13-2.
「私に、軍事大国ハイデンベルグとの国境沿いでの戦いに赴けとはどういうことですか!」
まだ廃嫡を宣言されていない王太子カインが叫ぶ。
腰巾着のように彼にくっついているサラサは、「ハイデンベルグ」と聞いて顔を青くしていた。
王太子カインルートでも、ハーレムルートでも、バッドエンドのフラグを踏むと、王太子カインは廃嫡され、「ハイデンベルグ」との国境沿いの戦場に送られる。そこは勝利も敗北もない永遠の戦場。死のバッドエンドだ。当然彼は帰ってこない。
──なにを間違えたの? ゲームの攻略方法のとおりに全部フラグ管理やったはずだし、全部全部間違えていない。あの悪役令嬢だってちょっと状況は違うみたいだけれど、上手く排除できたじゃない!
サラサは混乱していた。
──なにも私は間違えてない。私は攻略本のとおりにやったはず。なにも間違ってない。なにも違ってなんか……!)
──あ、ヤっちゃったんじゃん!
イレギュラーだとしたら、王太子カインと、サラサとの間にできた子供の存在である。
──でも、いくら冷徹らしい女王陛下だろうと、あの人からしたら私の子は初孫でしょ……! その父親に死んでこいみたいな発言あり得ない……!
サラサは勘違いしていた。以前、女王と枢機卿にいわれていたにもかかわらず、だ。
「女王陛下! 発言をお許し下さい!」
サラサにしては、少し学んだのかへり下って発言を許されるのを待つ。
対して女王は、嫌そうに眉根を寄せたが、しばらくしてから、「許す」と一言答えた。
「女王陛下、お忘れでしょうか? 私のこの腹の中には、尊き王太子殿下のお子がおります」
「ふむ。そうらしいな」
サラサの訴えに、まるで第三者の興味なき事柄のように相づちを打つアレクサンドラ女王。
「そうだな。ならばひとつ、課題を出そう
……二人揃って、いや」
言葉を切って、女王がニヤリと笑う。
「三人揃って戦地に赴き、勝利を挙げてこい。そなた、聖女ならば癒しの光の力で戦場の状況を変えることもできるであろう。それまで帰ってくるな。その間、王太子は第三王子エリアスとする」
「な……!」
「お腹には、子が……!」
「枢機卿もいっていたはず。王太子の妃となるにはそのときに純潔であることが必須。そなたも王太子の花嫁としての条件を既に失っているし、その腹の子は永遠に誰の子でもない庶子に過ぎないのだよ。だが、彼の戦を勝利に導いたらどうだ? 新なる聖女、新なる聖女の子として認めんこともない」
「……そん、な……」
ガクリ、とサラサが床に崩れ落ちる。
「だったら! だったら、私は戦場になんて行きません!」
「なっ」
今度は愕然とした顔でカインがサラサを見下ろす。
「一緒に死んでたまるもんですか!」
「──はっ」
愉快そうに赤の女王が笑った。
「最後の慈悲だったのに、のう。もし『ともに行く』といえば、考え直さなくもなかったのに」
赤の女王がもう用は済んだと視線を王配エドワルドに移し、手を差し出す。
「行くぞ」
「はい」
王配エドワルドに捕まれた手で、彼を引っ張ると、彼の身体のバランスが崩れ、アレクサンドラ女王に覆い被さる形になる。
「……」
見せつけるように口づけたあと、赤の女王は王配エドワルドとともに部屋をあとにし、残されるのは、カイン第一王子とサラサだけだった。




