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クアットゥオル・シーズン  作者: 二郎
第0章 ???
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第0話 ???

 見た者の無意識に無限の広がりとも思わせるほどの、天空と大地に青々と茂る樹木で構成する広大な森の中に湖があった。


 湖といっても対岸は見えず、面積は海と同等で、深度は深海魚が住んでいてもおかしく無い程だ。

 

 湖の畔には、地面までに届きそうな長さの燃え盛る様な赤い髪をした1人の男が立っていた。


 その男は白い布を体に巻きつけ片胸を隠した古代ギリシャの装束を連想させ、その風貌は少年にも青年にも見えた。


 その少年にも青年にも見える男は特に何をするのでなく、ただずっと湖を眺めていた。


 「此処に居たのか」


 声を掛けて来たのは、少年にも青年にも見える男と同じ装束だが、頭や首や手首に黄金のアクセサリーを付け、肩まである白髪口元から生えている髭も白く胸元まで伸びていた。


 その男の佇まいは見た者に、思わず頭を垂れさせる程に威厳に満ちていた。


 後ろから声を掛けられても、少年にも青年にも見える男は振り返ろうとはしなかった。


 「ええ、此処は良く見えますから」


 「そうか」


 何時の間にか白髪の男は男の横に移動し、一緒に湖を眺めていた。


 心地良い鳥の囀り、獣の鳴き声、風が通る自然の調和が為す音を聞きながら、徐に白髪の男が口を開いた。


 それは絶対者の口調であった。

 何者にも自身に手が触れる事無く、終わらせる事が出来る絶対的な力と自信に満ち溢れていた。

  

 「世界のバランスを崩すような行為は控えよ。事と次第によっては、私が汝を討滅せねばならなくなる」


 その瞬間。

 目に見えない何か強大な力が、白髪の男を中心に全方位に広がった。

 森の中で枝に止まって羽を休めていた鳥、食事を終えて休憩していた獣達は今何が起きたのか理解できなかった。しかしこのままこの場に居れば、生命の危機に晒される事を本能で瞬時に察知し、この場から逃げようとした。

 

 だが。

 

 この場から離れようとする思いよりも、本能が感じた純粋な恐怖が勝り、足が竦んでこの場から離れられないでいた。


 しかし一番近くに居た少年にも青年にも見える男は、白髪の男の圧力をもろともせずに人を小馬鹿にするように何処か透き通るような声で言い放った。


 「それは無理ですね」


 「なに?」


 少年にも青年にも見える男の言葉に白髪の男は強大な力の拡散を収束させて、訝しげな視線を送った。

 

 周囲の動物達は、自分達を覆っていた目に見えない力から解放されると脇目もふらずに、脱兎の勢いで湖から離れていった。


 湖には少年にも青年にも見える男と白髪の男、2人しか残っていなかった。

 

 白髪の男の訝しげな視線を無視し、少年にも青年にも見える男は姿勢を変えずに湖を見たまま話を続けた。


 「あらゆるものには本能、運命づけられた行動と言っていいかも知れません。花が蜂や蝶を使って受粉させる様に、蜘蛛が獲物を捕まえる為に糸をめぐらせるように。そして、人間が他者から『もの』を奪うように、それは僕達だって例外ではありません。上古の昔から、それがそうであるかのように決められています。それはあなたが一番よく知っている筈ですが」


 少年にも青年にも見える男の問いに白髪の男は図星なのか、それとも少年にも青年にも見える男の真意を探ろうとしているのか何も言わなかった。


 「ですから『あなた』が『あなた』である以上、『ぼく』は『ぼく』なのです。例えその行動が結果的に自分を死に追いやるとしても、ぼくは自分の行動を止めれないのです」


 「‥‥‥そうか。ならこれ以上何も言うまい、汝の務めをこれからも果たせ」


 「ええ、言われなくても。僕が終焉の時を迎えるまで」


 少年にも青年にも見える男の言葉が言い終わらない内に、横に居た筈の白髪の男は消えていた。


 まるで最初から居なかったように、男が立っていた場所には何も残ってなかった。


 そんな事を気にせず、少年にも青年にも見える男は湖を見続けた。


 より正確に言うなれば、湖面に映る黒髪の少年を見ていた。

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