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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第1章 異世界へ
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第1話 どういう事だ

 雲一つ無い空に太陽が燦々と輝き、その直下の広大な森の中を心地よい風が吹いていた。


 暑くもなく寒くもなく、強くもなく弱くもない、そんな人にとって丁度良い風が吹いている最中、黒髪の少年真田拓人は目を覚ました。


 髪は短く黒のショートカット。背は外見年齢の同世代の平均的な高さで、自身の動きを一切邪魔をしない引き締まった体に黒の瞳だ。健康的で少し焼けた肌をした少年だ。身に着けている服装は激安店で買った1枚1000円の灰色のTシャツに少しほつれた青のジーンズ、茶色のスニーカーを履いていた。


 眠っている間に強張った身体を解そうと手足を伸ばし、鉛のように重たい(まぶた)を擦っていたら真田はある違和感に気が付いた。


 何かを確かめるように地面を右手で摩った。

 

 「(‥‥‥おかしい。狸や狐等の野生動物に睡眠を邪魔されないように枝で寝ていた私が何故地面で起きたんだ。それに地面に日差しが届いている。昨日野宿したはずの鬱蒼とした森の中ではない。そして‥‥‥)」

 真田は立ち上がりながら、後ろを振り返った。

 

 巨大な樹木が1本、壁のように聳え立っていた。

 

 高さは200ⅿ位で幹の太さは20人位の大の大人が両腕を限界まで広げてようやく囲む事が出来る程に太く、地面に近い枝も赤子ほどに太かった。幹の表面には所々に凹凸(おうとつ)があり、巨木の歴史を物語っていた。


 風が吹くたびに鬱蒼と生えている青々とした枝葉が気持ちよさそうに音を出して揺れる。

 

 真田は幹の部分を感触を確かめるように右手で触っていた。

 

 「(この大きさの樹は『日本』にはもう無かった筈だ。‥‥‥確かテレビで海の向こうの『地球』で一番影響力のある国にこの樹に準ずる位の巨木が在るらしい。が、私が今その国に居る訳では無いだろうな。なにせ‥‥‥)」


 真田は上に視線を移した。

 

 巨木の枝ではなく、その更に上の雲でもなく、目に見えない漠然としたものを見るような目をしていた。

 

 「(今まで無かった筈の『魔力』の存在が感じ取れるからな。‥‥‥地球は『魔法』の法則では無く、『科学』の法則で成り立っていた。私も数年間だが地球に居たが、一度たりとも魔力の気配を感じた事が無い。‥‥‥状況から考えると私が居るこの森は『魔法』が存在する世界、学者フラクルのユニース理論や量子力学の多世界解釈で唱えられている『平行世界』に転移させられたと考えた方が自然だな)」

 

 真田は一旦思考を区切ると、再び空から巨木の幹に視線を移した。

 

 「(しかし、解せないな。何故私を転移させたのだろうか。特に何かできる訳では無いのだが)」


 真田は腕を組んで自分で思いつく限り、この『世界』転移させられた理由を考えたが、自分の考えを肯定できる証拠や人物が無かったので、これ以上転移させられた理由を考えてもどうしようもないと判断して、真田は自らの思考を強制的に中断した。

 

 転移させられた理由は一旦心の隅に置いとくとして、真田は目の前の問題を解決を専念する事にした。


 「(さて、近くのコンビニで玉子サンドと野菜ジュースで朝食にと考えていたのだが、それも御破算だな。この森で野生動物を捕まえて、それを朝食とするしかないか。後、この世界について調べなきゃならないからな、食べた後で人の居る村か街を目指しますか)」

 

 真田は当面の自分の目標を決めると、一息つこうと背伸びをしようとしたが、何かに気付き勢いよく後ろを振り向いた。

人か動物かは分からないが、2つの気配が確実に丁度後方から自分に近づいてくるのを真田は感じ取った。


 真田は瞬時に『日常』から『警戒』に移行させ神経を張りつめた。

 

 「(気配を隠そうとしないのを見るには彼方(あちら)さんは私に気付いていないと考えるべきか。それとも彼方(あちら)さんがあえて、気配を隠そうとしないとも考えられるな。‥‥‥駄目だな。いくら考えても肯定できる証拠が無い以上、根拠の無い答えしか生まれないな。やはり此処は様子見だな。その後でも行動を決めても遅くはあるまい。‥‥‥‥問題なのは何処で見るかだが)」


 真田は周囲を見回すが、様子見に適したものは無かったので、背後の巨木に上る事にした。

 

 「(やはりこの巨木に登るしかないか。すいませんが登らしていただきます)」

真田は心の中で謝罪を述べてから、巨木の幹に出来ている凹凸を利用して猿のようにスイスイと登っていった。


 「(木登りなんて久方ぶりだな。よくアイツと一緒に登ったな)」


 真田の表情が少し緩んだ。記憶の奥底に眠っていた暖かい出来事の映像が浮かんできたからだ。


 様子見するのに選んだのは地面から1番近い枝では無く3番目位を選んだ。そこからは地上は少し見通しが悪いが、真田はこれ位の方がかえって見るには適していると考えたからだ。

