第23話 サウナで見るギャップ その2
最も輝く1等級から肉眼でギリギリ見える6等級の星々が輝く冷たい夜空の下、体を震わせながらも真田は完成した小屋の前に立っていた。
真田が震えているのは寒さだけでは無く、念願だったサウナが日本だけでは無く世界そのものが違うサガムで体験できる事への歓喜に震えていた。
「(念願だったサウナが遂に使える! これであのさっぱりとした快感が得られるぞ!!)」
前まではたいして気にしていなかったが、日本で毎日銭湯の風呂に入るようなってからは、アルバイトの都合上1日でも入れなかった日があったら、次の日どうしても身体に付着した汚れが気になってしょうがなかった。
前よりは綺麗好きになった真田にとって、サガムの生活水準が現代日本よりも格段に劣るとはいえ、湯船に浸かれないというのは拷問に等しく、日々の身体についた汚れは濡れた布で拭きとるぐらいで、湯船に浸り汚れを取りながら、身体の芯から温まっていく事への渇望が日増しに強くなっていた。
あの時、病室でのアシュトンからの提案を言われた時は、嬉しさのあまり天にも昇るようだった。
これで毎日風呂に入れると思ったが、ふとある考えが横ぎった。
生活水準から考えて、風呂を毎日使わせてくれというのはいかがなものかと。
「(サガムの生活水準を考えると、流石に毎日風呂を使わせてくれとは流石に言えなかったな。でもサウナなら薪を使わずに、この熱した石だけで身体が温まる事が出来るから、資源のロスも無いだろう)」
真田の手には2枚の布と食堂から拝借した取っ手付きの木製のコップと木の杓子、食堂の責任者であるアシュリーに都合してもらった熱した石が、10個程入った桶を持っていた。
真田は履いていた靴を脱ぎ、完成した小屋の木製の扉を自分の方へと開けて入ると、光の無い暗闇だったが、事前にゲンから言われた照明用の魔石を置いている場所を手探りで探った。
場所を探り当てると照明用の刺激を与えると光を発する魔石に刺激を与えると、ビカッ!!と、小屋の中は光に満たされた。
暗闇に慣れていた真田は思わず目を細めたが、徐々に目を開けていった。
完全に光に慣れた真田は、部屋の中を見回し、隅にある5~6段積み重なっている煉瓦が置かれている台に近付くと、持っていた桶に入っていた熱した石を入れた。
石同士が当たる無機質な音が小屋に響くと、煉瓦が囲んでいる中に石の山が出来た。
石の山からは多大な熱量が放出されており、近付かなくても肌が焼けてしまいそうだ。
真田は積まれた石の山を満足そうに見ていた。
「(流石ゲンさんだ。注文通りに作ってくれたな!)」
心の中で此処にはいない製作者のゲンに感謝を述べると、真田は小屋の外に出
た。
「そこにいたのかサナダ君。来たけど居ないからどうしようかと思ったぞ」
笑いながら声を掛けて来たのはアシュトンだった。
闇夜に映るアシュトンは、何時もの鎧姿では無く、麻で出来た服を着ていた。
その手には夕食の前に真田に言われた通りに、少し使い込まれた2枚の布を持っていた。
「すみません。サウナの準備をしていまして」
「そうか。‥‥‥知っているのが君だけと言っても、準備をしてもらばかりじゃ
悪いからな、何か手伝う事はあるか」
「気にせんといてください。準備と言っても明かりをつけたり、熱した石を煉瓦に置いたり、桶に水を入れるぐらいですから」
「そうか。早速サウナを使ってもいいか」
「ええどうぞ。桶に水を入れてきますので、服を脱いで待っていて下さい」
真田は井戸へと向かって行った。滑車付きの井戸の子供の腕みたいに太い紐を、難無く引っ張ると、中から地下水脈の水が入った桶が出て来た。
地下水が入った桶を傾けて、持って来た桶に入れた。
水が入った桶を持って真田は小屋の方へと行くとそこには、腰に布を巻き付けているだけのほぼ全裸のアシュトンが、靴を履いて立っていた。
