様はご無事なのですか」


 「ああ大丈夫だ。今は疲れて眠っておられるが、御体には怪我1つしていないぞ」


 心配あまり今にも倒れそうな見張り役を安心させるように穏やかに伝えた。


 ジェラルドの言葉に見張り役全員が安堵の表情となった。


 「じゃあ俺は神殿に巫女様の無事を伝えに行ってくる」


 「おう、頼む」


 見張り役の1人が体から溢れる喜びを押し隠すことが出来ない程に浮かれて、脱兎の勢いで街中に入って行った。


 ジェラルドから直接聞いた見張り役の1人もまた胸を突き上げるような喜びを抑えるのに苦心した。


 「巫女様がご無事で良かった。‥‥‥それはそうとジェラルド隊長。目隠しされているこの少年は」


 「ああ、すっかり忘れていたな。おい、目隠しを取ってやれ」


 「はっ!」


 隊員の1人が真田は視界を遮っていた目隠しを取った。


 急に目に光が入ってきたので真田は反射的に目を(しか)めた。


 徐々に周囲の光に慣れてきて、真田の瞼は元に戻った。


 「こいつはな。愚かにも神樹に触れて、あまつさえ登った者だ」


 その言葉に見張り役全員が戦慄した。


 その表情が長年の仇敵見つけたかのような憎しみがこもった目を真田に向

けるのにさほど時間はかからなかった。


 見張り役の態度に特に注意することなくジェラルドは続けた。


 「そういう訳だから。これから私たちは長老の御判断を仰ぐに行く」


 「了解です。‥‥‥しかしこいつも馬鹿な事をしたもんですね」


 見張り役の人を馬鹿にした薄笑いで言葉に無言で頷いた。


 ジェラルドと見張り役の態度に何にも言わずに真田は涼しい顔をしていた。


 一行は止めていた足の動きを再開し、門を通過した。


 真田が門を通過する際に見張り役全員の蔑むような視線は確実に感じ取っていた。


 そしてようやく真田は彼等が住む町『サガム』に入って行った。


 エルフが住む町『サガム』。数少ないエルフの里の一つで、最大の規模を誇っていた。外界からの過度の干渉を嫌った彼等が町全体に結界を張っており、外からはただ樹木が広がっているようにしか見えないようにしていた。

 

 また、町と森を繋ぐ道も真田たちが通ってきた道一本しかない上に、神樹の周囲に広がる森には危険な猛獣や魔獣が徘徊し、外部からでは案内人が居なければ町への道に入る事すら不可能に近かった。


 真田がサガムに入って少し歩くと大きな広場に出た。その大きな広場を中心に蜘蛛の巣ような道が広がり、その道沿いに二階建ての木造家屋が建っていた。


 真田は物珍しそうに周囲を見回していた。


 「(見る限りでは建物は煉瓦製では無く木製なのか。‥‥‥確かに森の中じゃ主原料となる泥の入手や家を建てるだけの量を確保が困難な上に窯で固めなきゃならないから、森が火事にならないように火の気に細心の注意を払わなければいけなくなるから、より簡単に入手できる木材が多く使われているのか。‥‥‥しかし、ジュードが持っていた弓矢の先端にはポイントがついていた。だとすると金属を加工する鉄工所みたいな所はあるという事になるな)」


 ジェラルド一行は広場の更に奥にある広場周囲に建っている二階建ての木造家屋の4倍もあろうか思われる建物『テルン神殿』に向かって行った。


 民族衣装なのか色違いの同じようなゆったりとしたローブを着た人々が広場にはそれなりに居り、テルン神殿に向かっているジェラルド一行に皆一様に怪訝な表情を向けていた。特に手と腰に白いロープを巻き付けられている真田と最後尾の2体のゴーレムが運んでいるサーベルベアーには特に色合いが強かった。