 

 3番目の枝の大きさは1番目の枝より若干小さいが、それでも人1人が乗るのには十分な大きさだった。


 「(さて、どんな奴がくるかな。出来れば厄介事を持ってこない奴がいいな)」


 真田が枝から地上を覗き込んで、少し時間が経つと何やら声が聞こえて来た。如何やら行動を共にする1人がもう1人の行動を諌めているようだ。


 「これ以上黙って森の奥に行ったら、長老や大人達に怒られるぞ」

 

 「ごめんなさい。でもどうしても神樹の様子が気になって」


 「神樹? 前もそう言って一緒に行ったけど、結局何もなかったじゃん」

 

 「そうだけど‥‥‥」


 指摘に反論できずに諌められた1人は困った顔をしていたが、その歩みを止めようとはしなかった。


 諌めたもう1人の方は渋々行動を共にしているようだった。

 

 巨木に近づいてくる2人は1人が諌めて、もう1人がそれを回避するというのを繰り返しながら巨木の前に辿り着いた。


 巨木の前に現れたのはまだ年若そうな少年少女だった。2人共同じ金色をした髪の毛で、少女の方は腰の高さまであるロングのストレート。オパールのような青のつぶらな瞳に雪のような透明感のある白い肌。身に纏っている服装は所々に金の刺繍が入った上質な絹の白のローブを着ていた。

 一方少年は背丈は少女の目の高さで髪はショート。茶色の瞳に少女よりも少し焼けた健康的な肌。麻の白の上着と同じ色の長ズボンの上に簡単な装飾が施された耳を邪魔しない兜、肩までの鎧、肘まである籠手、膝まである足装具を身に纏っていた。背中に背負っている木筒の中には十数本の弓矢に手には身の丈に合った弓を持っていた。腰には短剣を1本差していた。


 少年は怪訝な表情で神樹を見上げていた。


 「‥‥‥うーーん、見た所神樹は前と変わらないよ。」


 「そんなことはないよ。もう少しだけ、もう少しだけね。神樹の前に居れば何か起きるからね」


 少女が少年の方を向いて、そこそこ大きさがある胸の前で両手を頼み込むと、


 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥まぁ、そこまで言うなら」


 少年は諦めた様子で困った顔しながらも渋々といった様子で頷いた。


 それを見た少女は目に涙を溜め頬を少し紅潮させ、少年の背中に抱き付いた。


 「うわーん、ありがとう。‥‥‥‥うんうん、やはり持つべきは姉思いの弟だね」


 「ね、姉ちゃん。や、やめてくれよ恥ずかしいから」


 抱き付かれた少年は、姉とはいえ異性に抱き付かれた事への恥ずかしさからか、それとも未だに子供扱いされる事への恥ずかしさなのかは本人しか分からないが、顔を瞬時にリンゴのように赤くし、姉ゆえに強引な事が出来きないのかせめての抗議に両手をバタバタと動かしていた。


 巨木の前で行われている微笑ましい少年少女の会話を聞いていた真田は顎に手を当てて何か考え事をしていた。


 「(彼等が敵性を持った奴等と思ったが、見る限りではそれも杞憂だったみたいだな。‥‥‥‥彼等の恰好や持っている道具を見るにある程度のコミュニティーが成り立っている集落に住んでいる可能性が高いな)」


 そう結論付けて、一旦視線を地上に居る姉弟から外して、彼等に見つからないように周りの枝葉に当たっても音を立てないようにゆっくりと身体を起こした。


 地上での少年少女のやり取りを見ていて真田はある違和感を感じた。


 「(あの姉弟が話していた言語は知らない筈なのに私はそれを当たり前のように理解している。似たような発音をする言語は知っているが、このような場面では使われない。‥‥‥知らない言語を理解している今の状況、どう考えても私を転移させた者の仕業と考えるのが自然だな。だが一方で、この世界が如何なっているのかの社会構成に関する知識は無い。自分で取得しろという訳か、‥‥‥私を転移させた者はよほど悪戯好きな者なのだろうな)」


 その他の疑問を感じたが、それらの答えに対する明確な根拠が無いので、

真田は一旦は心の隅に置いとく事にした。


 「(‥‥‥‥今此処から出て、助けを求めるという選択肢があるが、それだとややこしい場面が発生するのは目に見えている。そんな火中の栗を拾うみたいな事はしたくないな。面倒事を極力避けるには彼らの後をついて行くしかないか。‥‥‥‥‥でもまぁあの姉弟の様子じゃ長期戦になりそうだな)」


 真田は地上の様子に内心苦笑し、長期戦に備え要らぬ体力の消耗を抑えようと枝で休む事にした。


 誤字脱字がありましたら、指摘お願い致します。

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