サガムの治安を司る警備隊の隊長格として何の遜色の無い、激務で作り上げた贅肉の無い均整の取れた肉体をしているが、所々に過去に受けた大小様々な傷が刻み込まれており、警備隊の厳しさを物語っていた。
真田は水が入った桶を小屋の前に置くと、杓子で水を汲み上げると、コップに入れてアシュトンに渡した。
真田から水を渡されて、アシュトンは首を傾げた。
「これは?」
「サウでは大量の汗を掻きますから入る前は、水分を取らないといけませんから、水を飲むのですよ」
そう言って真田は、自分用のコップを口付けて傾けると、入っていた水を一気に飲み干した。
アシュトンもコップに入っている水を、一気に飲み干した。
真田はアシュトンからコップを渡され、自分のと一緒に長椅子に置くと、服を脱ぎ始めた。
そこには照れや恥ずかしさといったものは無かった。
真田もアシュトン同様に靴を履いたままで、ほぼ全裸で腰に布を巻いた状態になった。
無駄のない短距離走者のような引き締まった真田の肉体を見て、アシュトンは何処か感心したような表情をした。
「君の身体の鍛え具合を見れば、野外演習場でライを圧倒した事に納得だな」
直ぐにどうしようもない事に不満を露わした。
「これで君が人間では無く、エルフだったら警備隊に勧誘していたのに。君だったら直ぐに警備隊の戦力の中核になるのにな」
「まあ、そればかりはどうしようもないですから」
「そうだよな。残念だ。ああ残念だ」
残念だ残念だと繰り返して露骨に肩を落としてアシュトンに、真田は困った人だと苦笑を浮かべていると、今の季節に相応しい一陣の冷たい風が吹いた。
ほぼ全裸の真田とアシュトンは寒さに震えていた。
「アシュトンさん、そろそろサウナに入りましょうか。此の儘外に居たら風邪をひきます」
「ああそうだな。入ろうか」
真田は寒さを我慢しながら長椅子に服を置き、水が入った桶を持ち木の扉を開けて、アシュトンに小屋に入るように促した。
靴のまま小屋に入ろうとするアシュトンを、真田は慌てて止めた。
「アシュトンさん。すみませんが小屋に入る時は風呂に入る時と同様に裸足で入るようにお願いします」
「サウナは裸足で入るのか。‥‥‥それはすまなかったな。入るのが小屋だからな、つい何時もの癖でな」
アシュトンは履いていた靴を脱いで、長椅子に服を置くと小屋の中に入って行った。
光り輝く魔石に明るく照らされ、建てられたばかりで人の匂いが全くせず、木の独特の香りが充満している空間に、アシュトンは心の底から満たされていくのを感じた。
エルフ独特の感性に浸っていたアシュトンの視界の端に、煉瓦に積まれた熱した石の山が見えた。
興味本位で近付いたアシュトンは、ちょっとした焚き火と変わらない熱量を放っている石の山を、少し離れて繁々と見ていた。
真田は木の扉を閉めると。
「アシュトンさん。石の山に水をかけるので、危ないですから。椅子の方に座ってください」
アシュトンは特に文句を言わずに、壁と一体になっているL字型の長椅子に座った。
真田はアシュトンが座るのを確認すると、持っていた杓子で桶の水を掬い上げた。
アシュトンはじっと真田の行動を、何をするのかと興味津々な目で見ていた。
真田は杓子に入った水を、石の山の全体にまんべんなくかけるようにと撒くと、ジュワァァァァーーーーー!!!!!! と、水が蒸発する音と共に大量の白い煙が立ち上った。
石の山から立ち上る蒸気を、アシュトンは目を丸くして見ていた。
「サナダ君。それは何をしているんだ」
「これは熱した石に水をかけて、温かい蒸気をこの小屋に充満させる事で、この部屋の室温を上げています。部屋の温度は石の山に水をかけたりして、このように調節をします」
真田は数度石の山に水をかけると、その度に蒸発する音と白い煙が上がった。
見ていたアシュトンは、急激に室温が上がっていくのを、身体で感じ取っていた。
火を一切使わずに温度が上がっていく事への、生まれて初めて感じる現象に、アシュトンは戸惑いを隠せなかった。
