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15-4.

「……無事で良かった」

「公主閣下……!」

 互いに求め合うかのように駆け寄る。

 そして向かい合うと、アルベルトがアンネリーゼが刃をあてられた頬をそっと指の腹で撫でた。

「傷は付いていない? 痛む?」

「痛くないけど……ふふっ、くすぐったいです」

 首を竦めて笑う様子に、ようやくアンネリーゼの緊張がほどけたのを見て取って、アルベルトはようやく安堵のため息をつくのだった。

「……怖い思いをさせてごめん」

「大丈夫です。……ちょっと、怖かったですけど」

 アンネリーゼがおどけて顔をしかめる。

「肌に傷が付くことが?」

「違います……。本当に、公主閣下が迎え入れて下さるのかなって……」

 おずおずと上目使いに尋ねる。

「アンネリーゼ。美しい青き宝石。……私のものになってくれないか」

「本当に私で良いのですか?」

「ああ、君が良い。私の妻になってくれ、アンネリーゼ」

「は……い……。公主、閣下……」

 アンネリーゼの返答に、アルベルトが破顔する。そして、さらなる要求をする。それはずっと彼が望んできたことだった。

「違う、アルベルトだ。そう、呼べ」

 クイ、と(おとがい)に指を掛けて、目と目を合わせる。反対の手で腰を引き寄せる。

「アルベ……ルトさま」

「さま、はいらない。もう一回」

「アルベルト……!」

「ああ、私だけの青き宝石、私のアンネリーゼ!」

 アンネリーゼは唇にキスが来ることを覚悟して、瞳をつむった。しかし、温かく弾力のあるものが触れたのは、額だった。

 アンネリーゼは、瞳を開いて戸惑いがちに、目をぱちぱちさせる。そして、じっとアルベルトを見た。

「あれ? 唇が良かった?」

「え……ええっと……」

 羞恥で真っ赤になるアンネリーゼを見下ろして、満足そうにアルベルトが笑う。

 そんな中、コホン、と咳払いの音が部屋に響く。

 この家の主にしてアンネリーゼの父、バルタザール・バーデンだ。

「我が娘を助けていただいたこと、また、お互い相思相愛になりましたこと、おめでとうございます。ただ、我が家はしがない男爵家に過ぎません。なんの計画もなく娘をただ嫁入りさせることは少々軽率に思いますので……」

 そういって、バルタザールはアルベルトに頭を下げた。

「……そうだな」

 アルベルトはバルタザールに応えるように、アンネリーゼを解放する。離れた身体は少し寒く感じて、アンネリーゼは心細げな表情を見せる。

「大丈夫、アンネリーゼ。悪いようにはしないから」

 バルタザールがアンネリーゼに近づいていって、その肩を優しく叩く。

「そうよ。元名宰相のお父さまのことですもの。きっと上手くやってくださるわ」

「おねえたま、ボクたち、ついてゆ~」

「あたちも、ついてゆ~」

 お母さまが私の背を優しく撫でてくれ、幼い弟妹たちが私のスカートの裾を掴んで励ましてくれる。

「みんな……」

 アンネリーゼは心強くもあったけれど、それよりも胸が熱くなって、それが涙になってこみあげてきて、瞳から溢れて頬を伝った。

「アンネリーゼ。私のアンネリーゼ。必ず迎えに来るから」

「アルベルト……。はい、信じて待っています」

 そうしてアルベルトを見送って、バーデン家の長い夜は終わったのだった。


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