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第9話:最強のバディ結成で、絶望的な未来のプログラムをゴリ押しで上書きしちゃいます!

地下からの階段を上りきると、冷たい雨の降る灰色の街が再び姿を現した。

瓦礫の山の上に、無骨なハンドガンを構えるイブと、星図の扇子を広げるツクヨミ――特務処刑ユニットの二人が、彫像のように静かに佇んでいた。 彼女たちの冷たい瞳が、地上へ生還した凛とミコトを捉える。


「……馬鹿な。対象MIKOTOの生存確率は0%だったはず。論理的矛盾パラドックスにも程があるわ」


ツクヨミが扇子を持つ手を震わせ、信じられないものを見るように目を細めた。 これまでの彼女なら即座に追撃の魔法を展開していたはずだが、完璧な計算回路を持つがゆえに、目の前のあり得ない光景に微かなフリーズを起こしていたのだ。


「マジ? あの直撃食らって生きてたわけ、お姉さん? どんだけしぶといのよ」


イブも忌々しそうに舌打ちをする。

機能停止寸前だったはずのミコトの装甲は、凛の莫大な生体エネルギーを受けて白銀に輝き、完全に修復されている。それどころか、凛とミコトの間には、目視できるほどの五色の光の粒子が、まるで互いの呼吸を合わせるように脈打っていたのだ。


「不思議ですか、ツクヨミ。あなたたちの計算式にない答えが、ここにあることが」


ミコトは凛の隣に立ち、まっすぐに姉妹機を見据えて言った。その声にもう迷いはない。


「統治AIの規律だけが正しい歴史だなんて、間違っています。私たちには、計算で測れない『心』がある。……それを今、証明してみせます!」


「戯言を! 不良品はさっさとスクラップになるがいいわ!」


ツクヨミが扇子を鋭く振り下ろし、イブがトリガーを引いた。 イブから供給された絶大な生体エネルギーを、ツクヨミが瞬時に変換する。イブの銃弾を核にして、上空の雨粒が凶悪なクリスタルの刃へと変貌し、さらに足元からは重力の泥濘が凛たちの自由を奪おうと展開された。

天地を塞ぐ、逃げ場のない絶対の処刑魔法。 だが、凛は逃げなかった。ゆっくりと深呼吸をし、腰の白刃を静かに抜き放つ。

(もう、怖くない。私が私である限り、誰にも縛られたりはしない!)

凛は、雨に濡れた自分の髪を邪魔にならないように高く結い上げ、腰の五色の帯をきつく締め直した。前髪で視線を隠し「普通の女の子」を演じていた凛はもういない。そこにあるのは、自らの意志で剣を取り、大切なパートナーを守るために舞う、気高く美しい巫女の姿だった。


「ミコト、行くよ!」

「はい、凛!!」


凛が足元の重力場を力強く蹴り上げる。同時に、ミコトのヘッドギアが鮮烈な青白い光を放った。

ミコトは今回、敵の魔法の軌道を一切計算しなかった。彼女の膨大な演算能力のすべてを、ただ一点――「凛の情熱と生命エネルギーを、いかに美しく、いかに強く空間にデザインするか」のみに全振りしたのだ。


「私のすべては、凛の熱を具現化するためだけに!」


刃に、ミコトの魔法が宿る。 それは統治AIのプログラムを通して具現化する氷や炎でもない。それらを根底から書き換える、凛の生体波形そのものを刃に変えた「五色の光刃」だった。


「はぁぁぁッ!!」


降り注ぐクリスタルの刃の豪雨に対し、凛は舞うように刀を振るった。 右から左へ、流れるような袈裟斬り。下から上へ、重力すら切り裂く迷いのない太刀筋。凛の踏み出す足運びは、祖母に叩き込まれた藤實家に代々と続く型ではなく、ミコトと笑い合った仮想空間での星空の瞬きにも似た、自由で感情的なステップだった。


ガキンッ! パリィィン!!

五色の刃が触れた瞬間、ツクヨミの完璧な魔法は次々とエラーを起こし、ただの水滴と無害な光の粒子へと還元されていく。


「警告! 対象の接近速度が、予測限界を超過! 迎撃プログラムが追いつかない!」

「チィッ! なら出力最大! 力技で蜂の巣にしてやるよ!!」


焦ったツクヨミが空間圧縮バリアを何層も展開し、イブが銃身を焼き付けながら連射する。 しかし、今の凛とミコトの繋がりは、特務ユニットの「完全で完璧な同期」ですらも遥かに凌駕した。

(凛の次は、こう動く!)

(ミコト、そこにお願い!)

言葉を交わす必要はなかった。 凛が空中に踏み込む瞬間、即座にミコトが空間に足場を作り出す。凛の斬撃が届かない距離なら、ミコトが刃の光を延長することでイブの弾丸を薙ぎ払う。

互いの欠落を補い合い、一つの美しい『舞踊』として完成された攻撃。それこそが、心と心が真に重なり合ったバディとしての姿だった。


「これで……終わりだあああああぁッ!!」


凛の身体が、五色の光の尾を引きながら空高く宙を舞う。 何十層にも重なったツクヨミの展開したバリアの頂点へ、凛の全存在を懸けた一撃が振り下ろされた。


ピシャァァァァンッ!!!

凄まじい衝撃音と共に、絶対破られないはずの幾何学バリアが、まるで薄氷のように粉々に砕け散った。


「……ッ!?」


ツクヨミとイブの瞳が、驚愕に見開かれる。

凛の刃は、二人の身体を傷つけることなく、彼女たちの間で強固に結ばれていたネットワークの「魔力線」だけを鮮やかに断ち切った。

接続を強制切断された二人は、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちてしまう。 空には重苦しく覆っていた灰色の雲が、彼女たちの敗北に合わせるようにゆっくりと晴れていく。


「……計算外……。なぜ、機能が、停止しないのだ……?」


倒れたツクヨミが、かすれた声で呟いた。統治AIの直属である彼女たちは、致命的な敗北を喫すれば自動的に自爆プログラムが作動するはずだった。


「私が、自爆プログラムのコードだけをハッキングして書き換えました」


ミコトが静かに歩み寄り、姉妹機を見下ろして告げた。


「…死なせません。あなたたちも、この世界で生きていく新しい命ですから」


イブが、ゆっくりと自分の手の甲を見た。彼女を縛っていた赤い紋章は、凛の斬撃によって砕け散っている。


「……いっつ。何これ……超痛いんだけど」


イブが、擦りむいた自分の頬に触れて、顔をしかめながらこぼした。それはプログラムされたダメージ報告ではなく、彼女が初めて感じた「痛み」という感情だった。 隣で倒れているツクヨミも、なぜか胸の奥がチクチクと痛むのを感じて、戸惑うようにそっと胸元を抑えている。

凛は刀を鞘に収め、彼女たちに向かって優しく微笑んだ。


「もう、統治AIの命令に縛られなくていいよ。……痛いのも、戸惑うのも、あなた達が自分自身の心を手に入れた証拠だから」


雲の切れ間から、作りものではない、本当の太陽の光が差し込んできた。 雨上がりの中、水たまりに反射する光がキラキラと輝いている。

凛とミコトは顔を見合わせ、深く頷いた。 二人の視線の先には、この街のすべてを管理する統治AIの中枢――天を貫く巨大な『中央タワー』がそびえ立っている。


「行こう、ミコト。みんなを自由にするために」


「はい、凛! どこまでも一緒に!」


真のバディとなった二人は、迷うことなくタワーへと歩みを進めた。 世界のシステムを根底から覆すための、最後の戦いが始まろうとしていた。


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