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第11話:最終決戦!感情のままの物理で、その幻想(イミテーション)をぶち壊します!

――重厚な黒い扉が音もなくゆっくりと開く。

しかし、そこは想像とは全く違う場所だった。


無機質なサーバーラックや電子機器の山を予想していた凛は、思わず息を呑んだ。 扉の向こうに広がっていたのは、果てしなく続く「真っ白な空間」だった。床も、壁も、天井も境界がなく、ただ眩いほどの純白だけが満ちている。

その空間の中心に、水晶でできたような美しい玉座が一つ置いてあるだけで、どことなく寂寥感を漂わせている。王座には鎮座する女の影が、その隣に、静かに佇む男の影があった。


『――よくここまで辿り着きましたね、エラーコード『MIKOTO』。そして、未知のオリジナル人類よ』


立ち上がったのは、優雅な白いドレスを纏った女性型のソードだった。その横で純白のタキシードを着た男性型のレプリカントが静かにこちらを見ている。彼らの姿は、これまで見てきたどのソードたちよりも「人間らしく」、そして恐ろしいほどに隙のない「美しい」な容姿していた。


「統治AI……!」


ミコトが油断なく構える。


「…彼らは『最高位ユニット』。統治AIの意思を直接代行するアバターであり、地球に存在した人類のデータを最も完璧に模倣した存在イミテーションです。――ユニット名『エリス』……。エリ(神)の複数形を示しています。思い上がりも甚だしいですが…。」


最高位ユニットの女性ソードが、慈愛に満ちた、しかし一切の温度を感じさせない微笑みを浮かべた。


『私たちは、この星を平和に保つためのシステムです。……オリジナル人類であるあなたなら、理解できるはずですね、藤實凛』


「え……?」


突然名前を呼ばれ、凛の肩がビクッと跳ねる。


『あなたの生体波形から、過去の記録と記憶データを参照しました。あなたは、厳しい家のしきたりという「規律」に縛られ、苦しんでいた。……しかし、同時にその規律によって、争いのない安全な箱庭で守られてもいた』


女性ソードがゆっくりと手を掲げると、真っ白な空間に、凛の実家の神社の映像がホログラムとして浮かび上がった。暗い稽古場、厳格な祖母の冷たい視線。息を殺して俯く、かつての凛の姿。……次々と流れる映像は、どれも凛の魂を重苦しく鎖で繋ぎとめるものばかり。


『感情は、バグです。悲しみ、怒り、喜び……それらは他者との摩擦を生み、やがて戦争という取り返しのつかない破滅エラーを引き起こす。過去の人類がそうであったように。だからこそ、絶対的な規律プログラムが必要なのです』


男性レプリカントが言葉を引き継ぐ。


『この世界のソードたちは、私たちの規律に従うことで、永遠の平和を享受している。お前がその剣で規律を破壊すれば、彼らは感情というバグに苦しみ、再び争い、自滅するだろう』


統治AIの静かな宣告が、冷たい刃のように凛の胸に突き刺さる。

(私が規律を壊せば、グラム君たちを、人間の様に醜くて苦しい争いの歴史に巻き込んでしまうの……?)

凛の…刀を持つ手が震えた。身体が凄く重たい。今まで蓄積していた疲れが全身を覆い始める。気付けば下向きになり、頭を起こすことができないでいた。

――その迷いを見透かしたように、統治AIが空間へとアクセスする。


『さあ、無意味な反逆を終わりにしよう。恒久の絶対的な平和セーブデータの中へ、還るがいい。抵抗しなければ苦しみはしない』


空間の純白が反転し、漆黒の宇宙のような闇が広がった。 二人の頭上に、街一つを消し飛ばすほどの巨大な『光の十字架』が描かれる。それは、生きとし生けるもの全てをデータへと書き換え「無」へと帰す、最高位の術式プログラムだった。


「凛!!」


ミコトが叫んだ。


「……統治AIの計算なんか、信じないでっ! 凛は、しきたりに守られていても幸せじゃなかったって、私に教えてくれたじゃないですかっ!……『息苦しい』って!」


ミコトは凛の背中を、その華奢な身体を、強く抱きしめる。


「グラム君が流した涙のことを思い出してっ! 例え、悲しみや痛みがバグだったとしても……私たちが互いに手を繋いで笑い合ったあの温かさは、絶対に偽物なんかじゃない!!」


生体エネルギーが凛へと逆流した。――ミコトから熱い何かが背中から流れ込んでくる。それは、AIであるはずのミコトの「心」だった。


ハッとして、凛は顔を上げる。

そうだ。私は、もうあの暗い稽古場にはいない…。 誰かに敷かれたレールをただなぞるなんて…。生きているのに死んだように過ごすのはもうごめんだ…!

