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魔術師になったなら  作者: 宇佐田
〈5〉
14/16

5-1



ギルドで偉いっぽいひとたちに囲まれて、お小言を喰らっています。


何でですか。どうしてですか。




最初はどこにいるのか、何が起きているのか、まったく判りませんでした。


見知らぬ――後から考えてみたらどっかで見たことはあったんですが、とりあえず見たことないひとに「来い!」と強引に連れてかれそうになって、大声出そうとしたら腹を強打されて気絶させられて。


遠くに怒鳴りあいが聞こえて目が覚めると、すぐそこらで知らん奴らが怒鳴りあってて。



仲間割れ!? 誘拐犯同士で喧嘩してる!?



驚愕しつつも、こっそりと辺りをさぐっていると、誰かの「起きたようだ」の一声でシーンと静まり返る室内。


また、思いました。殺されるんだ、と。


恐怖のあまり吐き気はするし、お腹は痛いし、最悪な心境で動けずにいるなか、延々と続く沈黙。のち、突然緩和した空気とともに、ようやく今いるのがギルドの中だと教えられ。



むかついたので吐いてやりました。ええ。




お小言はそのせいではありません。


ギルド員のわたしが、仕事がないと触れ回っていたのが、よくなかったらしいです。


仕事……ないんですよ。魔術師修行と両立できるような、都合のいい仕事なんて、ギルドの依頼くらいなんです。



でも今は、ギルドに顔を出せませんし。あんまり困ったんで、市場のお店のひとなら顔も広そうだから、買い物ついでにちょっとした愚痴程度に何かないものかと聞いてたんですよね。


そうしたら、どこで聞かれてるか判らないものですね、ギルドの誰かの耳に入ってしまったようで。あれよあれよという間に、かどうかは知りませんが、偉いひとにも知れてしまったらしく。


そんな恥さらしな真似をしてる馬鹿を止めろ、と。



攫われたのは、ギルドの面子にかかわるからとにかく止めればいいんだろ的な、使いに出された男の短慮と早合点だったようです。女の腹ァ殴って気絶させてどうするー!!って怒られてました。ざまあ。



その後わたしもこってり怒られたわけですが。



知らなかったんですよー。ギルド員がよそでお仕事を漁るのがみっともないとかー。ていうか、漁るって言われるようなことだとかー。


いいじゃないですか、今までずっと我慢してきたんですから。よくよく困ったからのことなんですから、大目に見てほしい。



……うう。なんでこんなにくどくど怒られなきゃいけないの。



聞いてますよ五月蝿いな。ろくな仕事くれないんだから、よそでするしかないでしょ、ふん。



わたしに延々とお小言を続けた挙句に、男は爆発して「うおおおお」と吼えていました。



「ッたくよォ! あんな奴に任せっからだろ! 異世界人は何も知らねえんだぜ!? それをあんな非常識野郎に渡しちまったら、こういうことになんのは判りきってたじゃねえかよォオッ!!」



喚く黒髪の男は、口調は荒いものの、ずっと真っ当な感じの意見を言っていました。お小言マシーンと化してました。


金髪の男が、たぶんこの部屋の中じゃ一番偉そうなひとが、なにかの書面に目を通しながら応じます。



「あいつに常識の指導なんざ期待したことはないが?」


「じゃあ、なに期待して師に推したんだよ!?」


「魔術の指導」



どう考えても、お師匠様のことを言っているようです。


ああ、そういえば、わたしとお師匠様を引き合わせた人って、確かこんなふうなパッキンパッキンに硬そうな金髪のひとでした。何年も前のことなんで、それ以外は記憶が曖昧です。


金髪の男は手にしていた紙を背後の机の上に置きました。



「ものにはなってる。初級魔術でガルフラウをふっ飛ばしたなら、ケチはつけらんねえぞ」


「そりゃあ、そうだが……。あいつの件にしたって滅茶苦茶だぞ。仕事の割り振りにも口を出してたようだし、どうなってんだ……」


「それは別問題。あいつはあいつに任された仕事をした。当てることさえ出来れば、この嬢ちゃんは俺ら全員をぶちのめせる。これ以上どう育てろって?」



……はは。なんかここへきて急に誉められてますよ。誉められてるんですよね。どうも疑念が拭い切れません。おだてられるようでお尻がむずむずします。


思い上がらないようにしよう。浮かれると隙ができる。


無事、お師匠様のところへ帰れるまでは、絶対に気を抜かないようにしなくちゃ。



とか考えていたその時、いきなり階下で凄まじい爆発音が鳴り響きました。ビリビリッと建物が家鳴りします。きゃあ。


爆発現場の階下から、ギルド員らしきひとたちの怒声が聞こえました。生きてるひとが大勢いるんですね。ひとまずはよかった。死屍累々の凄惨な現場が足下に、とか勘弁です。


と、怒声への倍返しみたいな爆発がドンドンドンと上がって、下から声がしなくなって。……え。って。あの。待ってくださいよ。



こちら、二階に在るらしい室内では、黒髪のひとや他のひとたちが素早く警戒態勢をとっています。わたしも何かしていいんでしょうか。これが敵対勢力の攻撃だとしたら、戦わなきゃいけないですよね。


なのに何だか気が殺がれる。


爆発は魔術的なものです。凄いんだけど、もっと凄まじくできるのを敢えて抑えているような印象があって。威力のわりに殺気が無さ過ぎるような。ただ「しっしっ」って追っ払ってるだけみたいなんですよね。



そして、その空気を裏づけるかのように、ひとり金髪の男性だけが悠々と佇んでいて。



……嫌な予感がします。



廊下から声が聞こえてきました。朗々と呪文を唱える美しい声が。



ああ、うん。予感的中したようです。今さら遅いです。



バリバリバリッと巨大な手が引き裂いたかのように部屋の壁が大きく左右に切り裂かれて、声の主の姿をさらしました。



「……お、お師匠様?」



すんごい満面の笑みを浮かべたお師匠様がそこには居ました。





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