水をかけ終わると真田は杓子を桶に入れて、アシュトンから人1人分離れた場所に、持っていたもう一枚の布を椅子にひくと座った。
「‥‥‥で。後は何をすればいい」
「もう何もしなくても大丈夫です。後はこのまま座って汗を掻くだけです」
「簡単だな。熱した石の山に水をかけるだけで、こうも部屋の中が熱くなるのだな」
室温が上がっていくのを感じながらアシュトンは、感心したような目で部屋を見回していた。
「物体に熱が伝わる速度は水に比べて、空気は格段に速いですから。一気に室温は上がっていきますよ」
「確かに。先程までは外と大して変わらなかったが、もう熱いぐらいだ。サウナというものは凄いな」
サウナの魅力に取りつかれたのか、アシュトンはそれっきり黙ってしまった。
アシュトンの額から薄らと流れている汗が、光に反射をしていた。
真田はそんなアシュトンの様子を満足そうに見ていた。
サウナを始めて十数分後、小屋に十分すぎる程の熱気が充満している中、額どころか体中に大粒の汗を掻いているアシュトンが徐に口を開けた。
「なあサナダくん、サウナは何時まで入っていればいいんだ」
アシュトン同様に身体中に大粒の汗を掻いている真田は、自分の身体の様子を見ていた。
「‥‥‥時間的にも十分でしょうし、これで終わりにしましょか」
真田はゆっくりと立ち上がり、扉を開けた。
扉から冷たい外気が入って来て、部屋の温度を少し下がった。
アシュトンは真田が明けた扉から、靴を履いて外に出ると、もう一枚の布で汗を拭きとると、服を着てから、休憩用の長椅子に座った。
真田も靴を履くと、これ以上室温が下がらないように急いで扉を閉めると、引いていた布で汗を拭きとると、置いていた服を着た。
真田はアシュトンの横に座らずに、2つのコップを持って近くの井戸に移動すると、水を汲み上げコップに水を入れると、座っているアシュトンにコップを渡した。
アシュトンはサウナで大量の汗を掻き、体内の水分が失い喉が渇いており、真田からコップを受け取ると、何も言わずに水を一気に飲み干した。
真田もコップに入っていた水を一気に飲み干した。
「気持ちいいな」
「そうですねぇ」
サウナで十分に温まった身体には、満天の星空の下に漂う冷気は心地良いといった感じで、周囲の森から聞こえて来る夜行性の鳥の鳴き声の合唱をBGMにしながら、サウナで十分に火照った身体を預けていた。
真田は天を仰ぐように顔を上げたまま。
「アシュトンさん、お礼を言うのが遅れていました。この小屋を作ってくれた事や寝床を提供していただき、ありがとうございます」
「なに、礼を言われる程でもないよ。君がこのサガムにした事を考えると、これぐらいの事をしてもお釣りが来るくらいだ」
「そう言っていただけて助かります。‥‥‥罪人である私に部屋を提供するぐらいですから、牢屋の中は人間達で一杯なのですね」
「ああ、困った事にそうなのだ」
アシュトンは牢屋の状況を思い出して、大きく溜め息を吐いた。
真田の言う通りにサガムが想定した牢屋に入れる罪人の数が、大きく上回っているからだ。
そもそもサガムがこれほどまでに多くの罪人を捕まえる事自体、異例中の異例の事だった。
それにはサガム独特の事情によるものに大きかった。
人間の大都市とは大きく違い、サガムはカドモニアの森の奥深くに存在している。それ故に人の出入りは極端にまで限られており、森へ侵入してくるのは金銭目的で神樹カドモニアを狙って来る冒険者や貴重な神樹を研究材料で使おうとする魔術師、伐採した神樹を裏ルートに流して莫大な利益を上げようとする犯罪組織が主だった。
当然神樹カドモニアを狙って侵入して来た冒険者達とアシュトン率いる警備部隊と毎回戦闘になり、地の利や仕掛けている罠、ワザと生息している危険な猛獣や魔獣の縄張りに侵入させて、侵入者たちを撃退してきた。
侵入して来た冒険者達が、警備部隊の手で全滅する事は珍しい事では無なく、ごく偶に捕まえたとしても片手で足りる程の人数しか、捕縛する事しか出来なかった。
