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11-2.

 と、すると。

「子供用ピアノ!?」

 たまたま側にいた男性が、大きな声を出す。

「子供用のピアノがあるんですか!?」

 その男性は、子供用サイズのバイオリンが入っていそうなケースを手に持っていた。

「いえ、作っていただこうかと、こんな発案を持ち込んでいたんですが……。もっと本格的なものじゃなくていいのかという話になって、今回はいったん話を保留にしていたところなんです」

 と、そこでエッドガルドさんが待ったを入れる。

「はい、すでにこれは我が商会で受け入れておりますので、特許申請、製造云々の横槍はご遠慮願いますよ?」

 はい、しっかり商売人です。エッドガルドさん。

「いやいや、うちにそんな力はないよ。しがない音楽一家だからね」

 そういって、小さなバイオリンケースを掲げて見せる。

「これは息子のなんだ。こちらでようやく息子にサイズがあうものを用立てしてもらえたので、受け取りに来ていたんだよ。それにしても、来て良かったよ!」

「そうでしたか……って、え!?」

「子供用ピアノ、ぜひ開発して下さいよ! 私はふたりの娘のためにおもちゃのほうも、本格的な練習用のほうも両方欲しい! 完成のあかつきには、ぜひ、両方買わせていただきますので!」

 ……と、熱心に請われてしまった。

 どうもよくよくお話を聞くとこちらの男性は、先ほど自己紹介があったとおり、とある貴族さまお抱えのバイオリン奏者なのだそうだ。そして、奥さまはピアニスト。

 夫婦の願いとして、長男、長女、次女の三人いる子供たちには、自分達と同じように、それぞれ男の子にバイオリン、女の子にはピアノを嗜んで欲しいと望んでいるらしい。

 けれど、バイオリンは子供用のスケールのものがあるからいいものの、五歳の長女と、三歳の次女には大人用のピアノでは大きいしなにより鍵盤が重い。娘たちには少々酷だろうと、レッスンの開始時期を見合わせていたのだそうだ。

「だが、子供用ができるならぜひ娘たちに習い始めさせたい。あの子たちも、母親が弾いているのをみて、うずうずしているんだ」

 それを聞いて、私は少し安心する。なにをかというと、ピアノを早いうちから習わせるのが親の押しつけだったらいやだったからだ。アルマのように、「おかあさんのように、ひきたい」のであれば、嫌という理由はない。

「エッドガルドさん……」

「……アンネリーゼさま」

「「作っちゃいましょうか!」」


 ……というわけで、作ることで即決した。ちなみに、音楽家一家の男性はドイル氏。すでに三歳児の娘さんのおもちゃのグランドピアノと、五歳児の娘さんの子供レッスン用グランドピアノの予約契約を締結済みである。

 ……早い。

「あのねえ、エッドガルドさん。軽く、小さく作る方が難しいんですよ!」

「全くもう」と文句をいっているのは、今回楽器製作者に選ばれた技師で怒りをエッドガルドさんにぶつける。

「そこをなんとか。子供たちがピアノを弾きたいと願っているんだよ」

「しょうがねえなあ」

 子供が、といわれちゃ敵わない、とばかりに肩を落とし、工房に入っていった。

「うちはどうしようかしら……?」

「うちはといいますと?」

「アルマ用に、どちらを買い求めようかと思って……」

 すると、うーんと顎を手の平で撫でたあと、ポンッと手の平を拳で打つ。

「両方お持ち帰りになって、試していただいて、アルマさまの欲しい方をお買い求めになったらよいのでは?」

「いいの?」

「もちろんです」

 そうして、トントン拍子に話は決まる。


 ◆


 そういうわけで、お言葉に甘えて試作品を両方持って帰ってきた。

「ねえアルマ。こっちとこっち、どっちが良いかしら?」

「アルマ、おかあさまとおんなじ、いっぱいのがいい~?」

 アルマは本格仕様のほうがお好みだったらしい。

「アルマだけ、おねえたまからプレゼント、ずるいぃ~!」

 おもちゃのピアノと子供用ピアノの両方が届いたその日、アルマとエルマーの声が大合唱して頭に響く。

「こらこら、エルマーにアルマ、落ち着いて」

 私が止めるのも聞かず、すでに蓋を開けて、ポンポンとなにがしかを弾き始める。

 ──ちょっと待ってアルマ、それ借り物なの~!

 その横で、高音部でじゃんじゃんとエルマーがアルマの邪魔をする。あれです、混乱する小学校低学年が支配する音楽室の様相です。

「もぉ、じゃま、しないでよぉ、エルマー」

「アルマだけ、ずるいもん~」

 ぷぅ、と頬をふくらませるエルマー。

 そんなエルマーの正面に回って、私は彼と彼の目の高さを合うようしゃがみ込む。

「アルマだけ、ずるい?」

「うん」

 ぐず、と鼻に涙声の混じった声で答えるエルマー。

「アルマだけ、だからなのかな? エルマーも、ピアノが欲しいの?」

「……ううん」

 すると、意外にもふるふると首を横に振る。

「アルマだけ、がっき、もらえて、ずるい、っておもったの」

「そっかぁ」

 私は、目に涙が滲んできたエルマーを抱きかかえ、そしてその背をやさしくぽんぽんする。

「エルマーはなにが欲しかったのかな?」

 そう聞くと、ガバッ!とくっつけていた身体を離して、エルマーが目をまん丸にして私を見つめる。

「ボクも、いいの?」

「もちろんよ」

 ──いろんなものの権利金でお金があるから、多分約束を破ることにはならない……よね?

 私は、よしよし、とエルマーの幼児特有の細い髪を梳きながら、「ゆっくりでいいよ、なにが欲しいの?」とささやきかける。

「……バイオリン」

「え……?」

「おとうさまの、バイオリン。おかあさまの、ピアノ。とってもすてき」

「うん、とってもすてき」

 そこに、アルマが声を合わせてくる。

「アルマはピアノを」「エルマーはバイオリンを」

「「おとうさまと、おかあさまの、けっこんきねんびに、きかせてあげたいの」」

 その願いを聞いて私は感動する。

 なんて素敵な双子たちなんだろう。そう思うと胸がいっぱいになって、二人まとめてぎゅっと抱きしめた。

「二人の願いはお姉さまが叶えてあげる。ピアノもバイオリンも買ってあげるわ」

 抱きしめながら約束する。

 それは三人の約束。

 その約束が叶うのは何年後になるのだろう?

 三年後? 二年後? それとも一年でできちゃう?

 今日もうちのリビングにはたどたどしい演奏の音がする。

 私は、新しい発明とともに、新しい約束と夢を作ったのだった。


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