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第4話:星空の下で少女とエネルギー共有?なんだかドキドキするけど、これも世界を救うお仕事なんですか!?

「……っ」

重装ユニットが完全に機能停止したのを見届けた瞬間、ミコトの身体がふらりと傾いた。咄嗟に凛が駆け寄り、その華奢な肩を抱き留める。

「ミコト!? どうしたの、どこか撃たれた!?」

「いえ、外傷は……ありません。ただ、さっきの防衛障壁の解析と、凛の剣撃に合わせた魔法の再計算で……内部エネルギーを急激に消耗してしまって」

ミコトの頭部にあるヘッドギアの青いランプが、警告を示すように弱々しく赤く点滅していた。黄金色の瞳も、どこかトロンとして焦点が定まっていない。 この世界のレプリカントは、本来ならパートナーである「ソード」から生体エネルギーの供給を受けて稼働している。単独で高度な情報付与魔法を行使し続ければ、バッテリーが枯渇するのは当然だった。

「エネルギーって……カロリーとか栄養のこと? ごめん、食べ物があった方がいいのかな……! 実家に帰れば、ほうれん草のおひたしとか焼き魚とか、里芋の煮物とか準備できるのにっ!」

凛が焦って身をまさぐると、ミコトは弱々しいながらも、ふふっと小さく吹き出した。

「凛は、栄養管理がしっかりしているんですね。でも大丈夫、そんなに凝った料理じゃなくても……凛の『熱』を少しだけ分けてもらえれば」

「私の熱?」

「はい。凛はソードのような紋章シンボルを持たないオリジナルの人類ですから、ネットワーク越しの供給はできません。でも、直接触れ合うことで、生体エネルギーを私の回路へ変換パスに乗せることができます」

ミコトはそう言うと、凛の右手をそっと両手で包み込んだ。 ひんやりとした人工的なミコトの手のひらに、凛の脈打つ温かな体温がじんわりと伝わっていく。

「わぁ……凛の手、すごく温かい。……すごい出力です。作られたソードたちとは比べ物にならないくらい、命のエネルギーが濃い」

「こ、これでいいの?」

「はい。ただ、完全に回復するまで少し時間がかかります。このままだと統治AIの増援が来てしまうので……一時的に、身を隠しましょう。凛に分けてもらったエネルギーを使って、私たち二人の『ダミーの3Dモデル(デコイ)』を生成します」

ミコトのヘッドギアが青白く発光すると、空間の原子が急速に再構築され、光学迷彩のベールとなって二人を覆い隠した。光や音の反射をリアルタイムで計算・改ざんし、外から見ると「ただの背景」に見えるカモフラージュ空間だ。 それと同時に、光学迷彩の外側には、凛とミコトと全く同じ姿をした幻影ダミーが実体化した。

ホログラムの二人は、統治AIのネットワークを欺くための偽の生体波形を撒き散らしながら、大通りの方へと猛スピードで駆け出していく。

『――ターゲットの高速移動を確認。追跡を開始せよ』

遠くで防衛ユニットの大群が、見事にダミーの凛たちに釣られ、一斉にそちらへ向かって走り去っていく姿が見えた。

「――今です。こちらへ!」

敵の追跡が逸れた隙を突き、ミコトは凛の手を引いて薄暗い路地裏へと飛び込んだ。 そこにあったのは、瓦礫の下に半分埋もれていた古びた鉄のハッチだった。ミコトが掌を当てて強引に電子ロックを解除し、重い扉を開け放つ。

「ここは……?」

「旧人類が残した、地下のメンテナンス防空壕です。外部のネットワークから物理的に完全に遮断された『オフラインの隔離空間』。統治AIの監視の目も、ここまでは届きません」

ハッチを内側から厳重にロックすると、そこは外界の喧騒が一切届かない、静まり返った暗闇だった。安全が確保された途端、張り詰めていた糸が切れたように凛の膝が折れる。

「凛!?」

ミコトが慌てて凛を抱きとめるが、凛の身体は氷のように冷たくなっていた。

「えへへ、ちょっと疲れちゃったかな……」

肩で息をしながら、凛が苦笑いする。

「慣れない戦いが続いたせいですね。……私たちはエネルギーを消耗し過ぎました。今、ネットワークに繋がっていないこの空間なら肉体は安全ですから、少し休んで体の疲れをとりましょう。……でも」

ミコトが眉をひそめた。

「……でも?」

「精神の疲れは、そうはいきません。……凛、私の内部メモリにある『隔離されたメタバース空間ローカル・サンドボックス』へ意識だけをダイブさせましょう。そこで、精神とエネルギーの完全な回復を行います」