 ジェラルド一行は周囲から怪訝な視線にさらされながらも、テルン神殿に到着した。


 ジェラルドは歩みを止めて、テルン神殿を背にして隊員達の方に振り返った。


 隊員達はジェラルドの前に横一列に並んだ。


 「私とジュード、ヒュンガ班はコイツを尋問室に連れていく。残りのシュレ班はシェスカ殿と共に神殿に行き、そのまま通常任務に戻れ。ゴーレムはサーベルベアーを処理場に」


 『はっ!!』


 ジェラルドは隊員達の返事を聞くと、徐にソフィアを負ぶっているシェスカに近付いた。


 「では、シェスカ殿。後は宜しく頼みます」


 「ええ、分かりました」


 シェスカは軽く会釈して神殿に向かって行った。シュレ班も追随するように神殿の方に向かって行った。ゴーレムを使役する隊員はゴーレムを連れて別の方に向かっていた。


 「私たちも出発するぞ」


 静かにそう言ってある建物が在る方向に歩みを始めた。


 ジュードとその他の隊員達も後について行った。


 

 歩き始めて数分後、真田はテルン神殿の横にある護衛部隊の詰所がある建物に連れてこられた。詰所がある建物はサガムの一般的な建物と高さはあまり変わりがないが、広さが2倍近くあった。


 入ると建物の奥にある一室に入れられた。


 殺風景な部屋の中央には何の変哲のない大人が座れる木製の椅子に対面するような形で3人が余裕で座れる台形の木製の机が置かれているだけだった。


 真田は椅子の前に連れられて、置かれている椅子に座るように言われた。


 物凄く嫌な顔をして渋々といった様子で座った。


 真田が椅子に座ると横に控えていた3人の隊員が近付いてきた。その手には真田を縛っている白いロープを握っていた。


 真田が握られている白いロープを見て、嫌な予感を感じていると、隊員達は各自持っていた白いロープを真田に巻き付けた。


 1人は既に腰に巻き付けられている白いロープの上に更に椅子の()(もた)れを巻き込んで、椅子と一体化させるようにキツク締め、もう2人も比較的自由だった両足を椅子の足に腰と同じようにキツク縛った。


 「私はこれから長老を呼んでくる。コイツの見張りを頼むぞ」


 『はっ!!』


 隊員達の今日一番の威勢の良さの返事を背にジェラルドは部屋を出ていった。


 部屋の中には今にでも真田を殺してしまいたいと殺気立っているジュードと隊員達に椅子に固定化されて身動きが取れない真田が残された。


 「(この縛り方に悪意をヒシヒシと感じるな。まぁ、今までの彼等の態度から考えて、この程度は受けて当然と考えているのだろう。出来るなら自分の手で『正義の鉄槌』を下したいと考えていても、おかしくない。外部からの刺激が無いから良く言えば純粋化、悪く言えば思考停止に陥る。‥‥‥本当、閉鎖社会での信仰心は怖いな)」


 身動きが一切取れないのでする事が無いのでぼんやりと考え事をして時間を潰していた。


 程無くしてジェラルドが1人の老人を連れて来た。


 ジェラルドが部屋が入り、その後に入ったのは真田と同じ高さのエルフの男性の老人が入ってきた。


 長老は肩まであるオールバックの茶色の髪に茶色の瞳。顔には今まで生きた年月を表すかのように深い皺が複数走り、切れ長で険のある目をしていた。


 長老が入ってくると今まで部屋の中を支配していた殺伐とした雰囲気が一気に霧散した。


 殺意を放っていた隊員達は流石に長老の前では理性を働かせて自重をしようと思いなのかもしれない。


 長老は真田を一旦物差しで測るような目をして、そのまま部屋の奥に行った。


 真田が固定化されている椅子の前にある台形の机に備え付けの椅子に座った。


 その前には押収された真田の財布とその中身の硬貨とお札が部類分けをされて、ポツンと所在無さげに置かれていた。


 長老は机に置かれた財布やお金を確かめるように触ると元の場所に置いた。


 「これよりその者が神樹カドモニアに登った件での審議に入る。皆には我らの女神アシュタロテ様の名の元に嘘偽りない言葉を願う。‥‥‥ジュード隊員」


 「は、はい!」


 部屋の隅で他の隊員同様、真田を監視していたジュードは呼ばれて、滅多に無い事に緊張で張り詰めた表情となり、声が少し上ずった。


 「この者が神樹カドモニアに登った事は間違いないのだな」


 「はい。コイツが神樹から飛び降りて来たのを私と巫女様が見ていますから、間違いないです」


 「‥‥‥そうか。真田拓人だったな。何故神樹カドモニアに登った」

 