だから詰所にある牢屋の数も今までは少なくて済んだ。
だが、今回は大きく違った。
一応信頼していたデラーを含めて多くの人間達が、隠していた牙をサガムに向けたのだが、駆けつけた真田によって誰も傷つく事無く、鎮圧された。
そこからが問題だった。
捕まえる人数が片手ぐらいにしか想定していなかったサガムにとって、あれ程まで多くの人間を捕まえたのは例が無く、その対処に苦慮して、一日を費やす事となった。
またデラーの残党がサガムに潜んでいないかと、護衛と警備や一般の有志でくまなく探していた事が時間がかかった事に拍車をかけていた。
「一応掟で事件を起こした人間達を審議にかけなきゃならないのでな、一時的にでも牢屋に入れて置かなければいけないからな。あと、事件を解決してくれた君を再び牢屋に入れる事を出来ないからな。それで急遽使っていない部屋を割り当てる事にしたんだ」
「そうだったんですか」
自分に部屋が割り当てられた事の経緯が分かって真田が納得したように相槌を打った。
「まだ部屋には布団も何も無い状態だろ。すまんな明日オルセンに持って行かせるから、今晩までは我慢してくれ」
「いえいえ、そんなアシュトンさんが謝る事じゃないですよ。あの寒い牢屋に比べたら格段に違いますから、部屋を提供して貰って感謝しているぐらいですから」
「‥‥‥そう言ってもらうと助かるよ」
アシュトンは苦笑を浮かべると、会話の流れを一旦断ち切るように、ワザと声色を変えた。
「体験して分かったが、サウナというのは手軽でいいな。温めるのに薪を一切使わずに、調理する時に温める石を使えばこんなに身体を温められるからいいな。これから寒くなっていくから、活用していた方がいいかもしれないな」
「いいですね。それでしたら、サウナを安全に使えるように使用する人に、サウナの安全な使い方を説明しないといけませんね」
アシュトンは真田に怪訝な視線で見ていた。
「説明って。熱した石の山に水をかけて、座って、身体が熱くなったら出るぐらいだろ」
真田はアシュトンの言葉を否定するかのように、首を横に振った。
「確かにそうですが。今回はアシュトンさんにサウナを体験してもらう目的なので、1回で終わりましたけど、何時も使っている風呂とは違い、サウナは使う人によってその使い方を変化させていきます」
「そ、そうのか」
真田はアシュトンの疑問に答えるかのように、頷いた。
「今回はアシュトンさんにサウナを知ってもらうだけでしたので、ただ温まるという簡単な方法を取りましたが。基本的な使い方でも、サウナから出て身体を冷やしてもう一度入ります。2回目は1回目の時より時間を短くしてまた外に出ます。外で身体を冷やしてからもう一度入ります。3回目は2回目よりも時間を短くして、また外に出ます。サウナは出たり入ったりを繰り返して使う、入浴施設なんですよ」
アシュトンは黙って真田の言葉を覚えるかのように、真剣にじっと聞いていた。
「更に別の使い方があります。まずは低温での使用。今回私好みの高温では無く少し低い温度でゆっくりと身体を温めていきますね。これは普段あまり眠れていない人や苛立ちが溜まっている人に最適ですね。次に高温での短時間の利用方法ですね。アシュトンさんが体験した温度でさっと入って、さっと出る方法ですね。これは肩こりや腰を痛めている人に最適ですね。最後に温冷交代浴ですね。これも高温のサウナに汗を掻くまで居って、その後に冷水を被って、暫く休憩してまた入るという方法ですね。これはアシュトンさんやジェラルドさん、ゲンさんのような肉体的疲労を覚える人に最適ですね。このようにサウナには用途に合わせて色々な入浴方法がありますから気を付けてください。‥‥‥大丈夫ですか、アシュトンさん?」
真田は先程からずっと固まっているアシュトンに、心配そうな顔を向けた。
固まっていたアシュトンは、真田に心配はないと片手で制した。
「大丈夫だ。分からないという事が分かったから大丈夫だ」
