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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第1章 異世界へ
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第6話 やってしまった

 「巫女様!! 巫女様!! 巫女様ぁぁぁーーー!!!」

 

 「あの声は‥‥‥隊長!!」


 ジュードは聞こえて来た野太い声を聞くや否や、安堵の表情となり、真田に向けていた思わず弓を下ろしてしまった。


 大声で血相を変えて走ってくるエルフの男が林の中から出て来た。


 男は真田より頭2つ分大きく、短く刈り上げた茶色の髪に茶色の瞳。筋骨隆々で歴戦の戦士と言った風貌。ジュードと同じような鎧を着ているが、所々違った装飾をされていた。


「隊長!!」


「お! そこに居るのはジュードか。‥‥‥足元に居るのは、もしかしてサーベルベアーか!?」


 ジュードから隊長と呼ばれた男は近くで倒れているサーベルベアーを見て、驚き更に走るスピードを速めた。


 その後に続くように大急ぎにジュードと同じ装備をした10人程のエルフの大人が列を為して、またその2倍もあろうかと思われる2人の大男が林の中からゆっくりと出て来た。その中に白装束をしたエルフの女性が1人混じっていた。


 真田は湧き出た疑問を何気なしに呟いた。


 「隊長?」


 「ああ、あの人は巫女の護衛部隊部隊長だ。言っておくけどあの人は強いぞ。奇襲でサーベルベアーに勝ったお前とは違い、真正面から1人で勝てる人なんだぞ」


 「へー、そうなんですか」


 真田は得意げに答えるジュードにあまり関心がなさそうに相槌を打った。


 そうこうしている内にジュードから隊長と呼ばれた男は真田の前に立ち、真田が現在行っている行為を見て、この世の終わりを見るかのように愕然とした表情で見ていた。


 他の護衛部隊隊員は倒れているサーベルベアーの監視に半数。もう半数を隊長に追随した。追随した隊員も隊長同様に愕然とした表情で真田を見ていた。


 「おいお前!! 巫女様になんて事を!!」


 「‥‥‥ああ巫女様ですか。倒れていたので、勝手ながらもこの方の住まわれている所にお送りいたそうかなと思いまして」


 ジュードから隊長と呼ばれた男は合点がいったように風に頷いた。


 「それは助かりました。ですが、これからは巫女様の護衛部隊である我らがお送りしますので、巫女様を此方の方に」


 「ええ、分かりました」


 真田は素直に頷いて、後ろから出て来た白装束の女性に落ちないように細心の注意を払って渡した。


 受け取った女性はソフィアを大事そうに抱えて後ろに下がった。


 「ご協力感謝します。ところで君の名は」


 「‥‥‥名前を尋ねる時は先に自分の名前を言うのが礼儀じゃないんですか」


 真田の言葉にジュードから隊長と呼ばれた男は鳩が豆鉄砲を食ったような

 

 きょとんとした顔をしたが、少しすると破顔をして大きな笑い声を上げた。


 「そうでしたな。これは失礼。‥‥‥私はジェラルド=クルーニー。巫女様の護衛部隊隊長をしている」


 「私は真田拓人。‥‥‥護衛部隊の隊長さんですか。ならちゃんと護衛してください。巫女様はそこのサーベルベアーですかな。それに襲われて気を失ったのですから、護衛対象に怪我でもあったら名が泣きますよ」


 「むっ。それは君に言われなくても承知している」


 指摘にジェラルドは少し苛立ちを覚えるが、此処で言い争っても致し方ないと考えて抑える事にした。


 ジェラルドの様子を無視して、視線はソフィアを抱いている白装束の女性を庇う様に立っている全体的に茶色で角張っていて、各関節部分には緑色のバスケットボール大の球体が備え付けられている2体に向けられた。


 「あれはもしかして、ゴーレムですか」


 「あ、ああ。あの2体は、護衛部隊に配置されたゴーレムだ」


 「そうですか」


 簡単な説明の言葉に納得がいったのか頷いた。


 ゴーレム。主人の意のままに動く忠実な巨大な魔法人形(マジックドール)。核となる魔石にあらゆる動作を組み込む事で主人の命令を主人自ら解除するか、燃料の魔力が尽きるか身体が全壊などの行動不能に陥るまで忠実に行う。


 「ところでタクト君はどうして此処に? 此処は我らの『聖域』。おいそれと外部の人間が入れる場所じゃないぞ」


 探りを入れるような眼つきをしたジェラルドの指摘に答えようと口を開こうとしたが、


 「あ!!」


 いきなり大声をジュードに阻まれ、その場に居た全員が視線を向けた。


 「どうしたジュード?」


 声をかけたジェラルドには向かずにジュードは鋭い目つきで真田を見て、指の代わりに弓を引いて向けた。


 「隊長!! こいつは先程、不敬にも神樹カドモニアに登った男です」


 「なっ、何!!??」


 驚いたジェラルドの短い言葉を皮切りにその場の雰囲気がガラリと変わった。


 先程の緊張感とは質が異なっていた。


 先程までは真田の事を疑いながらも守るべき対象、巫女が見つかった事で緊張感の中にも一種の安堵感が多少なりとも含まれていたが、今は何も混じりっ気の無い純粋な今は凶悪事件の発生現場のようなに皆ピリピリとした緊張感がその場に漂っていた。


