4-2
お師匠様の謹慎期間が終了しました。
というわけで、今度こそお暇しようとしたのですが、お師匠様から待ったを掛けられました。
え、早まったかもって、あれ本気だったんですか。
「うん。だから、もうしばらく僕んちでごはん作ってね」
……ごはん目当てですか? そんなばかな……。
呆然としましたが、お師匠様の本心は読めません。冗談のような気もしますし、本気のような気もしますし、どうでもいいと思って面白半分というのが一番当たっている気もします。
意外と、ということもないですね。わたしの知ってる人のなかでは、たぶんこのひとが最も酷薄な性格をしています。
でもわたしはわたしで、彼の性格なんかより、才能と出し惜しみのないところを慕っていますから。要するに、自分に都合のよいところを。
なので、彼が何をしても許せます。
その才能をひけらかしてくれているうちは。
……歪んでますね。
異世界で魔術師になれると聞いて喜ぶような人間ですからお察しです。
「怒らないね」
「怒った方がいいですか?」
「その方がよくても、その質問の後じゃ面白くないよ」
「すみません」
「いいのかなぁ。僕は君を飼い殺すかもしれないよ」
「そうですか」
「嫌じゃない?」
「うぅん……。その境遇はわりと受け付けてしまうというか……。魔術さえ教えていただけるなら、他はどうでもいいというか」
「ほんとに君は魔術が好きだよね」
「そうですね」
「ずっと弟子の立場でいたら、大成できないと思うよ」
「そうですか。じゃあ、頑張ります」
「味気のない返事だなぁ」
「お師匠様の御名前を傷つけるようなことなきよう、これからも精進して参ります」
「お喋り人形じゃないんだからさ」
うーん。からまれてる、からまれてる。
お師匠様がからむ時って、すごく機嫌がいいか、悪いかの、どっちかなことが多いです。たまには何でもない時にもからまれます。
ああ、つまりはよくわからない。
「お師匠様」
クリーム色の淡い金髪とは対照的に濃い紺青の瞳を見据えました。見上げる高さなので、彼がめずらしくちゃんとこちらを向いてくれたおかげです。
「わたしはあなたの魔力と才能と技術をお慕い申し上げておりますので、あれこれ仰られても大した歯ごたえがないのは仕方ありません。諦めてください。わたしがあなたに強く出られるわけがないでしょう。逆らえない魅力をお持ちなんですから」
「……ふぅん」
お師匠様はつまらなそうに呟くと、興味を無くした様子で去っていきました。
よし。追い払えた。
じゃない。いやいやそんな不遜なことは考えておりません。
お師匠様が相手だと、なんだか心でも読まれてしまいそうで、思わず慌てて打ち消しました。