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だって暑いし、風を受けたら心地良いだろうから。 ②

「おーいルース、まだ歩くのかよ」

「僕等の頭と地図が正しければあと三十分くらいで見えてくるはずだよ」

「あー、俺そろそろ疲れたんだけど」

「僕だってそうさ。そんなに疲れた疲れた言ってると、無駄に疲れた気分になると思うけど」

「んなことないって」


そこで二人の真正面から少し強めの風が吹き、二人は風によって舞い上がった砂煙に反射的に目を瞑った。

ばさり、と衣服が舞い上がり、顔に触れる。ディオンはそれを無理矢理手で押さえつける。

ルースはそこで何かに気付いた。風によって起こる空気が木や草を叩く音に混じって何か別の音が聴こえる。

自分の喉からも発することができそうな、だけれど真似しきれない、グルグルという音。

ルースはつい腰のベルトのホルダーに手を伸ばし、音源に向かって発砲した。

ルースは警戒心が強すぎるのか、すぐ発砲してしまう。全く警戒しないよりは良いのだろうけど、悪い癖とも言える。何故なら銃弾の消費が多くなるためである。

風がまた緩やかになってから、二人は目を開けた。少し離れた場所に何か黒いものがある。ルースはそれを観察し、熊だった、とだけ言った。

ディオンは銃声だけしか聴こえていなかったらしく、不思議そうな顔でルースに疑問を投げかけた。


「おい、今何があったんだ? てかお前今絶対銃使っただろ。しかも何で熊が倒れてんだよ」

「質問が多すぎるね。少し落ち着きなよ」


ルースは混乱して自分に問い詰めてくるディオンに溜め息をついた。


「見ての通りだよ。何か唸り声が聴こえてきたから発砲したんだ。狼か何かと思ったけど、どうやら熊だったみたいだね」

「お前目に砂入るぞ。よく開けてられるよなー」

「いや、目は閉じていたよ。ただ僕は耳が良いからね。君が聴こえない音だって聴こえるし、音源の位置も把握できる」

「はいはい、そうだった。お前は耳が良いんだったな。悪かったな、耳が悪くて」

「何でそこで機嫌を崩すんだい。目なら君の方が良いじゃないか」


ルースはあまり真面目に相手にせず、すぐに熊の近くまで寄っていった。

しばらく観察してから、軽く演技っぽい大袈裟な仕草で残念そうな顔を作る。


「ああ、残念だ。血が毛に染み込んでしまった。綺麗に毛皮を採れたら良かったんだけど」

「別に背中の方は染み込んでないし、それでいいじゃん」

「まあ腹の方にも染み込んでいない部分はあるし、そこも採ろうか」

「どうせなら頭を撃てば良かったのに」

「さすがに目を瞑って頭の位置まで推測できないよ」


肉を切らないように首の辺りに二つ、浅く傷をつけ、そこから剥がすように毛皮を採っていく。

毛皮を剥がされた熊は、頭の部分を除いて判別が相当難しい状態になっている。


「に、してもどうして熊が俺等に襲い掛かろうとしたんだよ」

「さあね、食糧ならまだあっただろうに」

「……いや、食糧は無いみたいだけどな」

「は?」


ディオンは森を見渡し、一本の木を指した。その木には果実が少ししか実っておらず、その下には腐り落ちているものもある。


「あと、たまにだけど枯れてるやつもあんじゃん」


ディオンはそう言うと別の木を指した。その木には既に葉がついておらず、表面は木が元から持つ茶色が灰色に濁っている。


「確かに。この枝も、何かが違う。かなり柔らかくて折れやすい。流石、目だけはいいからかな、観察力はあるね」

「だけ、って何だよそれ」

「あとは木が少し減ってきてるような感じがするね」

「無視すんなよ」


ディオンはむすっとした顔をしながら頷いた。

陽が木の葉の間から沢山射し込み、二人に降り注ぐ。

ディオンは暑い、と一言呟いた。ルースも暑くなってきたのか、ポンチョを脱ぐことはしなかったが水を一口飲んだ。


「お前暑いんだったら脱げばいいじゃんかよ。俺もう一枚脱ごうかな」

「いや、こんなに暑いのにあんまり汗かいてないだろう、君。つまりはこの辺りは乾燥してるんだ。無駄に肌を出すと余計に体内の水分が失われるよ」

「うわ、こんな暑いのに脱げないとか。うえぇ、脱ぎたい」

「しかし数時間前までは肌寒いと言ってもいいほど涼しかったのにね。何だか砂漠の気候みたいだ」

「……いや、これもう既に砂漠なんじゃ」

「え?」


そう言うディオンの向いている方向には数本の木、それが所々にバラバラに立っている。

木が減っていることは誰の目から見ても確実だった。

瑞々しい果実が実っている木なんて、既に周りに一本も無かった。

更に追加して、足元には枯れ草ばかり。環境に対応もできず、水分も得られなかったのだろう。


「もしかしてだけどさ、お前、地図の読み方間違えた?」

「その可能性もあるかもしれないね」

「ちょっと地図見せてな」


ディオンはルースの持つ地図を覗き込んだ。そしてしばらくしてから、無表情で顔を上げた。


「目印が、ない」

「砂漠だからね。でも方位磁石はあるから、それで少しは何とかできるかもしれない」


ルースは方位磁石で方角を確かめながら、再び地図を読み取り始める。


「この方角を南とした場合、ここに森林があって、僕等は森林を出て少ししか歩いてないから、合っているはずなんだ」

「てことは地図が間違ってんのか?」


二人は立ち止まった。しばし沈黙が流れ、二人は顔を見合わせた。

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