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5-7.

 そうしてやってきたその日。

 お母さまが、国をまたいでの引っ越しを終えてから早々に交友を築いた貴族の奥様方を、お茶会と称して我が家に招いた。

 この国では男爵夫人とはいえ、お母さまはそもそもバウムガルデンの王家に連なる血筋の生まれだ。さらに、今在位中のアレクサンドラ女王陛下の従姉妹だ。

 貴族夫人の上から下まで、早々に友好関係を築いているのだそうだ。

 だからだろうか。お庭で開くことにしたお茶会にも、かなりの数の婦人たちが招かれてきていた。

「まあまあ、お庭の手入れもよく行き届いてますのねえ。ただ、デラスランド公国の様式とは少し違う箇所がありますのね?」

「あら。よくお気づきで! そのご指摘通りですのよ。前いたバウムガルデンの庭師がついてきてくれたので、彼に任せているのです。それで、バウムガルデン王国様式とデラスランド公国様式の良いところを、場所によって使い分けておりますの」

「まあ、それで。私、バウムガルデン王国には行ったことがないのですが、こうしてみると、とても洗練された庭造りをなさるのね」

 とある貴族夫人は庭を褒める。

「まあ、このお茶はとても香りが良いわ。どこで手にお入れになったの?」

「ああ、それはデラスランド公国でも一番の茶園といわれているものを用意いたしましたの。デラスランドは茶葉栽培がとても盛んなようですのね。嬉しいですわ。奥様にも、あとで購入できる店をご紹介しますわ。ぜひ、ご自宅でもお楽しみくださいね」

 さすがは社交の天才のお母さま。すっかりこちらの婦人も味方に入れつつある。

 そんな中、エルマーとアルマが、例の貴族用の絵本を広げて読み上げている。

「あらまあ。まだ小さいのに、本を読む真似を……って、え? まさか自分たちで本を読んでいるの!?」

 その声に、奥さま方がエルマーとアルマに視線を向ける。

「おうじしゃまは、ねむったままの、おひめしゃまに、そっと、くちづけをしました」

「すると、なんということでしょう。ねむっていたおひめさまの、めが、ひらいたのです」

 とある有名な物語をもとに、エッドガルドさんに作ってもらった、豪奢な装丁の絵本を、ふたりは交互に読み上げていた。口調はまだまだ舌っ足らずだけれど、むしろそれが愛らしい。

 日本にひらがなと漢字があったように、この国にも、平易な文字と、特に書類などで扱われる難解な文字がある。彼らが読んでいるのは、平易な文字だけで書かれたものだった。

「凄いわ。うちの子とそう変らない年頃なのに、本を読むことができるなんて!」

「ねえ、エミーリアさま。あんな本は私見たことがありませんわ。あの本はどこで手にお入れになったの?」

 その言葉をきっかけに、視線がお母さまに移る。

「この本でしたら、最近エッドガルド商会で扱うようになったそうですよ。なんでしたら、商会の連絡先をお教えしましょうか」

 もともと、お母さまには私の発案であることは公にしないで欲しいとお願いしておいたので、お母さまはそのとおり、そこは割愛してくれた。

「私も欲しいです! ぜひ、教えてくださいませ! うちの子にも家庭教師を付けたばかりなのですが、なかなか勉学に興味を持てないらしくて……でも、これでしたら、遊びの延長で楽しんで学んでくれそうですわ!」

「私も!」

 というように、お茶会は絵本が話題をさらって、賑やかに終わった。

 ちなみに、私が発案者だとでしゃばらなかったのは、目立ちたくなかった、ただそれだけである。お母さまのように、あの奥さま方にスマートに対応できるとは思えなかった、ただそれだけだ。もちろん、妃教育を受けていたから、できるにはできる。だけれど、そのあととても疲れるのだ。

 絵本のお披露目をする前には、商人ギルドに特許と著作権は申請を済ませている。

「目立ちたくない、嫌だ」と駄々をこねる私を、お父さまとエッドガルドさんに諭されて、私の名前で登録することになった。

 やがて、貴族向けの本は、お母さまがお招きした貴族の奥様の口から口へ伝わっていき、エッドガルドさんが悲鳴を上げるほどに注文が来た。さらに製作者たちをも巻き込んでの大騒動になった。一時は注文に応えるために、寝食を削った絵師もいるらしい……。

 ごめんなさい。

 それじゃあブラック労働よねと、謝罪と反省の言葉を伝えたところ、エッドガルドさんや絵師さん、文字書きさんたちは笑顔で対応してくれた。

「いやあ、今年の冬、どうやって子供に食べさせるか、ストーブ用の薪の費用をどう稼ごうかと悩んでいたところなので! まあ、一時の繁忙期くらいは耐えてみせます。家族のためでもあるんですから! それより、お嬢さま! この仕事を生んでくださってありがとうございます! この仕事があれば、この仕事にかかわるみなが、安定した収入が見込めますし、パトロンがいなくても家族を養っていくことができます!」

 彼らのいうように、注文はまだ続いている。いっときのブームでは済まなかったのだ。目新しい子供の知育用品(絵本)は、出産祝いやらお誕生日のプレゼントなどに贈るものとして定着したのだ。

「そういってくれて、私も嬉しいわ。これからも頑張ってくださいね」

「「はい!」」

 労働者となった人々は、感謝こそすれど、文句はないようである。

「お嬢さまも、新しいお話をお待ちしておりますね!」

「あ、しまった……」

 私は、絵本製作には携わらないものの、物語を考えるという仕事ができたのだ。

 まあでも、困っている人たちの役に立てるのならいいか。

 私はほっとして帰宅したのだった。


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