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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第1章 異世界へ
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第2話 一体何が

 巨木に姉弟の2人組が来てから少し時間が経った。

 

 相変わらず真田は枝の所で休んでおり、一方の地上の少姉弟の2人は姉の方は胸の前で両手を組んで、じっと巨木を直立不動で見つめていた。少年は右斜め後ろで居て、少し疲れた様子で巨木を見つめる姉である少女を見ていた。

 

 「姉ちゃん。そろそろ町の皆が異変に気付いて、姉ちゃんを探しに来る頃だよ」


 「そんな事はどうでもいいの。ギリギリまで粘ってみるから」

 

 「‥‥‥‥という事はそれまで俺の姉ちゃんのお守りが続くのか」


 少年は状況の打破が出来ずに肩を落として、溜め息をついた。

そんな地上の少年少女のやり取りを聞いて、少し表情が綻んだ。


 「(しかし仲の良い姉弟だな。姉の行動に振り回される弟という訳か。まぁ険悪な関係よりも数百倍まし‥‥‥)」

 

 楽しそうに述べかけた何かに気付いたのか、先程のとはうって変わって気配がした方に刃のような鋭い眼光を向け、あれほど気にしていたのに周囲の枝葉に当たりガサガサと音が鳴ったのを気にも止めずに身体を起こした。


 この場所には自分達しか居ないと思っていた2人は何事かと音がした方を向いた。

 

 突然の事態に反射的に少年は少女の前に出た。


 背中に背負っていた木筒から1本の弓矢を取り出し、少女を庇う様に音がした方に弓を引いた。


 「おい!! そこに誰か居るのか!!」


 腹の底からあらゆる物を出すかのように音がした方に大声で厳しい目をして少年は叫んだが、なげかけられた真田は律儀に返答している場合じゃないと考え、無視したのでその声は答える者がおらずに森の中で空しく響いた。


 少女は少年の行動に信じられなものを見るかような表情で見ていた。


 「ちょ、ちょっと!! 神樹に弓を向けちゃ駄目だよ。もし何かの拍子で神樹に当たったら唯では済まないよ」

 

 少女は少年の行動を止めさせようと諌めるが、少年は少女の諌める言葉に目も呉れずに弓を引いたまま真田の方を向いていた。


 「何言っているんだ姉ちゃん!! 神樹に僕達一族の限られた人物以外、触ちゃいけないのに余所者のアイツは触れるどころか登っているんだ。これは神様に対する冒涜で、僕達に対する侮辱だ!!!」


 幼いゆえに興奮が抑えきれずに怒りで怒鳴り声を上げるの少年の言葉に少女は呆気に取られて、声を出そうにも出なかった。


 少年は興奮状態が冷めやらぬまま背後の少女に声をかけた。


 「あと、姉ちゃん。僕から絶対に離れないで。離れたら守れなくなるから!!」


 「う、うん。わかった」


 呆気気味に返事をすると少女は少年の邪魔にならないように身を屈めた。


 「(此処には大人達は誰もいないんだ。姉ちゃんと神樹は僕が守るんだ!!!)」


 少年の固い決意が弓をかける手の力がより一層強めた。


 そんな地上の2人のやり取りにも意識を向けているが、真田は殆どの意識を新たに表れた気配に向けていた


 「(数は1。‥‥‥‥ゆっくりとした速度で確実に此方に近づいているな。‥‥‥‥彼方さんの様子を感じる限りでは私が捕捉した事に気が付いていないみたいだな)」


 視線を新たに現れた気配から此方に弓を引いている少年の方に向けた。


 真田が視線を向けると弓を向けている少年は一瞬、ビクッ!!と緊張が全身を駆け巡った。


 「(地上に居る彼等は近付いてくる『もの』の接近に気付いてないのか?