「何ですか、何処かの偉人みたいな言葉は。本当に大丈夫ですか」
真田の訝しそうね目に、アシュトンは少し拗ねたような表情をしていた。
「仕方がないだろ。俺はそんなに勉強は得意な方じゃないからな。本当はこういうのはジェラルドの方が適任だ」
「へー、そうなんですか」
アシュトンの言葉に、真田は意外そうな表情となった。
真田は外見からジェラルドを武闘派、アシュトンを理論派と勝手に決めつけていた。
「ああ。小さい頃通っていた学校での勉強で、不思議な事に一度も勝った事無いんだよな。その代りだが、狩り等の実技ではアイツは俺に一度も勝った事はないぜ」
「そうなんですか」
「アイツとの今までの対戦成績は、76勝30敗2引き分けだったな」
「それは結構な対戦成績ですね」
「そうだろ。君が倒したサーベルベアーやカヌスウルフを先に単独で倒したのも俺が先だからな。見せつけた時のアイツの悔しがる顔は、今でも鮮明に覚えているぜ」
アシュトンはその光景を思い出しながら、悪戯が成功した子供のようなニヤニヤと楽しそうに口元を歪ませていた。
「何か声が聞こえると思ったら、アシュトンじゃない」
不意に聞こえた声にアシュトンは、視線を移すと見る見るうちに、親に悪戯が見つかった子供のような驚きと困惑が入り混じった表情を浮かべた。
真田とアシュトンの前には、動きやすくて汚れてもいいような茶色の服を着たアシュリーが立っていた。
仕事終わり直後に来たのか、少し疲れている様子だった。
真田はアシュリーを見て、挨拶にと頭を下げた。
「なに自分の武勇をサナダ君に聞かせているの、言っておくけどその程度の武勇では誇れるほどでは無いわ。そういう慢心が死を招くと、前に言ってなかったかしら」
「はい、言っていました。アシュリーさん」
アシュトンは先程までの楽しそだったのは何処へやら、すっかりと意気消沈していた。
真田はそんなアシュトンを見て、手を口に当て忍び笑いをしていた。
「しっかし」
アシュリーは腰に手を当てて、半目になって真田達の後ろに立っている小屋を見ていた。
その視線には、少し呆れたような色が含まれていた。
「朝からゲンさん達職人が何を建てていると思えば、ただの小屋じゃない。これ何かに使う予定なの?」
「はい。アシュリーさんに頼んだ火石を使って、風呂とは違うサウナという入浴施設を作って貰ったんです」
「サウナ?」
「熱した石の山に水をかけて、それによって発生した熱で身体を温める施設の事ですね」
「ふーん。よく分からないけど、面白そうね。後で私も使ってもいいかしら?」
「それは大丈夫ですけど、明日の方がいいかもしれませんね。今日はもう遅いですし、明日の方がゆっくりと入れると思いますよ」
「確かにそうね。明日、使わせてもらうわ」
サウナの利用者が増えて満足そうに頷いている真田を見て、アシュリーは何かに気付いたかのように、ハッ!!となった。
「そうそう、サナダ君。昨日は中央広場で起きた人質事件を君が解決してくれておかげで、友達が人間の都市に連れて行かれずにすんだわ。お礼を言うのが、遅れたけどサガムの一住人として礼を言うわ、ありがとう」
そう言ってアシュリーは真田に向かって、深々と一礼をした。
「こちらとしても、何時も美味しい料理を作ってくれているアシュリーさんの御友人を助ける事が出来て幸いです」
「しかし」
アシュリーは先程とは明らかに違った声色を出した。
先程は友人と話す気楽なものだったが、今は何か重要な交渉に必要なものを探りを入れるような真剣なものだ。
「中央広場で私も見ていたけど、あの状況下で人質の皆を傷つけずにデラー等の人間達一瞬で倒したのは、あれは凄かったわ。‥‥‥あれはどうやったの?」
「それに関して俺も聞きたい。あの時中央広場に居なかったから、後であの場に居たジェラルドに聞いたら、君がデラーとの会話が終わったら急に人間達が倒れたんだよな。しかも一人残らず全員失神状態で。その所為で全員を牢屋に運ぶのが大変だったが。‥‥‥あの時君は何をしたんだ。もしかして何かしらの魔術を使ったのか」
