第10話:ラスボスがいる塔へ乗り込みます!鉄壁の防衛システムだって、私の管理者権限(笑)でサクッと突破しちゃいましょう
天を突くようにそびえ立つ、純白の『中央タワー』。 そこは、この世界のすべてを管理し、すべてのソードとレプリカントの命綱を握る統治AIの中枢だった。
巨大なエントランスの扉が、凛とミコトの接近に呼応するように重々しい音を立てて開く。 しかし、二人を歓迎するために開いたわけではないことは明白だった。
『――最終防衛ラインの突破を確認。タワー内の全ユニットに告ぐ。対象を排除せよ!――タワー内の全ユニットに告ぐ。対象を排除せよ!』
タワーの内部は、広大な吹き抜けの空間になっていた。
そして、その各階の螺旋回廊を埋め尽くすように、無数の影が蠢いていた。ヘルメットとマスクで顔を隠した画一的なソードと、量産型の警備レプリカントのユニット。その数は数百、数千組にも及ぶ。圧倒的な「無個性」の群れが、そこにあった。
「凛……敵の数を私のセンサーでも捕捉しきれません。統治AIは、タワー内の全リソースを私たちにぶつけてくる気です!」
ミコトが緊張した声で告げる。
彼らの一斉射撃を受ければ、塵一つ残らないだろう。絶対的な「数」という暴力。それは、AIが弾き出した最も確実であり、最も冷酷な回答だった。だが、無数の銃口と魔法陣を一斉に向けられても、凛の足は一歩も引くことは無い。
「ミコト。私の呼吸に合わせて!」
凛は刀を正眼に構え、全身全霊を込めて――深く、長く息を吸い込んだ。
「……はい! 凛の発する熱は全て、私が受け止めます!」
ミコトが凛の背中に手を添えると、凛の身体から規格外のエネルギーが立ち昇った。
色鮮やかな絵の具のように立ち昇る、圧倒的な生命エネルギー。それはまるで、灰色の世界をすべて塗り替えてしまうかのような、極彩色の奔流だった。
『全ユニット、一斉掃射開始――』
無数の魔法の弾丸が雨の様に四方八方から凛たちに向かって降り注ぐ。 それに対し、凛は低く構えると、大地を蹴って真っすぐに跳躍した。
「はぁぁぁッ!!」
ミコトが空中に不可視の足場を作り出す。 凛はその足場をタンッ!と駆け登りながら、五色の刃を流れるように振るった。
凛の動きは、もはや「戦闘」という枠を超えていた。彼女が刀を振るうたび、灰色の無機質なタワーの空間に、五色の光の軌跡が鮮やかに引かれていく。 それはまるで、何もない真っ白なキャンバスに、筆を躍らせて美しいイラストレーションを描き上げているかのようだった。
「そこっ!」
背後から迫りくる炎柱を、凛は振り返ることもなく断ち切る。それはミコトとの「信頼」の上でなせる業だ。
(右後方から敵機接近! 凛、お願いします!)
(分かってる!)
ミコトは凛の感情の機微を完璧に読み取り、次々と空間へ魔法障壁や、加速のための足場をレンダリングしていく。敵の放った氷塊すらも、ミコトが瞬時にハッキングして凛の踏み台へと変える。凛の舞と、ミコトの演算が、まるで一本の糸で結ばれたようにシンクロしていた。
シャァァァンッ!! パリィィン!!
鍔の神楽鈴が魔を祓う音色を響かせ、迫り来る敵の弾幕を次々と花びらのように斬り散らしながら、凛はタワーの螺旋階段を瞬く間に駆け上がっていく。
量産型レプリカントたちが次々と機能を停止し、魔力線を断たれたソードたちが、まるで魔法が解けたようにその場に崩れ落ちる。
「ごめんね!……あとで必ずみんな自由にするからっ!」
凛は決して彼らの命を奪わなかった。 統治AIからの「支配」という繋がりだけを正確に断ち切り、ただひたすらに上へ、上へと昇っていく。
「信じられない……」
ミコトは凛の背中を魔法で押し上げながら、驚愕と歓喜の入り混じった声を上げた。
「敵の予測プログラムが、私たちの動きに全くついてこれていない。……二人が手を取り合うと、こんなにもすごい力になるんですね!」
「ミコトが一緒にいてくれるからだよ! 一人じゃ、こんなに高く跳べない!」
空中で反転しながら、凛の笑顔が弾けるように咲いた。本当の自分を解放した少女の笑顔は、どんな光よりも眩しく、力強かった。
『緊急事態!第50階層突破。第70階層突破。――防衛ライン、崩壊』
無機質なアナウンスが、ノイズを帯びたエラー音を発している。 どれだけ敵AIの演算が完璧であったとしても、二人の「絆」が生み出す奇跡は、誰も止めることができなかった。
やがて、 無数の敵を掻き分け、光の軌跡を描きながら駆け上がった二人の前に、重厚な黒い扉が立ちはだかった。 タワーの最上階。統治AIのメインコアが座す、心臓部への入り口だ。
荒い息を吐きながら、凛は刀の血振るいをして鞘に収めた。
隣に立つミコトも、演算能力を極限まで酷使して息を弾ませてはいるものの、その黄金色の瞳には強い決意の光が宿っていた。
「……ここまで来ちゃったね」
「はい。この扉の向こうに、この世界のすべての規律を操る統治AIがいます」
凛は、自分の右手をそっと差し出した。 ミコトは優しく微笑み、その手を自分の両手でしっかりと握りしめる。……二人の鼓動が温かく、一つに重なる。
「怖い?」
凛が問いかけると、ミコトは首を横に振った。
「ううん。凛と一緒だから、大丈夫です。……さあ、行きましょう。この偽りの世界に、本当の『心』を届けるために」
二人は繋いだ手を離さぬまま、ゆっくりと、最後にして最大の敵が待つ黒い扉へと足を踏み出した。