 目の前の長老の眉を顰めて疑わしそうな視線に真田はどこか気の抜けた様子だった。


 「‥‥‥貴方たちが言う『聖域』ですか。近付いてきた2人が私にとって敵性を持っているかどうか分からなかったので、それを見極める上で様子を見るのに一番適していたからです」


 まるで仲間同士との雑談を話すかのような真田に、聞いていた長老は表情を変えずにそのまま続けた。


 「では君は登ったのが神樹カドモニアだとは知らなかったと」


 「ええ、全くと言っていい程」


 真田のすっきりと堂々とした答えに長老は少し眉を顰めた。


 「このカドモニアの森は神樹の森として近隣諸国は知っているはず。君はこの付近の者では無いな。何処の国の者だ」


 「‥‥‥‥‥‥日本という国からです」


 「二ホン? 聞いた事の無い国名だな」


 困った表情で長老は腕を組み考え込んだが、長年積み重ねてきた自らの知識と照らし合わせても該当するものが無かったのか、部屋の壁の前に立っているジェラルドに視線を移すが、ジェラルドも初耳だと自分も分からないと首を横に振った。


 頷いた長老はジェラルドから真田に視線を移して、前に置かれている銅の硬貨を真田に見せるように持ち上げた。


 「では、これらはその二ホンという国で使われている硬貨なのか」


 「ええそうです。持っているその銅の硬貨は十円玉、銀色の硬貨は百円玉、その一回り大きいのが五百円玉、男性が描かれているのが千円札、女性が描かれているのが五千円札、茶色で男性を描いているのが一万円札ですね」


 長老は話半分で聞き流しながら聞いていた。


 珍しものを見るような目で真田が持っていた硬貨を触っていたが、その目には恐れが含まれていた。


 「(この『十円玉』という銅貨をとっても、全ての硬貨には精巧な彫刻が彫られている。また、この『千円札』というのは紙のお金という事になるのか、紙に惜しげも無く且つ、硬貨と同等に細かく書かれている。これだけ精密な物は長年生きている儂ですら見た事のないな。‥‥‥二ホンという国がどれだけの規模かは知らないが、これらを大量に流通させるだけの規模を有する大国というのは間違いないな)」


 長老は硬貨を机の上に置いて、ふぅと一息入れた。


 「で、その二ホンという国は何処に在る」


 警戒感が籠った長老の言葉に、真田はいまいち要領を得ない話をするかのように困った表情をした。


 「何処と言われましても。‥‥‥‥‥‥ただ此処から物凄く遠く、並の方法では行く事が不可能な所に在る島国としか言えないですね」


 「‥‥‥君は我々に二ホンを知られないようにはぐらかそうとしているのか、それとも馬鹿にしているのか」


長老の少し怒気を孕んだ声に唯一自由に動かすことの出来る首を横に振った。


 「いえ、そんな気は全くありません。今の私の現状において考えられる最も正確な答えだと思いますから」


 「では、どうして君はその並の方法では行く事が出来ない二ホンという国からどうやって来た」


 「分かりません」


 「分からない? それはどういう事だ」


 「ええ、私が眠っている間に貴方達が言う『聖域』に連れて来られたんです。薬品で眠らされている間に連れられたのか、はたまた違う方法でなのかは私自身理解できないでいます」


 胡散臭そうな目をして長老は話を続ける真田を見ていた。


 「貴方たちの懸念通りに私が言った事が信憑性も無く、不透明なものですからこの言葉が事実か妄言かは貴方がた次第となりますけどね」

 

 揺るがぬ自信に真田は裏付けされた余裕の表情を浮かべた。


 長老とジェラルドは味方が誰一人もおらず、身体を椅子に固定化されて身動き一つ満足に動かせず、その命が簡単に刈り取られるかもしれない絶体絶命な状況に於いて、常人なら命乞いや減刑の嘆願をする訳では無く、寧ろ自分たちを試しているかのような振る舞いをしている真田を何か別の生き物を見るような目で見ていた。


 部屋の中の雰囲気が少し変わりつつ中、部屋の外から言い争うような声が聞こえてきた。


誤字脱字がありましたら、ご指摘よろしくお願いします。

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