 何かの拍子で暴発してもおかしくない程だった。


 此処に居る真田以外の全員は幼少期から神樹の重要性、如何に神樹カドモニアが素晴らしいや如何に神樹カドモニアがこの世界にとって重要な位置を占めるかを言われ続けてきた。もし、子供が無邪気に神樹に登ろうと言って、それが大人たちに知られるだけでも、罪として問われ、冷たい牢獄の中に入れられた。


 その事を重々に知ってるからこそ、神聖な神樹に登った真田にはジェラルドの周囲にいた隊員は勿論の事、サーベルベアーを監視していた他の隊員も目じりをつり上げていた。ソフィアを介抱している白装束の女性も、ソフィアを守るように胸で抱き、睨みつけいた。


 唯一ジェラルドだけは他の大人達とは違い睨めつける様な真似はしなかったが、その見る目はひどく氷のように冷たい感じがした。


 「タクト君。ジュードが言った事は本当か」


 無機質な言葉にごく当たり前のことを話すかのような感覚で、


 「そうですよ」


 と、短くはっきりと答えた。


 「‥‥‥そうか、この者を捕らえよ!!」


 ジェラルドの号令を単に発っして、ジェラルドに追随していた隊員達と2体のゴーレムが真田を包囲した。


 周囲を見回して、囲んでいる隊員達の後ろで堂々と構えているジェラルドに尋ねた。


 「一応、理由は聞かせてもらえるんですよね」


 「君が神樹カドモニアに触れて、登ったからだ」


 「そうですか」


 ジェラルドの鉛のような重たい言葉を聞いて、顎に手を当てた。


 真田がちょっと動くだけでも、囲んでいる殺気立っている護衛部隊隊員は過敏に反応して身構えた。


 何か考えるかのように暫くそのままの格好でいると、手を下ろして急に前に駆け出した。


 行動に即座に反応しきれなかった目の前の隊員の一人を右足で蹴飛ばした。


 蹴飛ばされた隊員はグホッ!!と腹にたまった空気を吐き出すかのように言って、身体をくの字に曲げて地面に倒された。


 勢い殺さずにそのまま前に駆けだし、目の前に立ちはだかるジェラルドを倒べく、頭部を狙いつけて少し飛び上がり、殴ろうと右腕を後ろに下げた。


 「ふん!!」


 殴る前に短くとも力強い言葉と共に左頬に重い衝撃を受けた。


 受けた衝撃でそのまま地面を転がっていき、元居た場所に戻った。


 いきなりの事に脳の処理が追いつかずに呆然と見ていた隊員達は真田が元の場所に戻ってきたのを見て、漸く自分達のやるべきことを思い出したのか、


 「よし!! このまま抑え込めぇぇーー!!」


 隊員の誰かが言った叫び声を皮切りに囲んでいた隊員達とサーベルベアーを監視していた隊員達もうつ伏せに倒れている真田に重なるように覆い被さった。


 「うぉぉ、離せぇぇーー!!」


 バタバタと手足を使って暴れたかったが、身体の上で押さえ込んでいる隊員達自身の重さと着ている鎧、装備している物一式が()()かって、その重さを持ち上げる事が出来なかったので指一本も動かせずに唯一自由に動く首を使って暴れた。


 「暴れるな!!」


 隊員の鋭い警告を無視して真田は何とか脱出しようと暴れていた。


 隊員の一人がゴーレムに押さえつけるようにと指示をした。


 ゴーレムが近付くと押さえつけていた隊員達は動かせないように細心の注意を払って、徐々に退いて行った。


 数人がかりで手足を押さえて、2体のゴーレムが完全に押さえつけたら、隊員達は離れていった。


 うつ伏せに倒れている囲んでいる護衛部隊隊員は、馬鹿にするかのような薄笑いを浮かべていた。


 そんな薄笑いをしている隊員達を他所にジェラルドは真田を殴った自分の右手を見ていた。


 「(確かに俺の拳は当たった。それは間違いない筈だ。‥‥‥だが、この感触の無さは一体何だ? 先程は互いの骨と骨がぶつかる感触では無く、触れたか触れなかった分からない程度しかない。一体どういう事だ)」