鍛え上げられた隊員ですら、2人から放たれる鉛より重たい雰囲気に飲み込まれ、恐怖で言葉を発する事が困難になるほどものを真田は臆する事無く、跳ね返そうと内心緊張している訳でも無く、寧ろいつも通りに友人の言葉を否定するのかのように、苦笑しつつ手を横に振った。
「いやいや、魔術ほどの高度なものでは無いですよ。ただ簡単な事ですよ。私がした事はただ殺気を放っただけですよ」
「‥‥‥殺気を放つ?」
アシュトンは真田の言葉の真意が分からず首を傾げた。
アシュリーは腕を組んで、黙って真田を見ていた。
「便宜上私は『威圧』と言っています。昨日の人質事件のように、魔術が一切使えなさそうな時に使います。あとは戦う時が面倒臭い時に使ったりしますね」
真田のまるで何処にでも売っているようなアイスクリームの味を説明しているような気楽さとは反対に、アシュリーは真剣な表情をしたままだった。
「威圧というのね。‥‥‥それは誰にでも効くのかしら」
アシュリーの問いかけに、真田はニヤリと悪だくみを考えているような笑顔を浮かべた。
「ええ、効きますよ。人間に限らず、魔物相手にも」
「じゃあ、それが私達に向かれる可能性は?」
アシュリーの言葉にアシュトンは、ハッ!!とした表情で真田の方へと向いた。
真田は表情を変えないまま。
「答えとしては、貴方達サガムが私に牙を向けない限りは、私は牙を向ける事はありませんというのが、最も適切な答えですね」
「簡単に言えば、私達次第という訳ね」
「そうなりますね」
アシュリーから放たれる、何かを重たい物を背負っているような錯覚をさせるような重厚な威圧感に、真田はまるでそれを楽しむかのような笑顔を浮かべていた。
横で見ていたアシュトンはハラハラとした表情で、真田とアシュリーを見ていた。
アシュリーは真田の笑顔を見ていて、溜め息を吐いた。
「いいでしょ。サナダ君の言葉を信じるわ。‥‥‥第一、君に何か企みがあればデラーの誘いに乗らなかったのは不自然過ぎるから、私達に害を与える程の企みは無いでしょ」
アシュリーの言葉に真田は苦笑交じりの笑顔を浮かべた。
真田には害を与えない程の企みがあると、アシュリーは考えていた。
それが何かは分からなかったが、情報が無いに等しいので、一先ず置いておく事にした。
「じゃ、明日私にそのサウナを使わせてよ。これは約束よ」
言うだけ言うとアシュリーは詰所では無く、自宅の方へと戻っていった。
詰所の裏庭には真田とアシュトンが、ポツンと取り残されていた。
少しするとアシュトンは口を開いた。
その声は何処か緊張しているようにも感じ取れた。
「よし。サウナの事も分かったし、部屋に帰って寝るか。‥‥‥サナダ君は如何する」
「私はもう少し風に当たって帰ろうかと思います」
「そうか、体を冷して風邪をひくなよ。‥‥‥お休み」
「ええ、お休みなさい」
真田が軽く一礼をするとアシュトンは、アシュリーと同じ方向へと歩き始めた。
アシュトンの姿が見えなくなると、真田は夜空を見上げた。
夜空は上古の昔から変わらない星々の輝きが、そこにはあった。
「一体俺は何をしているんだろ」
真田のふと呟いた小さな呟きは、誰の耳に届かず吹いた風によって、あっけなく霧散した。
男2人のサウナなんて誰得!!!!( ゜Д゜)
おかしいですね。プロット段階では、ソフィアやミーシャが入って、アクシデントでポロリをして、赤面しながらタクト君を思いっ切り殴るという話だったのに、何時の間にかアシュトンが入る事になっていた。‥‥‥不思議な事があるんですね。
一応此の儘じゃいけないと思い、急遽アシュリーに登場して貰いました。
少し強引だったかもしれませんが、男2人で終わるよりはましかなと思いますね。
誤字脱字がありましたら、御指摘の方をよろしくお願いします。
感想も随時募集中です。




