15-1.令嬢と恋模様
「まったく、横でみていてヒヤヒヤしたよ」
自宅に帰ってきた、お父さまの第一声がこれだ。
「確かにあなたはもう十分に結婚しても良い年頃を過ぎているわよ? というか、婚約破棄されたタイミングが悪かったってくらいに十分に婚期ね」
お母さまは前向きなようだ。
「でも、子供の頃の話だし……」
「公主閣下は、アンヌがこの国に来ると決まったときから心に決めていたといっていたじゃないか」
お父さまもこの申し入れに前向きのようだ。
「昔、アレクサンドラのパーティーで、デラスランド公国の公子とお会いしたでしょう? あの当時の公子殿下は寂しかったと思うわ。そこに、アレクサンドラがアンヌを差し向けた。きっと公子殿下は嬉しかったと思うわ」
お母さまの言葉を聞きながら、この国に来るときに、その小さな頃の記憶を思い出したことがよみがえる。
お母さまがにっこり笑う。
「『バーデンの青い宝石』そうアレクサンドラが名付けた日のこと。あのときの少年が、公主閣下だもの」
そんなとき、マリアが小さな花束と小箱を持ってやってきた。
「アンネリーゼさまに、公主閣下からの贈り物が届いています」
恭しく渡される。
──プレゼントって、さっきあったばかりじゃない!
「まださっきあったばかりなのに……」
私はそう呟くと、お母さまがにっこり笑った。
「前々から用意していて、タイミングを図っていたんじゃないの?」
私は頷いて、まずは花束を見る。希少な青いバラとかすみ草の花束だ。きっと、私の髪色と瞳の色に合わせてくれたのだろう。花束には、小さなカードが挿さっていた。
「わぁ、綺麗……」
それは、アクアマリンの連なったネックレスと、イヤリングのセットだった。アクアマリンは、夜会での屋内での光によく映えるので、女性に好まれる宝石のひとつだった。これもきっと私の瞳の色にちなんでいる……。
「……素敵。こんなネックレスにイヤリング、急に用立てなんてできないわよね」
もちろん既製品だってある。けれどそういったものはわりあいそれなりに落ち着きぎみだ。でも、私に贈られた品はまさに私にぴったりの品だった。
次に、花束にさされていたカードを見る。
『幼き日に、私を喜ばせてくれた君に』
きっとあの日、まだ幼かった公主閣下は、外国語を話す大人ばかりに囲まれて、心細かったに違いないわ。そこに現れたデラスランド語を話す私が癒しになったのね。
少しずつ、またあの日の思い出がよみがえってくる。
私は、贈り物を胸に抱いた。
「お話をお受けするのかい?」
お父さまが尋ねてくる。
そんなとき、扉が開く音がした。そこに立っていたのは我が家の執事長のレオナルドだった。
「お集まりのところ申し訳ございません。急を要すということで、バウムガルデン王国から早馬が到着しております。封書はこちらです」
「いまさら、バウムガルデンから!?」
お父さまが眉間に皺を寄せながら、その封書を受け取る。封書は二通。一通がお父さま宛て、一通は私宛て?
「え? どうして私にアレクサンドラ女王陛下から手紙が届くの……? って、あ。違う……」
それは、エリアス第三王子殿下からの手紙だった。
「……子供の頃から好きでした……? よく一緒に遊んでくれた『おねえさま』が好きでした。兄上と婚約が決まったから、心にしまっていましたって……」
私はうろたえる。なぜ立て続けにこんなに婚約の申し入れがあるのだろう。
──しかもどっちも似たようなシチュエーション!
って、自分で突っ込んでいる場合じゃないのよ。混乱して頭がどうにかなりそうよ!
「王太子妃はアンネリーゼと決めているっていうのは光栄だけれどね。あっちがダメならこっちって、私の娘はモノじゃないんだ!」
お父さまの封書はアレクサンドラ女王殿下からのものだったらしい。お父さまが中身を見て憤慨していた。
「自分が王太子になるから、その婚約者になって欲しいって……。戻ってきて欲しいって……。でも私、エリアス殿下のことは弟のようにしか思えない……」
「弟としてしか思えないならそう答えたら良い! 本当にお前を大切に思っているなら、それ以上の無理強いはしないはずだ」
お父さまはそういうけれど……。
「おねえたま?」
「おねえたま、だいじょぶ……?」
部屋の中の喧噪に、幼い双子たちがおびえながらも私を思いやってくれた。
「エルマーにアルマ、ありがとう」
私は双子たちをぎゅっと抱きしめる。感謝の気持ちを込めるのと同時に、彼らの優しい温もりが私の心を癒やしてくれた。
そして、ようやくどうしたいのか心が決まる。
私はひとつ深い深呼吸をしてから、口を開いた。
「私、少し考えたいです。……公主閣下のことも、エリアス第三王子殿下のことも……」