‥‥‥もしくは地上の彼等の仲間が近付いていて、彼等はそれを知っている

からあえて無視をしているか)」


 顎に手を当てて、少年の様子をつぶさに観察していた。


 「(あの少年は此方に弓を構えているけど、弓を射る気はないみたいだな。‥‥‥いや、射れられないと考えるべきだろう。先程の話の内容から、この巨木は彼等の精神文化にとても大事な物だろう。それ故にあの少年はこの巨木の中に居る私に対して射れられないでいると考えた方が自然だな。‥‥‥‥気が進まないがこのまま留まった方がより安全か。だとすると此方に近付いてくる気配の方に警戒を向けるか)」


 不審な気配の方に視線を向けた。


 真田の行動に地上で弓を構えていた少年は、少し訝しげな表情で巨木に隠れている真田を見ていた。


 「(神樹に登っている馬鹿なアイツはさっきからどうしたんだ。さっきは僕達の方を向いて、何か仕掛けて来るかと思っていたけど。今は違う方、僕達の後ろに視線を向いている。‥‥‥‥一体どういうつもりだ。僕達の後ろには誰もいないのに)」

 

 少年は再び険しい表情で見つめていた。


 巨木の周囲に一方的な緊張感が漂う中、少年の背後に居た少女が、そわそわと何やら周囲を気にして落ち着かない様子だった。

 

 背後にいる少女の異変に気付き、視線と弓を向けたまま、聞こえないように小声で話しかけた。


 「どうしたの、姉ちゃん」


 「うん、何だか神樹が落ち着かないみたいなの」


 「それは愚か者のアイツがよじ登っているからでしょ」


 当たり前の事を話すかのように平然と少年は少女に答えた。


 「うんうん。それは違うの」


 予想外の少女の返答に少年は納得がいかないような顔をした。


 少年は余所者が不敬にも神樹に登っているから、落ち着かないと心の底から信じていたからだ。


 少女は少年のそんな反応を無視して、話を続けた。


 「あの人が何時から神樹に居たのは分からないけど、少なくとも私達が此処に来る前には居た筈。だけれども最初に私達が来た時から神樹はずっととても穏やかに落ち着いていたわ。神樹が落ち着かないようになったのは、つい先程」


 少女は一回ワザと言葉を区切った。更に今から自らが話す事を少年に一言一句聞き逃しがないようにゆっくりと話し始めた。


 「これは今から接近してくる『もの』に怯えているような感じだわ」


 少女の言葉に少年は瞬きを忘れるぐらいに驚きを感じた。


 「え!? どういう事」


 少年が軽くパニックに陥った。


 神樹は言うなれば、力の源そのものだ。自らの莫大な力を周囲に拡散して、この一帯の気候を安定させ、周囲に広がる木々に豊かな果実を実らせ、森の生態系のバランスを守っていた。それは巨木が神樹として成りえた時からずっと変わらなかった。


 だからこそこの姉弟が属する部族は神樹の周囲を聖域として定義し、神樹や聖域に近付くあらゆる『穢れ』、『異物』を徹底的に排除してきた。


 また神樹は自らに害のある猛獣等を周囲に一切寄せ付けなかった。少年はそれを知っていたからこそ自分の姉の出かける場所が神樹だということで、自分と姉だけという通常では考えられない人数で行く事を考えたのだ。これがもし少しでも危険な場所だったら姉から言われた時点で他の大人達に行き場所を言っていた。


 その神樹が怯えている。


 それはその森に生きるもの全てにおいて脅威に他ならなかった。


 少年は姉から告げられた事実が事態の深刻さが肩に重くのしかかり、呆然とし真田に向けていた弓に全く力が入らなかった。


 不意に不穏な気配が神樹の周囲に漂ってきた。

 

 少年は不穏な気配を感じると、険しい表情をして反射的に真田に向けていた弓を新たに感じた不穏な気配の方に向けた。


 「(いったい!?この皮膚に突き刺すような恐ろしい気配は!?)」


 弓を構えて居る少年は経験した事のない未知の恐怖を感じて、顔は尤もらしくしているが、弓を持つ両手は小刻みに震えていた。


 そして、少し離れた林の中に1匹の獣が現れた。


 四足歩行で、強靭で野太い脚でゆっくりとした速度だが確実に姉弟の方向に向かっていた。


 地上の2人が林に現れた獣の姿を見ると、動くことが出来ない程に驚きを感じた。


 驚きのあまり、声を出そうにも何時ものように声帯が上手く動かずに言葉にならない音を出した。


 2人は何とか絞り出すかの姿を現した獣の名を静かに言った。


 「「魔獣サーベルベアー」」


誤字脱字がありましたら、指摘をよろしくお願いします。

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