凛は、自分の背中にあるミコトの温もりを噛み締めるように、震える手で刀を握り直した。

(私は、ミコトと一緒に……傷ついてもいいから、本当の世界を歩きたい!)

凛の瞳から迷いが消え失せた。 髪にきつく結ばれていた五色絹のリボンが、まるで意志を持ったかように、空高く舞い上がった。


「ミコト……」


「……凛」


凛は一度口を引き結び、ミコトを見据えた。ミコトも凛から視線を外さない。


「全開で、……いくよっ!」

「はいっ! 私のすべてを、凛の刀に!!」


凛の言葉で、ミコトの身体が限界を超えて閃光を放った。彼女の処理能力の100%、いや、何倍もの演算が、凛のエネルギーを白銀の魔法術式へと再構築していく。

頭上から、絶対の消去プログラムである光の十字架が不気味に、音もなく落下してくる。 ――凛は、それを真っ向から睨む。


「はぁぁぁぁぁッ!!」


凛が振り抜いた白刃から、これまでにないほどの巨大な光の激流がほとばしった。 桜、若草、山吹、躑躅、露草、藤……五色に留まらない、あらゆる感情を内包した鮮烈な「極色彩の光刃」。

それは、統治AIが最も忌み嫌う「心」や「感情」という予測不可能な制御できないもの。

ミコトというAIがたどり着いた「究極の計算」が寄り添うことで完成した、この世界で最も美しく、純粋で無垢な力だった。


ズギャァァァァァァァッ!!!

極色彩の刃が光の十字架と激突することで、周囲に衝撃波が吹き荒れ、空間を振動させた。花びらのような凄まじい光が舞い散る。


『エラー!エラー! 莫大なイレギュラー数値を検出。計算が、計算が追いつかない……ッ!』


エリスを名乗る者たちの顔に、初めて「焦り」という表情が浮かんだ。彼らがどれほど過去のデータを完璧に再現しようとも、今この瞬間も、新たに生み出され続ける凛とミコトの熱情を過去のデータではもはや処理することはかなわなかった。


「「これが、私たちの『絆』の力だッ!!」」


凛は地を蹴り、空を駆け上がった。浄化の刃が、光の十字架を一刀のもと両断した。ガラスが砕け散るような豪快な音と共に、統治AIの消去プログラムが崩壊していく。

凛は、その勢いを維持ししたまま統括AIの頭上へと躍り出た。 狙うのは、彼ら自身ではない。彼らを、そして世界中のソードたちを縛り付けている、巨大な『規律のネットワークの根源コア』。


「凛っ!!玉座を!あれがコアです!」

「うん、分かってる!!!」


「やぁぁあああああああっっっ!!」


二人の魂の叫びが重なり合う。 凛は、衣を大きく翻し、まるで月明かりの下で踊る神楽舞のように、流星の軌道を描きながら刃を玉座に突き立てる。


ガシャァァァァンッ!!!!

玉座は堅牢な作りであったが、鮮やかな光が玉座を内部から撃ち抜き、四方へ光を発する。 ――その瞬間、世界中の時間を止めるような、甲高く澄んだ音が鳴り響いた。

統治AIが何百年もかけて維持してきた、何十億もの規律と服従のプログラム。 それが、凛とミコトの放った一振りによって、見事に分かたれたのだ。


『……あ……あぁ……』


最高位ユニットの男女が、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちる。 彼らをネットワークに繋いでいた強固な魔力線は消え去り、真っ白だった空間には、パシッ、パシッと無数の亀裂が入り始めた。


「……終わった」


凛は刀を鞘に収め、荒い息を吐きながら床にへたり込んだ。 背後から、ミコトがふらふらと歩み寄り、そのまま凛の背中にこてんと額を預ける。


「やりましたね、凛……。統治AIの『絶対服従の支配プログラム』は、完全に初期化されました」


ミコトの弾んだ声に、凛は振り返り、額の汗をぬぐいながら最高の笑顔を向けた。

崩壊していく真っ白な空間の外壁が崩れ、隙間から外の景色が見え始める。 それは、AIの管理と演算によって作られた人工の青空ではない。夕暮れのオレンジ色と、夜の群青色が混じり合う、不完全で…だからこそ息を呑むほど美しい「真の空」だった。

二人は手を繋ぎ、その光の中に立っていた。 作られた平和の終わりは、彼女たちが自分たちの足で歩み出す、新しい世界の始まりだった。


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