 思い詰めた様子で自分の拳を見つめていると。


 「隊長」


 「ああ、なんだ?」


 「不埒者を拘束しましたので、指示を伺おうと思いまして」


 「ああ、ロープで縛りつけておけ。あと倒れているサーベルベアーは『聖域』に置いとく訳にはいかない。町にゴーレムに持っていかせる。その用意をしろ」


 「了解です!」


 指示を聞いた隊員は敬礼をして、直ぐに他の隊員の所に戻りジェラルドの指示を伝えた。


 指示を受けた隊員達は普段の訓練の賜物(たまもの)なのか、キビキビとした無駄のない動きで二手に分かれた。


 一方は太くて丈夫な木を探しに森の中へ、もう一方は2体のゴーレムに抑えつけられている真田の手足を白いロープで縛りつけた。


 また、うつ伏せで倒れているサーベルベアーを仰向きにするようにと指示をした。


 ジェラルドは部下達に作業を任せて、巫女を介抱している白装束の女性に近付いた。


 「シェスカ殿、巫女様の御様子は?」


 「御体には異常はありませんが余程の事があったのか、今は気絶しています。時間が経てば目覚めるかと」


 「そうですか。もう間もなく出発しますので今しばらくお待ちを」


 「はい、分かりました」


 シェスカと共に軽く会釈して、その場を離れた。


 次に向かったのはロープで手足を拘束されている真田の所であった。


 「気分はどうだ。タクト君」


 「これでよかったら。そいつは変態ですね」


 意地の悪い表情をして言うが真田はぶっきらぼうに答えた。


 会話のタイミングを見計らって、真田をロープで縛っている隊員の1人がジェラルドに近付いてきた。


 「隊長。このような物がコイツのズボンから」


 差し出されたのは危険物が無いかボディチェックの際に押収された二つ折りの真田の黒の革の財布だった。


 差し出された財布をジェラルドは怪訝な表情でまるで汚物を触るかのように端っこを親指と人差し指で持ち上げた。


 それを見て真田は自分の持ち物がそのような扱いを受けて、ほろりと涙を流した。


 試しにジェラルドが上下に振ってみると、ジャラジャラと高い金属同士が当たる音が聞こえ、何気なしに振ってみた。


 「これは何だ。‥‥‥中に金属のような物が入っているようだが」


 「それは財布ですね」


 「これが財布なのか? ‥‥‥見た事の無い形をしているな。触った感じでは麻では無く、皮に近い物を感じるな」


 訝しげな表情で、自分の中の皮に関する記憶と触っている財布の素材との符号点を探すかのように何度も触っていた。彼等の思い描く財布というのは粗末な袋状の物だ。真田が持っていた携帯性を重視した物ではなく、素材も一般的のとかけ離れており、同じ財布として認識できずにいた。


 「今ここでこれを含めてのお前の素性を追求したいのは山々だが、これからお前の処遇を長老に決めてもらうので私達と一緒に来てもらう」


 「縛られている状態で良いも悪いもないんじゃないんですか。どうせ私には拒否権はないんですから」


 真田に言葉に答える事無く、ジェラルドは背を向け腕を組んで作業をしている部下達の様子を見ていた。


 少しすると丈夫な木を探しに行ったグループが直径が30cm、長さが8mもある、見るからに丈夫そうな丸太を担いで隊員達が森の中から戻ってきた。


 丸太はそのまま仰向けのサーベルベアーの所に持っていき、隊員達は身体中央部に合わせて、落ちないように両前後ろ足を白いロープで丸太に括り付けた。


 括り付ける作業が終わると、隊員は2体のゴーレムに丸太を担ぐように指示をした。


 ゴーレムが丸太に括り付けられたサーベルベアーを持ち上げると、隊員達の一連の作業を見ていた真田は思わず『おぉぉーー』と関心した声を上げた。


 手足を白いロープで縛られた真田は隊員達が担ぐわけにはいかないので歩かせる事にしたので、手はそのままで、足のロープは腰に巻き付かれた。

サーベルベアーを持ち上げた2体のゴーレムを引き連れて隊員達は隊長であるジェラルドの前に並んだ。


 「よし、出発の準備は終わったな。これより帰投する。私とヒュンガ班はコイツの連行を。シュレ班とジュードは巫女様の護衛だ」


 『はっ!!!』


 言い終わると同時に隊員達は歩いているジェラルドを先頭に一列に並んだ。

 

 巫女であるソフィアを介抱している女性は列の真ん中に入り、真田は先頭にサーベルベアーを担いでいる2体のゴーレムは最後尾となった。


 ぞろぞろと皆が列を為して、森の中へ入っていく中、捕まっている真田は気付かれない程度に小さいが、確実にニヤッと薄く笑った。


 その表情も次の瞬間には無くなっており、肩を落とした落ち込んだ表情となっていた。


 真田の様子に誰も気づかずに森の中に入っていた。


 自分達の里『サガム』を目指して。

誤字脱字がありましたら、指摘よろしくお願いします。

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