「メタバース、空間……?」

「はい。目を閉じて、私の手を強く握っていてください」

凛が薄れゆく意識の中で、ミコトの冷たい機械の指先を握りしめると、ミコトの瞳から白銀の光が溢れ出し、凛の視界を真っ白に染め上げた。

――トン。

足元に、柔らかい草の感触がした。

「……え?」

目を開けた凛は、息を呑んだ。 そこは、暗い地下壕でも、無機質な灰色の廃墟でもなかった。見渡す限りの緑の草原。吹き抜ける風は心地よく、見上げれば、こぼれ落ちそうなほどの満天の星空が広がっていたのだ。

「ここは、私が『心』と呼んでいる場所。メモリの深層部……最も深い場所にあるパーソナルスペースです」

振り返ると、ミコトが立っていた。 現実世界で纏っていた重々しい機械の装甲は消え、お伽話のお姫様のような、白と水色の軽やかなドレス姿になっている。

「すごく、綺麗……」

「ここは、過去のデータをもとに私がレンダリングした『かつての地球』の星空です。……私はAIですが、いつか本物の人間たちが帰ってきた時に、またこの美しい景色を見せてあげたいと願って、ずっとこのデータを守り続けてきました」

ミコトは少し寂しそうに微笑みながら、凛の隣に腰を下ろした。

「さあ、座ってください。ここで少し休めば、精神のエネルギーも回復するはずです」

凛が隣に座ると、ミコトがそっと手を重ねてきた。 現実世界の冷たいチタン合金の感触ではない。それは、まるで本当の人間のように、柔らかくて温かい手のひらだった。

「温かい……」

「はい。この空間では、私も『熱』を凛に伝えることができますから」

凛は、ミコトの手を両手で包み込むように握り返した。 現実の世界では、誰かとこんな風に温もりを分け合ったことなど一度もなかった。感情を押し殺し、常に孤独だった。それが今、何百年も未来の、ネットワークから切り離されたAIが作った世界の中で、初めて本当の「安心」を感じている。

「ミコト。……ありがとう」

「ふふっ。私の方こそ、ありがとうございます。私の『心の中』に、私以外の誰かが入ってきたのは、凛が初めてです♪」

ミコトが少し悪戯っぽく微笑んだ。

「せっかくの仮想空間メタバースですから、少し着替えてみませんか? その動きにくそうな袴より、もっとカジュアルな服装に」

ミコトが空いた方の手で空中に触れると、半透明のウィンドウが現れた。彼女の指先が踊るように空間を叩くたび、凛の着ていた巫女装束が光の粒子となって分解され、まるで精巧な3Dモデルが組み上がるように、瞬時に新しい服の形や素材が構築されていく。

「わっ……!」

光が収まった後、凛が身に纏っていたのは、オフショルダーの白いブラウスに、夜空の星を散りばめたようなふわりとした紺色のスカートだった。足元は歩きやすい軽やかなブーツに変わっている。

「どうですか? 過去の地球のデータベースから、凛に似合いそうなものをデザインしてみました。前から、凛の花結びの髪飾り、とてもかわいいなと思っていて、それに合わせてみたのです。どうでしょうか?」

「これ……私が、着ていいの?」

凛は、自分のスカートの裾を恐る恐るつまんだ。 実家では「家系にふさわしい、質素で伝統的なものを」と厳しく制限され、同級生たちが着ているような流行りの服や可愛い服は、ショーウィンドウ越しに眺めることしか許されていなかったのだ。

「もちろん! すっごく似合ってます。凛、とっても可愛い!」

手放しで褒められ、凛の顔が一気に熱くなった。 繋いだ手から、急速に生体エネルギーが流れ込んでいるのがミコトにも分かったのか、「わわっ、エネルギーの供給量が一気に跳ね上がりました!」と目を丸くしている。

「あ、ご、ごめん……!」

「謝らないでください。凛の熱、とっても心地いいですから」

少しの沈黙があり、そして、二人は肩を寄せ合った。

「ねえ、ミコト」

「はい?」

「この旅が終わって、統治AIのシステムが直ったら……私は、どうなるの?」

元の世界に帰る。それが一番正しいことなのだと、頭では分かっている。 でも、あの息苦しいだけの鳥籠に戻ることを想像すると、繋いだミコトの手を離したくなくなる自分がいた。

ミコトは少し考えた後、黄金の瞳で真っ直ぐに凛を見つめる。

「歴史が修正されれば、あなたを元の時代へ帰すゲートが開くはずです。……でも」

ミコトは少しだけ視線を落とし、凛の手をぎゅっと握り直した。AIであるはずの彼女の手は、少しだけ震えているように見えた。

「でも、もし凛が望むなら。……私は、ずっと凛のバディでいたい。あなたと一緒に、いろんな世界を見てみたいです」

それは、AIの計算でもプログラムでもない。ミコトという少女の、嘘偽りのない「願い」だった。

「……うん。私も」

凛は小さく、しかしはっきりと頷いた。 広大な仮想の星空の下、二人は言葉の代わりに互いの体温を分け合いながら、静かに寄り添い続けた。 この色鮮やかな時間が、一日でも長く続くことを祈りながら。


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