だって暑いし、風を受けたら心地良いだろうから。
初めまして、マーフィーと申します。
この小説はかなり怠慢、かつふざけた性格をした主人公が、親友と二人で旅をする物語です。
のんびりとしていて盛り上がりもない小説になると思いますが、穏やかな小説になればいいな、と。
「空を飛べたらいいのになぁ。」が口癖の主人公と、軽いツッコミ担当の親友のコンビ。
実際にいたら社会的に生きていけなさそうな性格の二人組みですが。
暇な時にでも読んでいただけると嬉しいです。
のんびり穏やかに書いていきたいです。
「はあぁ」
「何だい、溜め息なんてついて」
「いやぁ、別に? あーあ。空を飛べたらいいのになぁ」
「またそんなこと言って」
二人の青年がゆっくりと山道を歩いている。先程の会話はこの青年達がしていたものだ。
山道は狭く、長い草が沢山生えている上に、ごつごつしていて歩くにくい。
「だってさ、空飛べたらこんなごつごつした所歩かなくたっていいんだし」
「まあそれはそうだけどね。ていうかちょっと暑いね」
「まあ確かになぁ。空を飛べたら風が身体に当たって気持ち良さそうだけどさ」
「だけど空にいたら直射日光を全身に浴びることになるよ」
「お前のんびりしてるくせに変なところで頭の回転いいのな」
「一言、いや二言多いよ。そこまでのんびりしてない。そして変なところで、って何だい」
二人はほんの少し会話を交わしてからまた前を向き、二人揃って溜め息をついた。
先程空を飛べたらいいのになぁ、と発言した青年の名前は、ディオン・クロフォード。
男性ではあるが、赤い髪は少し長めであり、肩まであと数センチ、といった感じである。
服装は灰色を基調とし、軽くて薄い布を何枚も重ねた造りになっていて、細かい気温の変化にも対応できるようになっている。ただ、荷物が多くなる。
そしてもう一人の青年の名前はルース・リオン。
彼も男性であるが、髪はディオン以上に長い。女性とも勘違いされそうな、腰ほどにまである金髪を頭の後ろの、高いところで一つに束ねている。
黒を基調とした薄い布で作られた服の上に、厚い布でできた紺青の上着を着ている。細かい温度調節はできないが、荷物は少なくて済む。
「俺何枚か脱ご。ちょっと待ってな」
「はいはい。で、それを脱いで腕に抱えて持っていくのかい」
「別にいいじゃんかよ。お前こそそんなんで暑くないのかよ」
「確かに少し暑いけれど、僕は君ほど温度変化に騒いだりしないよ」
ルースは実際温度変化に強く、今の薄い服の上に一枚の上着を羽織ったままの服装で零度までなら耐えられる。また真夏でも汗が少ない。
温度の変化はちゃんと感じられるのだが、ディオンほど敏感でなく、また今のように暑くてもそこまで暑がる素振りを見せない。本人が我慢強いのもある。
「何だっけ、その上着。前に滞在した街で買ったやつだろ」
「ポンチョ、というらしいよ。正直このフードにはあんまり必要性を感じないけどね」
「暑そうだな、それ。素材からして」
「涼しくはないよ、丈夫なのはいいんだけれどね」
ポンチョには厚みのある丈夫な布が使われており、白い刺繍で模様が入っている。
シンプルなデザインではあるが、派手なものを好まないルースには丁度良い。
ディオンはふーん、と返事をしながら、そのポンチョを眺める。同時進行で自分の上着を脱ぎながら。
「さて、と。もう一枚脱ごうか、どうしようか。なぁ、俺はどうするべきだと思う、ルース」
「君の体感温度を僕が知っているはずがないだろう。自分の体感温度と体調で決めるべきだ」
「いや何かもう一枚脱いだら肌寒いけどでも今のままじゃ暑いかな、って言う微妙なとこでさ」
「じゃあもう一枚脱いだらいい。歩いていたら暑くなってくるからね」
「そっか、なるほどなるほど。じゃあもう一枚脱ぐか」
そう言ってディオンはもう一枚服を脱いだ。脱いでから一瞬肩を震わせ、両手で自身を抱きしめるように肩を擦る。
ルースは呆れたような目で親友が身に着けている衣服に目をやる。そしてわざとらしく溜め息をついた。
「ん? 何で今溜め息なんかついたんだよ」
「いや、この服をどうするのかな、ってね」
「そりゃあ無理矢理詰め込むさ」
「反論ばかりするようで悪いけどね、今はまだ日が高い。一枚や二枚は持って歩いてもいいと思うよ」
「おお。なるほど」
感心したように頷き、無駄に多い衣服を鞄に詰め込むディオンを、またもルースは呆れたように見ていた。
そして再び溜め息をつくが、今度は自然に漏れてきたような印象を受けた。
「今度は何だよ」
「いや、名前と比べて随分と暑苦しいな、と思ってね。その服装」
「名前は親がつけたものだから関係ないだろ」
ディオンという名前には海という意味があり、涼しげな印象を受けるが、その名前を持つ本人は、何枚も重ね着をし、しかも赤い髪をしている。
こいつの両親はつける名前を間違えたんじゃないかと、ルースは呆れた目をしたまま考えた。
そこでディオンがよし、といいながら立ち上がり、荷物を担ぎ始めたので、ルースも一時的に降ろしていた荷物を担ぎなおした。
「さてと、あとどれくらい歩けばいいんだよ」
「地図と僕等の頭が正しかったら、そうだね、あと二時間くらい歩けば街が見えてくるはずだよ」
「何て言ったっけな、その街。ティンダル、で合ってるか?」
「うん、合ってるよ。工業とかが盛んな街みたいだね」
「そこで銃弾もいくらか買っとかないとな」
ルースは頷いて、地図をポケットにしまい歩き出した。その後ろをディオンが親を追う子供のように追いかけていく。
こうして二人は今日も旅を続ける。そしてこれが二人の日常である。